シンデレラ、ではありません。

椎名さえら

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終章

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それから3カ月が過ぎ、優実にはまだ魔法がかかったままだった。


あの後、佳高には一度会った。

佳高が会いたいと言ってくれたのに応えた形だが、自己満足かもしれないがあの時の自分の弱さを謝罪したかったのもあった。佳高もきっと区切りをつけたいのではないかと感じられたのも応えた理由の一つだ。もちろん雄大には話してから彼に会いに行ったけれど、優実が佳高と会う約束をしたカフェの近くで待つといって聞かなかった。


久しぶりにカフェで優実を待つ佳高を店の外から見た時に、大学時代の彼との良い記憶ばかりが思い出されてきた。

(ああ、私本当にこの人のこと、ちゃんと好きだったんだな)

正直に言えば雄大に抱いている強い思いとは全然違ったが、あの時自分はちゃんと佳高のことが好きだったということを再確認できた。

そして、優実が思った通り、佳高は再構築はまったく望んでいなかった。
彼はやはり、中途半端な形でお別れしてしまった優実を気にしていてくれただけだったのだ。

佳高に改めて謝罪すると、もう気にしてないよ、自分を許してあげて、と優しく受け入れてくれた。優実が自分に自信がないことは知っていたのにな、と彼は呟いた。

『優実が何かをずっとひとりで抱えていたのには気づいてた』
『俺ではそれを一緒に背負ってあげられなかったから、きっといつか別れが来ていたのかも』

お互い近況を話して、そのまま穏やかなムードで別れた。もう会うことはないだろうが、彼には幸せになってほしいと心から願う。



亜紀に教わって、ワードローブを揃え、お化粧をし、自分を綺麗にすることは自然と続いている。自分が他人にどうみられるかを気にして整えるのではなく、佳織より綺麗になるためでもなく、ただ自分のために身づくろいすることの楽しさを知れたのは収穫だったが、雄大が優実が綺麗になりすぎると他の男に嫉妬しないといけないから嫌だと愚痴るのには笑ってしまった。

雄大は思っていた以上に優実に構いたがる男だった。

そしてそのことに彼自身が一番驚いているようだ。

決して束縛をするわけではないのだが、同じ空間にいると近くに寄ってきて手を繋いだり、後ろから抱きしめたりと何かと体温を感じたがる傾向にある。自分がずっと寂しかったからかもしれない、とある時ポツンと呟いていた。性的衝動が一切湧かなくなったきっかけの事件についても聞いた。彼の過去は思っている以上に辛いものだったし、優実には本当の意味で彼の辛さを理解してあげられることはないかもしれないが、それでも彼が自分に触れたいと思っているのであれば触れていてほしいし、体温で癒されるというのであればいつでも分けてあげたい、と思う。

『お袋たちみたいな獣になりそうだったら、止めてくれ』

と真顔で懇願されたが、彼ほど理性的な人はいないと優実は知っている。雄大は性衝動をコントロールできないわけではなく、彼女の体温に触れていたいだけなのだ。


ただ最初に自分で警告した通り、雄大は彼女に限っては、依存し、溺愛してくる。

それが心地よいのだから自分も大概だ、と優実は思っている。付き合い始めたことを言ったら亜紀は自分のことのように喜んでくれたし、他の同期たちも感づいていたらしく同期の飲み会で散々揶揄われて、でもそれが嬉しい。雄大は同期の前では何も隠すことなく優実を溺愛するので、みんなに雄大が砂を吐くほど甘いから目の毒だと笑われる。愛すべき同期たちだ。

この家のセキュリティが心配だ、と雄大が毎日のように泊まり込みに来て、いつの間にか彼の荷物が増えていく。長年住み慣れたこの部屋に愛着はあるが、近いうちに2人で住める手ごろな家に引っ越すことになるだろう。



今年のお正月には久々に帰省しようかと思っている。


佳織が長年付き合っている彼氏と結婚するようで、親戚への披露も兼ねて皆で集まるから、お正月くらい帰ってこいと言うのだ。今までなんだかんだと理由をつけて足が向かなかったが、今年は姉におめでとうと言おうと決めた。雄大も一緒に行きたいと言うので連れて行くつもりだ。彼に自分が育った故郷を見せたい気持ちもある。雄大が愛してくれていることで満たされ、最早家族に何を言われても、何を言われなくても、気にならないだろうという確かな自信が優実には芽生えている。


優実はシンデレラではなかったが、自分の物語のヒロインにはなれる、ということに遂に気づいたのだ。




《シンデレラでは、ありません。 完》



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読んでくださってありがとうございます!

番外編を更新します!

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