エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
353 / 375
第14章

第353話

しおりを挟む
「フゥ~……」

 一息ついて、汗を拭うケイ。
 4体の魔王出現により世界中で多くの被害を出したものの、ケイたちの封印魔法によって鎮圧された。
 魔王の封印を終えてからというもの、特に問題が起こることもなく平和な日々を過ごしていたケイは、いつものように畑仕事をおこなっていた。
 幼少期は長い年月生きられることは良いことだと思っていたが、やはり良いことばかりではない。
 生まれてくる子供たちいるが、長命であるがゆえに住民を見送ることも多く、それがとても辛い。
 自分だけ時が止まったように老いず、何だか1人置いてきぼりをくらっている気になるからだろうか。
 見知った人間の死に対する経験だけは慣れないものだ。

「おぉ、おかえり」

「ただいま」

 一息ついて少し考え事をしていたケイの所に、レイナルドが向かって来た。
 それに気付いたケイが話しかけ、レイナルドも返事をした。

「ちょっと家に来てもらっていいか?」

「んっ? あぁ……」

 挨拶を交わすと、レイナルドが家に戻るように言ってきた。
 どうやら何か話があるみたいだ。
 畑仕事も一段落したところだったので、ケイはレイナルドの頼みを受け入れて家に戻ることにした。

「何だ? お前たちも呼ばれたのか?」

「あぁ、まあね」

 家に戻ると、息子のカルロス、孫のファビオ、ラウル、オスカルがケイたちの帰りを待っていた。
 彼らまで呼んでいるとは思わずケイが問いかけると、カルロスが頷きと共に返答した。

「この面子って事は、何か封印に関することか?」

「その通り」

 言えに入り全員がソファーに座ると、ケイはレイナルドに話の用件を尋ねることにした。
 尋ねると言っても、ケイは何となく察しがついている。
 この面子といったら、魔王の封印に深く関わっている6人だ。
 しかも、今日レイナルドが出かけた理由は、魔王ソフロニオを封印した近くの人工島に変化がないかを調査するためだ。
 そうなると、自然と封印に関する話だと想像ついた。
 その考えは正しかったらしく、ケイの質問にレイナルドは深く頷いた。

「封印の内部に変化が起きていた」

「変化?」

 魔王と言われるほどの力を持った存在を封印したのだから、もしかしたら何か変化が起こる可能性は考えられた。
 復活なんてことになったら、また封印できるほど時間を得ることができるか分からない。
 そのため、レイナルドは内部調査に向かったのだが、その調査で問題が発生したらしい。
 もしも魔王復活の兆しでもあるとなると、エルフ島近くの人工島だけでは済まない。
 他の封印の地にも変化があるかもしれないため、レイナルド以外の5人も真剣な表情になって話の続きを待った。

「封印の地の中央にダンジョンの入り口ができていた」

「ダンジョンだと……」

 封印の人工島は結界に覆われていて、ソフロニオを封印したレイナルドしか出入りできず、中に入ったものは外に出られないようになっている。
 もしも中に入ってしまった場合、封印された魔王が消滅し時くらいしか外に出ることはできないだろう。
 中に入ってしまっても、魚がいたり植物が生えているため、生きていくことはできるかもしれない。
 魔素も普通に存在しているため、魔物も出現する可能性もある。
 ダンジョンも魔物のような存在のため発生することもあり得るが、出来た場所が場所なだけに気になる。

「どんな魔物がいたんだ?」

「それがとんでもない強力な魔物のオンパレードだった。魔人大陸にいるような危険な魔物の変異種がゴロゴロいた」

「……、何だって……」

 今日のレイナルドのように、封印の地は封印した者が数年に1度は確認に出向いている。
 近い分、レイナルドが一番調査に行く頻度が高いのだが、これまでの調査でダンジョンが発見されたことはなかった。
 これまでなかったところにダンジョンができていたと言っても、たいした規模のものではないはず。
 そう思ってケイが問いかけるが、レイナルドから返ってきた答えにケイは驚く。
 ダンジョンと言ってもピンからキリがある。
 ケイたちの住むアンヘル島にもダンジョンがあるが、長年の積み重ねでかなり強力な魔物が出現するものへと成長している。
 つまり、長年かけて強力な魔物が出現するくらいに成長するのが普通であって、出来てたいした期間が経っていないにもかかわらず強力な魔物が出現するなんてどう考えてもおかしい。
 
「できたばかりのダンジョンで、それは明らかにおかしい……」

 魔人大陸の魔物の変異種なんて強力な魔物なんて、ちょっと魔闘術を使えるだけの人間でもひとたまりもない。
 そんな魔物がゴロゴロいるダンジョンなんて無視することはできないため、ケイはその理由を考え始めた。

「魔王の魔力でも吸い取ったんじゃないかな?」

「なるほど……」

 ケイだけでなく、他の5人もこの問題を思考する。
 そしていち早く思いついたのか、ラウルが意見を出した。
 その意見に、兄のファビオも納得するように呟く。
 魔王が封印されている地なのだから、その有り余る魔力を吸い取ってダンジョンが一気に成長したのかもしれないということだ。

「……その可能性もあるが、俺には他の理由が思い浮かんだ」

「何?」

 孫たちの意見を否定はしないが、ケイは他の理由が考えられた。
 その意見を聞くため、5人の視線がケイへと集まる。

「魔王がダンジョンを使って復活のための力を蓄えているのかもしれない」

「えっ!? そんな事できるの?」

「あくまで予想だが、ダンジョンもある意味魔物みたいなもんだ。魔物を操る魔王なら、そんな事も出来るんじゃないか……」

 ケイの発言に、5人が驚きの表情へと変わる。
 その考えに、カルロスがケイに尤もな質問をする。
 ケイ自身、言っていて本当にそんな事できるのか分からない所だが、魔王ならそれくらいのことはできるのではないかと考えたのだ。

「じゃあ、あの島に入った生物を栄養にして復活しようって考えているってこと?」

「恐らくだがな……」

 オスカルの問いに、ケイは頷く。
 ダンジョンを使って魔物を生み出し、それを使って復活を目指す。
 封印されて身動きできない魔王はそう考えたのだろう。

「もしそうなら、ダンジョンの破壊をしないと……」

「それもそうだが、まずは他の封印内の調査もした方が良い。同じようなダンジョンができていれば、この考えが正しいことになるからな」

「分かった」

 あくまでもケイの言ったことは予想でしかない。
 もしかしたら、人工島の封印にだけ起こったことなのかもしれない。
 ダンジョンの破壊をするにも、その確認をしてからでも遅くはないはずだ。
 そのため、ケイはそれぞれ封印した者たちに調査に向かうように指示を出した。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...