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第12章
第303話
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「……何であいつはあんなところにいるの?」
「戦場を見渡すためじゃないか?」
ケイ同様に、ラウルも時計台の上の人間に目を向ける。
こんな戦場で、避難をせずあんな場所にいる所を見ると、ただの一般人とは考えられない。
何をしているのか分からず疑問を声に出すと、ケイが予想を口にする。
「しかも……何か変な感じがする」
「気が付いたか?」
望遠に加えて鑑定をしてみた結果、ラウルはもう1つ疑問が増えた。
時計台の上にいる者は、人間の魔力とはなんとなく違う何かを感じる。
そのことに気付いたことを、ケイは感心したように呟く。
「何なのあれ?」
やり取りからして、ケイはあの人物の何かを知っているようだ。
これ以上考えても答えは出ない。
そう判断したラウルは、ケイに直接聞くことにした。
「……あれは恐らく魔族だ」
「……魔族って、魔物が人間の姿で言語を使うって言う?」
ケイの答えを聞いて、ラウルは眉をひそめる。
魔族と言う言葉は、父から聞いている。
昔アンヘル島に攻め込んで来た人族の国に封印されていて、その封印を解いてみたら、膨大な魔物を使役する魔族が解き放たれたという話だった。
その魔族は他の魔族を呼び込み、一国と戦って最後は死んだと聞いている。
その特殊性から、なかなかお目にかかれない生命体のはず。
それが視界に捕えられる位置にいる。
魔族と分かった上で、ラウルはもう一度時計台の上の者に目を向けた。
「あぁ、奴らはどういう訳か人間にちょっかいをかけてくる」
「魔物だから本能的なものじゃないの? もしくは餌として人間を襲っているのかもね……」
「なるほど……」
ケイにはどうして人間にちょっかいをかけてくるのか分からなかった(と言うより、興味が無いので考えることをしなかった)が、ラウルの言うことが正解なのかもしれない。
魔物は本能に忠実に生きるもの。
人間を単に食料として見ている可能性も考えられる。
「理由はともあれ、奴らが厄介なのは、人間以上に魔物を使役する能力に長けている所だな」
魔物を従えることは人間でも可能。
しかし、従魔契約には色々と条件がある。
自分に懐いている魔物を使役する分にはそれほどでもないが、敵対心のある場合、膨大な魔力で無理やりに契約を行なうことになる。
それに、従える魔物の強さや数を増やすとなると、更に魔力を使用することになる。
失敗したら魔力を失い、場合によっては魔物に殺られて命を落とすこともある。
ケイはエルフで魔力も多く、従魔にしているのも強力とは言い難い魔物たちだ。
数匹ぐらいと契約するのはたいして問題ないが、それでもかなりの魔力量を必要とした。
魔族の場合、その理が適用されないかのような数の魔物を従えている。
つまり、魔族一体いると国と戦える戦力を有している可能性があるのだ。
「しかも、知能を持った者が動かしているのが面倒だ」
魔物の驚異的な戦闘力も、知能が低いがゆえに対応できる。
罠に嵌めたりなどして無力化するなどの行為も、魔物たちが魔族の指示で動いているとなると通用しなくなる。
それでは人間側のアドバンテージが半減してしまう。
「そのうえグールなんて厄介極まりないね」
今回の場合、更にグールの危険性まで注意しなければならない。
物理的なダメージは回復してしまい、倒すとなると高火力の炎魔法を放たなければならない。
ケイたちのようにエルフの血を受け継ぐ者と違い、普通の人族は生まれた時の魔力量は低い。
それでも、訓練次第で増やすことができるが、ケイたちが見る限り1人で何十発も撃てるような者は見当たらない。
つまり、無駄撃ちができない状況だ。
回復すると言っても、僅かな時間を稼ぐためにも多くの兵士が必要になる。
全てのグールを倒すまでに、どれだけの兵士が犠牲になるか分かったものではない。
人族側のことを考えると、かなりしんどい戦いになりそうだ。
「勝てるの?」
「勝てるんじゃないか? グールは面倒だが、少しずつ減ってることだし……」
いくら魔族が一国を相手にできるかもしれないとは言っても、この大都市を相手にするのには少しグールの数が足りないように感じる。
ここの兵も連携して敵に当たっていることから、時間はかかっても何とかなるはずだ。
「あっ!?」
「マジかよ……」
ケイたちが予想していたところで、魔族は魔法陣を展開させた。
何をするのかと思っていたケイたちだったが、その魔法陣によって先程の予想が否定されたように感じた。
「ゾンビやスケルトンが出て来た……」
「数への対抗処置かな?」
さっきケイたちが言っていたように、数の上では明らかに人族側の方が有利。
しかし、それに対処するかのように、魔法陣からはゾンビやスケルトンのアンデッドの魔物が出現してきた。
そして、グールを一時的にでも止める役割を担っている兵士たちに、仕事をさせないと言うかのように群がるように襲い掛かっていっている。
「くそっ!」
兵士たちは、ワラワラと出現してきた魔物たちに慌てた。
このままではグールの餌食になる者たちが増える一方だ。
かと言って、向かって来るゾンビたちを放置できるわけでもない。
仕方がないので、愚痴りながらも懸命に対応するしかなかった。
「このままでは被害が広がる! 一旦退け!」
市民の避難は完了している。
グールたちを放置したら建物などを壊されるかもしれないが、ただ闇雲に戦うだけでは兵士の数が減っていってしまう。
ゾンビやスケルトンの相手をする者と、グールを相手にする者に分けて戦った方が戦いやすい。
そのためにも、一旦引いて体制を整えるべきだ。
一人の兵の指示によって、他の兵士たちも一時撤退を開始していた。
「あの魔法陣……、魔族の奴を倒さないとずっと出続けるのかな?」
「たぶんな……」
兵士が引いた後も、ゾンビたちの出現は止まらない。
魔族が指示を出したのか、ゾンビやスケルトンを前衛にして、グールが後方から進むといった陣形に変化していく。
アンデッド魔物が通った後は、破壊された建物などによって瓦礫の山になっている。
放っておいたら、この町までも潰れてしまうことになる。
「そろそろ動く?」
「っ!! ちょっと待て!」
どうやらグールたちの始末をするとなると、あの魔族を倒さないといけないらしい。
逆に言えば、あの魔族さえ倒してしまえば、後はこの国の者に任せておけば何とかなる。
あの魔族自体の強さは分からないが、ケイなら何か策があるはず。
ここの兵士たちは魔族の存在については気付いていない様子。
人族を救うようで気が進まないが、さっさと問題を解決してアンヘル島へ帰りたい。
そう考えてラウルが魔族の退治をケイへ促したのだが、ケイは何かを察知したのかラウルの提案を制止した。
「あっちにもう一体魔族がいないか?」
「えっ!?」
ケイが指さした方へラウルが目を向けると、時計台の上の魔族のいる反対の方角に、同じく人間とは異なる魔力をした者が佇んでいた。
その周辺には特に魔物が存在している訳ではないが、その魔族からは禍々しい魔力が溢れ出ているように思える。
「あいつ……、かなり危険だ」
「……俺じゃ危ないかも」
ケイが気付いた通り、恐らくあれも魔族なのだろう。
しかし、グールたちを操っている魔族とは違い、魔物を呼び出している様子がない。
遠くから眺めるケイたちは、その魔族がどれほどの強さなのか探ってみる。
すると、おおよそながら感じ取った魔力量はかなりのもので、ラウルが相手にするには危険かもしれない。
「奴らは魔物としての力を発揮する時、更に危険度が増す時がある。あいつは実力を出させる前に倒さないと、どれだけの被害が出るか分からないぞ」
「じゃあ……」
以前他の魔族と戦った時、そいつは本性を発揮した途端に魔力量が膨れ上がっていた。
今ケイたちが見ている魔族も同じようになるかもしれない。
そうなると、ラウルでは負ける可能性が高い。
それに、この町の兵たちであれを止められるかも怪しくなってきた。
「俺たちも動くぞ!」
「分かった!」
実力発揮をする前に倒すためには、このまま人族たちに任せておく訳にはいかない。
なので、ケイはラウルと共に動き出すことを決意したのだった。
「戦場を見渡すためじゃないか?」
ケイ同様に、ラウルも時計台の上の人間に目を向ける。
こんな戦場で、避難をせずあんな場所にいる所を見ると、ただの一般人とは考えられない。
何をしているのか分からず疑問を声に出すと、ケイが予想を口にする。
「しかも……何か変な感じがする」
「気が付いたか?」
望遠に加えて鑑定をしてみた結果、ラウルはもう1つ疑問が増えた。
時計台の上にいる者は、人間の魔力とはなんとなく違う何かを感じる。
そのことに気付いたことを、ケイは感心したように呟く。
「何なのあれ?」
やり取りからして、ケイはあの人物の何かを知っているようだ。
これ以上考えても答えは出ない。
そう判断したラウルは、ケイに直接聞くことにした。
「……あれは恐らく魔族だ」
「……魔族って、魔物が人間の姿で言語を使うって言う?」
ケイの答えを聞いて、ラウルは眉をひそめる。
魔族と言う言葉は、父から聞いている。
昔アンヘル島に攻め込んで来た人族の国に封印されていて、その封印を解いてみたら、膨大な魔物を使役する魔族が解き放たれたという話だった。
その魔族は他の魔族を呼び込み、一国と戦って最後は死んだと聞いている。
その特殊性から、なかなかお目にかかれない生命体のはず。
それが視界に捕えられる位置にいる。
魔族と分かった上で、ラウルはもう一度時計台の上の者に目を向けた。
「あぁ、奴らはどういう訳か人間にちょっかいをかけてくる」
「魔物だから本能的なものじゃないの? もしくは餌として人間を襲っているのかもね……」
「なるほど……」
ケイにはどうして人間にちょっかいをかけてくるのか分からなかった(と言うより、興味が無いので考えることをしなかった)が、ラウルの言うことが正解なのかもしれない。
魔物は本能に忠実に生きるもの。
人間を単に食料として見ている可能性も考えられる。
「理由はともあれ、奴らが厄介なのは、人間以上に魔物を使役する能力に長けている所だな」
魔物を従えることは人間でも可能。
しかし、従魔契約には色々と条件がある。
自分に懐いている魔物を使役する分にはそれほどでもないが、敵対心のある場合、膨大な魔力で無理やりに契約を行なうことになる。
それに、従える魔物の強さや数を増やすとなると、更に魔力を使用することになる。
失敗したら魔力を失い、場合によっては魔物に殺られて命を落とすこともある。
ケイはエルフで魔力も多く、従魔にしているのも強力とは言い難い魔物たちだ。
数匹ぐらいと契約するのはたいして問題ないが、それでもかなりの魔力量を必要とした。
魔族の場合、その理が適用されないかのような数の魔物を従えている。
つまり、魔族一体いると国と戦える戦力を有している可能性があるのだ。
「しかも、知能を持った者が動かしているのが面倒だ」
魔物の驚異的な戦闘力も、知能が低いがゆえに対応できる。
罠に嵌めたりなどして無力化するなどの行為も、魔物たちが魔族の指示で動いているとなると通用しなくなる。
それでは人間側のアドバンテージが半減してしまう。
「そのうえグールなんて厄介極まりないね」
今回の場合、更にグールの危険性まで注意しなければならない。
物理的なダメージは回復してしまい、倒すとなると高火力の炎魔法を放たなければならない。
ケイたちのようにエルフの血を受け継ぐ者と違い、普通の人族は生まれた時の魔力量は低い。
それでも、訓練次第で増やすことができるが、ケイたちが見る限り1人で何十発も撃てるような者は見当たらない。
つまり、無駄撃ちができない状況だ。
回復すると言っても、僅かな時間を稼ぐためにも多くの兵士が必要になる。
全てのグールを倒すまでに、どれだけの兵士が犠牲になるか分かったものではない。
人族側のことを考えると、かなりしんどい戦いになりそうだ。
「勝てるの?」
「勝てるんじゃないか? グールは面倒だが、少しずつ減ってることだし……」
いくら魔族が一国を相手にできるかもしれないとは言っても、この大都市を相手にするのには少しグールの数が足りないように感じる。
ここの兵も連携して敵に当たっていることから、時間はかかっても何とかなるはずだ。
「あっ!?」
「マジかよ……」
ケイたちが予想していたところで、魔族は魔法陣を展開させた。
何をするのかと思っていたケイたちだったが、その魔法陣によって先程の予想が否定されたように感じた。
「ゾンビやスケルトンが出て来た……」
「数への対抗処置かな?」
さっきケイたちが言っていたように、数の上では明らかに人族側の方が有利。
しかし、それに対処するかのように、魔法陣からはゾンビやスケルトンのアンデッドの魔物が出現してきた。
そして、グールを一時的にでも止める役割を担っている兵士たちに、仕事をさせないと言うかのように群がるように襲い掛かっていっている。
「くそっ!」
兵士たちは、ワラワラと出現してきた魔物たちに慌てた。
このままではグールの餌食になる者たちが増える一方だ。
かと言って、向かって来るゾンビたちを放置できるわけでもない。
仕方がないので、愚痴りながらも懸命に対応するしかなかった。
「このままでは被害が広がる! 一旦退け!」
市民の避難は完了している。
グールたちを放置したら建物などを壊されるかもしれないが、ただ闇雲に戦うだけでは兵士の数が減っていってしまう。
ゾンビやスケルトンの相手をする者と、グールを相手にする者に分けて戦った方が戦いやすい。
そのためにも、一旦引いて体制を整えるべきだ。
一人の兵の指示によって、他の兵士たちも一時撤退を開始していた。
「あの魔法陣……、魔族の奴を倒さないとずっと出続けるのかな?」
「たぶんな……」
兵士が引いた後も、ゾンビたちの出現は止まらない。
魔族が指示を出したのか、ゾンビやスケルトンを前衛にして、グールが後方から進むといった陣形に変化していく。
アンデッド魔物が通った後は、破壊された建物などによって瓦礫の山になっている。
放っておいたら、この町までも潰れてしまうことになる。
「そろそろ動く?」
「っ!! ちょっと待て!」
どうやらグールたちの始末をするとなると、あの魔族を倒さないといけないらしい。
逆に言えば、あの魔族さえ倒してしまえば、後はこの国の者に任せておけば何とかなる。
あの魔族自体の強さは分からないが、ケイなら何か策があるはず。
ここの兵士たちは魔族の存在については気付いていない様子。
人族を救うようで気が進まないが、さっさと問題を解決してアンヘル島へ帰りたい。
そう考えてラウルが魔族の退治をケイへ促したのだが、ケイは何かを察知したのかラウルの提案を制止した。
「あっちにもう一体魔族がいないか?」
「えっ!?」
ケイが指さした方へラウルが目を向けると、時計台の上の魔族のいる反対の方角に、同じく人間とは異なる魔力をした者が佇んでいた。
その周辺には特に魔物が存在している訳ではないが、その魔族からは禍々しい魔力が溢れ出ているように思える。
「あいつ……、かなり危険だ」
「……俺じゃ危ないかも」
ケイが気付いた通り、恐らくあれも魔族なのだろう。
しかし、グールたちを操っている魔族とは違い、魔物を呼び出している様子がない。
遠くから眺めるケイたちは、その魔族がどれほどの強さなのか探ってみる。
すると、おおよそながら感じ取った魔力量はかなりのもので、ラウルが相手にするには危険かもしれない。
「奴らは魔物としての力を発揮する時、更に危険度が増す時がある。あいつは実力を出させる前に倒さないと、どれだけの被害が出るか分からないぞ」
「じゃあ……」
以前他の魔族と戦った時、そいつは本性を発揮した途端に魔力量が膨れ上がっていた。
今ケイたちが見ている魔族も同じようになるかもしれない。
そうなると、ラウルでは負ける可能性が高い。
それに、この町の兵たちであれを止められるかも怪しくなってきた。
「俺たちも動くぞ!」
「分かった!」
実力発揮をする前に倒すためには、このまま人族たちに任せておく訳にはいかない。
なので、ケイはラウルと共に動き出すことを決意したのだった。
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