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第11章
第275話
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「いや、お前まだ15だろ? この国では10代は戦いに出さないって話なのはお前の方が分かっているだろ?」
「それは……」
エナグアで寝起きする場所として、ある兄弟と同居をしているケイ。
その兄弟の兄の方であるオシアスが、指導をしてほしいと頭を下げてきた。
色々あったらしく、この兄弟の両親はもう亡くなっている。
ケイの世話係の仕事も、弟と暮らしていくための資金稼ぎに手を上げたと言う所がある。
そのため、最初のうちはケイに対して何の感情も見せていなかったように感じる。
弟のラファエルとは違い、ただ仕事として割り切っていたようだが、ケイの実力を聞いて何かが変わったようだ。
ケイとしても、魔力操作技術が上達しやすい若いうちから指導をしたいところだ。
しかし、最初に10代の若者を戦いに参加せないと言われているので、教えるのは躊躇われる。
ケイにやんわり断られたオシアスは、それ以上言い返すことができずに俯いた。
「まさか、親父さんの敵討ちがしたいとか思っているんじゃないだろうな?」
「……聞いたのですか?」
ラファエルを産んで少しして彼らの母は亡くなった。
そして、1人で兄弟を育てていた父は、魔人の誘拐を企てた人族によって殺害された。
簡単に聞いた話だとそういうことらしい。
人族との戦いが近い今、何としても強くなって父の仇討ちに人族を殺したいと考えているのではないかとケイは思った。
自分の家のことをケイが知っているとは思わなかったため、オシアスは質問で返す。
「世話になるんだ、少しは知っておこうと思ってな……」
実際の所は、ケイが聞くより先にバレリオが話してくれたというのが正しい。
兄弟二人きりの所に要人であるケイを頼むなんて、失礼に当たる気がした。
しかし、ケイがどこか空き家でも貸してもらえたらいいと言っていたので、訓練場から近いところを探していたらオシアスが立候補した。
ケイもそこで良いと了承したとは言っても、その家のことを説明しない訳にはいかない。
なので、本当に最低限教えてもらったといったところだ。
「たしかに父の仇を討ちたい気持ちはあります。しかし、それ以上に今のままではラファエルを守れないと思ったのです」
彼らの両親のこともそうだが、彼らのことも少しは聞いている。
10代の若者に実戦はさせないが、訓練はさせている。
その中でオシアスは普通といった成績。
魔物の討伐という、この国では花形の仕事ができるとは思えない。
恐らくは、何かの商売をして働くしかない所だろう。
そうなると、オシアスの場合はどこかで雇われて働くことになるだろうが、はっきり言ってどこで働こうと裕福な暮らしは不可能だろう。
何せ人がいないから、物を買う人間も少ないのだから。
そうなると、確かにまだ小さいラファエルを育てるのは苦しくなる。
言い分としては正しい。
「……とりあえず、バレリオに聞いてみるよ」
「はい。お願いします!」
どうせバレリオが止めるだろうという思いがあったため、ケイは打診するだけ打診してみることをオシアスに約束した。
まだ望みがあるからだろうか、ケイの言葉にオシアスは嬉しそうに頭を下げ、夕食の準備を始めたのだった。
「構いませんよ」
翌日、いつものように訓練場に行くと、バレリオが一番乗りで自主練をしていた。
30代前半くらいの年齢をしているバレリオ。
魔力操作の技術向上の速度は、どうしても若者よりも鈍い。
しかし、その分真剣に取り組んでいるからか、誰よりも上達しているように思える。
そんなバレリオに昨日のことを尋ねてみたら、帰ってきた答えはこれだった。
「……随分あっさりだな」
昨日ケイが悩んだのが何だったのかと思いたくなるほど、バレリオはあっさりと許可をした。
元々、10代は戦闘訓練を週に何回かしている。
それなのに、わざわざ止めるようなことは意味がない。
だから許可を出すと言ったことらしい。
「どんなに強くなろうとも、参加させるつもりはないですから」
「なるほど……」
ケイが意外そうな顔をしているのを感じ取ったのか、バレリオは続いてこんなことを言った。
その言葉にケイは納得する。
10代は実戦に参加させない。
このルールは明文化されている訳ではなく、暗黙のルールと言っていい。
だが、そのルールはかなり強固な物らしい。
それもそのはず、貴重な若者を死なせるのは、国の衰退に直結しているからだ。
「……という訳で、訓練するだけなら良いんだとさ」
「本当ですか!? ありがとうございます」
バレリオの許可を得たことを伝えると、オシアスは嬉しそうに頭を下げた。
まるで強くなることが約束されたかのようだ。
「じゃあ、早速……」
「その前に……」
「?」
日も暮れて暗くなりだす時刻だというのに、オシアスは稽古用の木剣を持ってケイに稽古をつけてもらおうと外に出ようとする。
それをケイは手で止めた。
その意図が分からず、オシアスは首を傾げる。
「俺が教えることと言っても、かなり地味な練習だぞ? 飽きたり、つまらないといった文句は受け付けないからな?」
「は、はい」
念を押してくるくらいの訓練とはどんなものなのかと、若干押されつつもケイの問いにオシアスは頷く。
そして、バレリオたちがやっていることと同じように、オシアスは魔力操作の訓練に入ったのだった。
「ケイしゃま! これでいいでしゅか?」
「……天才発見!」
オシアスの訓練も始まり5日が過ぎたころ、兄と一緒になって遊んでいただけのようなラファエルが、魔力の操作をケイに見せてきた。
幼児なので魔力は少ないが、指先に集めて火に変換する速度は懸命に頑張っている兄を抜き、バレリオに追いつきそうなほど速かった。
きちんと教えてもいないのにこの速さとなると、ケイの孫たちを思い起こさせるほどだ。
エルフの血が薄くなるにつれ、魔力操作の才能も落ちていく。
ケイの孫世代になるとそれも顕著に表れ始め、息子のレイナルドやカルロスの子供の時と比べると成長が速くない。
それでも人族の中では天才レベルの速度だが、その天才がここにいた。
「これはこれで困ったな……」
オシアスの訓練許可は取ったが、まさかラファエルにこんな才があるとは思わなかった。
きちんと教えないと、これから先の性格が心配になる。
仕方がないので、ケイはバレリオに話してラファエルの指導もさせてもらうことを頼むことになったのだった。
「それは……」
エナグアで寝起きする場所として、ある兄弟と同居をしているケイ。
その兄弟の兄の方であるオシアスが、指導をしてほしいと頭を下げてきた。
色々あったらしく、この兄弟の両親はもう亡くなっている。
ケイの世話係の仕事も、弟と暮らしていくための資金稼ぎに手を上げたと言う所がある。
そのため、最初のうちはケイに対して何の感情も見せていなかったように感じる。
弟のラファエルとは違い、ただ仕事として割り切っていたようだが、ケイの実力を聞いて何かが変わったようだ。
ケイとしても、魔力操作技術が上達しやすい若いうちから指導をしたいところだ。
しかし、最初に10代の若者を戦いに参加せないと言われているので、教えるのは躊躇われる。
ケイにやんわり断られたオシアスは、それ以上言い返すことができずに俯いた。
「まさか、親父さんの敵討ちがしたいとか思っているんじゃないだろうな?」
「……聞いたのですか?」
ラファエルを産んで少しして彼らの母は亡くなった。
そして、1人で兄弟を育てていた父は、魔人の誘拐を企てた人族によって殺害された。
簡単に聞いた話だとそういうことらしい。
人族との戦いが近い今、何としても強くなって父の仇討ちに人族を殺したいと考えているのではないかとケイは思った。
自分の家のことをケイが知っているとは思わなかったため、オシアスは質問で返す。
「世話になるんだ、少しは知っておこうと思ってな……」
実際の所は、ケイが聞くより先にバレリオが話してくれたというのが正しい。
兄弟二人きりの所に要人であるケイを頼むなんて、失礼に当たる気がした。
しかし、ケイがどこか空き家でも貸してもらえたらいいと言っていたので、訓練場から近いところを探していたらオシアスが立候補した。
ケイもそこで良いと了承したとは言っても、その家のことを説明しない訳にはいかない。
なので、本当に最低限教えてもらったといったところだ。
「たしかに父の仇を討ちたい気持ちはあります。しかし、それ以上に今のままではラファエルを守れないと思ったのです」
彼らの両親のこともそうだが、彼らのことも少しは聞いている。
10代の若者に実戦はさせないが、訓練はさせている。
その中でオシアスは普通といった成績。
魔物の討伐という、この国では花形の仕事ができるとは思えない。
恐らくは、何かの商売をして働くしかない所だろう。
そうなると、オシアスの場合はどこかで雇われて働くことになるだろうが、はっきり言ってどこで働こうと裕福な暮らしは不可能だろう。
何せ人がいないから、物を買う人間も少ないのだから。
そうなると、確かにまだ小さいラファエルを育てるのは苦しくなる。
言い分としては正しい。
「……とりあえず、バレリオに聞いてみるよ」
「はい。お願いします!」
どうせバレリオが止めるだろうという思いがあったため、ケイは打診するだけ打診してみることをオシアスに約束した。
まだ望みがあるからだろうか、ケイの言葉にオシアスは嬉しそうに頭を下げ、夕食の準備を始めたのだった。
「構いませんよ」
翌日、いつものように訓練場に行くと、バレリオが一番乗りで自主練をしていた。
30代前半くらいの年齢をしているバレリオ。
魔力操作の技術向上の速度は、どうしても若者よりも鈍い。
しかし、その分真剣に取り組んでいるからか、誰よりも上達しているように思える。
そんなバレリオに昨日のことを尋ねてみたら、帰ってきた答えはこれだった。
「……随分あっさりだな」
昨日ケイが悩んだのが何だったのかと思いたくなるほど、バレリオはあっさりと許可をした。
元々、10代は戦闘訓練を週に何回かしている。
それなのに、わざわざ止めるようなことは意味がない。
だから許可を出すと言ったことらしい。
「どんなに強くなろうとも、参加させるつもりはないですから」
「なるほど……」
ケイが意外そうな顔をしているのを感じ取ったのか、バレリオは続いてこんなことを言った。
その言葉にケイは納得する。
10代は実戦に参加させない。
このルールは明文化されている訳ではなく、暗黙のルールと言っていい。
だが、そのルールはかなり強固な物らしい。
それもそのはず、貴重な若者を死なせるのは、国の衰退に直結しているからだ。
「……という訳で、訓練するだけなら良いんだとさ」
「本当ですか!? ありがとうございます」
バレリオの許可を得たことを伝えると、オシアスは嬉しそうに頭を下げた。
まるで強くなることが約束されたかのようだ。
「じゃあ、早速……」
「その前に……」
「?」
日も暮れて暗くなりだす時刻だというのに、オシアスは稽古用の木剣を持ってケイに稽古をつけてもらおうと外に出ようとする。
それをケイは手で止めた。
その意図が分からず、オシアスは首を傾げる。
「俺が教えることと言っても、かなり地味な練習だぞ? 飽きたり、つまらないといった文句は受け付けないからな?」
「は、はい」
念を押してくるくらいの訓練とはどんなものなのかと、若干押されつつもケイの問いにオシアスは頷く。
そして、バレリオたちがやっていることと同じように、オシアスは魔力操作の訓練に入ったのだった。
「ケイしゃま! これでいいでしゅか?」
「……天才発見!」
オシアスの訓練も始まり5日が過ぎたころ、兄と一緒になって遊んでいただけのようなラファエルが、魔力の操作をケイに見せてきた。
幼児なので魔力は少ないが、指先に集めて火に変換する速度は懸命に頑張っている兄を抜き、バレリオに追いつきそうなほど速かった。
きちんと教えてもいないのにこの速さとなると、ケイの孫たちを思い起こさせるほどだ。
エルフの血が薄くなるにつれ、魔力操作の才能も落ちていく。
ケイの孫世代になるとそれも顕著に表れ始め、息子のレイナルドやカルロスの子供の時と比べると成長が速くない。
それでも人族の中では天才レベルの速度だが、その天才がここにいた。
「これはこれで困ったな……」
オシアスの訓練許可は取ったが、まさかラファエルにこんな才があるとは思わなかった。
きちんと教えないと、これから先の性格が心配になる。
仕方がないので、ケイはバレリオに話してラファエルの指導もさせてもらうことを頼むことになったのだった。
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