エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
283 / 375
第11章

第283話

しおりを挟む
「準備は良いか?」

「「「「「はい!」」」」」

 潜ませた声で問いかけるバレリオ。
 その問いに、魔人の兵たちも返事をし、導線に火をつけた。
 彼らの目の前には数台の大砲があり、その砲口は海上へ浮かぶ船へ向けられている。
 ドワーフ王国より貸し与えられた大砲だ。

「撃て!!」

“ドドドドドンッ……!!”

 バレリオの指示により、一気に砲弾が発射された。
 彼らから見て左、つまりは北側を進む船へ発射された弾が飛んで行く。
 それが数隻の船に着弾し、多くの人族兵が海へと放りだされた。

「なっ!?」

「急襲!! 急襲!!」

 いきなりの急襲に、船上のエヌーノ王国陣は大慌てだ。
 数隻の船に着弾して船体に穴が空き、多くの兵が海に投げ出された。

「大砲だと!? 魔人かドワーフどもの仕業か!?」

「恐らく……!!」

 先に送った兵たちが作った拠点がどうなっているか確かめる意味でも、当初の予定通りに進んでいた船団だったが、魔人たちによる急襲は想定していなかった。
 エナグア王国のある場所は、ドワーフ王国に近い。
 そのことからドワーフの協力を得ているかもしれないという報告は受けていたが、自分たちが上陸した後におこなう決戦の時に関わってくると思っていた。
 武器に魔力を流して戦うことしかできない原始人のような魔人どもが、先に送った兵たちを見つけることも倒すことも出来ないだろう。
 なのにも関わらず、味方の拠点があるはずの場所から攻撃してくるということは、ドワーフが相当な協力をしているということになる。

「海に落ちた者を拾え! 船はともかく兵は戦力になる!」

「「「「「はい!」」」」」

 砲撃により数人が殺されたが、ほとんどは大した怪我もせず海に落ちただけだ。
 多少の怪我ならまだ戦うことができる。
 そのため、指揮をとる男は、海に落ちた兵の救助を指示した。

「南へ迂回しろ!! 離れた所からなら大砲の攻撃を受けずに上陸できるはずだ!!」

 風の影響か、敵の砲弾は北側へ飛んで行っている。
 大砲はその重量から、そう簡単に移動させることはできない。
 ならば、南へ進路を変えて上陸を果たすことにした。

「あそこだ!! あそこの海岸から上陸をするんだ!」

 南へ進路を変えると、上陸できそうな海岸が発見できた。
 そこから上陸すれば、拠点の場所にいるであろう敵へ一気に攻め込むことができるだろう。
 船上の兵たちは小舟に分散して乗り込み、その海岸目指して進み始めた。

“ドドドドドンッ……!!”

「ぐわっ!?」「くっ!?」

 海岸へ向かう小舟へ向かって、大きな音と共にまたも砲弾が飛んできた。
 砲弾は直撃しないが、小舟の近くの海面に落ち、強い波を起こす。 
 その波によって、小舟は何隻か横転し、その舟に乗った兵たちは海に放り出された。

「馬鹿な!? どれだけの数の大砲を仕込んでいるというのだ!?」

 拠点だけでなく、ここにも大砲が置かれていたことに驚きの声をあげる。
 どうやら、ドワーフから多くの大砲が貸し与えられているようだ。

「大丈夫だ! 小舟ではピンポイントでなければ当たらない! このまま上陸し、奴らを皆殺しにしろ!!」

「「「「「おぉっ!!」」」」」

 砲弾によって邪魔をされたが、最初に出発した小舟の中で上陸を果たす兵が現れ始めた。
 上官の指示の通り、兵たちは海岸を駆けて魔人たちの姿を探し始めた。

「「「「「グアァァーー!!」」」」」

「っ!? 何だ、何が起きた!?」

 海岸に上陸し、内陸へ向かった兵たちの悲鳴のようなものが、まだ少し離れた海上の上にいる者たちにまで聞こえて来た。
 明らかに何かあったようだ。 
 内が起きたか分からず問いかけると、怪我を負いつつ戻ってきた兵が答えを返した。

「包囲されての集中砲火です! 奴ら魔法を使えるようになっているようです!!」

「そんなバカなっ!! 半年前の報告では武器に魔力を流すだけの雑魚だっただろうが!?」

 宰相から侵攻する兵には、魔人の戦闘方法や実力などが説明された。
 魔人大陸に向かったことのある冒険者からも似たような報告を受けていた。
 なので、報告の通りドワーフ特製の武器に魔力を流して戦うということしかしてこないはずだ。
 もしも魔法という存在を知って使いこなせるようになろうとしても、相当な訓練を毎日やらないと、半年でできるようになるなんて考えられない。
 しかし、攻撃を受けたものが嘘を言う訳がない。
 本当に多くの魔人が魔法を使って攻撃してきたのだろう。

「ナチョ王太子様!!」

「ハシント!!」

 ハシントと呼ばれた者が指揮を出していた者に声をかける。
 どうやら指揮をしていた者は、エヌーノ王国の王太子でナチョと言うらしい。
 少し背が高く、サラサラの金髪をたなびかせた貴公子といったようなハシントは、ナチョの前へと進んで片膝をついた。

「私が奴らの包囲を崩しにかかります!」

 ここまでの用意周到な様子からいうと、魔人たちはこの海岸へ誘導したかったのだろう。
 奴らの計画を崩すには、強力な力によって打ち崩すのが手っ取り早い。
 そのため、ハシントはナチョへ進言したのだった。

「む~……、お前はこちらの最大戦力。やられることはあってはならないぞ!?」

「お任せください!!」

 ナチョが言うように、ハシントはエヌーノの最大戦力だ。
 それがやられるとなったら、こちらの士気は完全に消沈する。
 それだけは決してあってはならないこと。
 ハシントの強さは知っているが、ナチョは念を押した。
 それに対し、ハシントは自信満々の表情で頷きを返したのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...