【R18】お持ち帰りは危険です。

寺谷ヒノ

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本編

5.祝福”完璧な肉体”

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 彼は「嬉しい」といった。とまりは、満足し、彼からの圧力が一瞬消えてため息をついた。が、瞬間、抱きしめられて体を固くした。

 正面から、がばっと。



「ちょおおおお!!」



「とまり、お前が何をためらっているのかわかってはいるが、ともかくうれしいぞ」



 シュリは全裸である。



「ああああの、一旦落ち着いて!服きてぇえええ」



 全裸。トカゲの全裸はともかく、成人男性(に見える)の全裸は少々心臓に悪い。それがギリシャ神話の彫刻並みの芸術的な全裸でも変わりはしない。



「わかったわかった」といいつつ、シュリはとまりを離さない。手はとまりの肩をたどり、腰、尻に向かう。



 ――いやいやいや。



 とまりは再び顔に血が上るのを感じた。怒りではないのが嫌だ。どうにかシュリの手をつかもうと身をよじるも、いい感じに抱き込まれていて、簡単には振りほどけない。

 しかも動けば否応なしにシュリの肌に触れてしまう。暴れると長袖がめくれて、めっちゃ肌触れる。汗ばんでてなんかひっつく。――冬なのに!!

 トカゲのときはひんやりしたウロコだったが、皮膚になると全然感触が違うし、そもそもトカゲはこんなに表面積大きくなかったし。



「ひぇっ」



 おまけにシュリはとまりの肩に顔をうずめた。なんか深呼吸してるし。



「はははははなせ!!!」



「とまりは成長したな……。とても……いいぞ」



 太ももから尻、腰のラインをなでながら言われるとその。とまりとしてはぞわぞわする。とってもする。

 変な声が出そうになって、シュリの腕をつかもうと必死に身をよじる。



「シュリはおっさん化したの!?」



 何がいいんだ。シュリの手はとまりの手から逃げ回って腰の肉付きを確かめるように動いている。身じろぎしながら視界にベッドが入ってさすがに身に危険を感じる。シュリはこんなんじゃなかったはずだ。いやいや、本当に。

 こんなの、何と言っていいかわからないけどやばい、やばい気がする。やばすぎる。

 何が何と言っていいかわからないのだが!

 

「~~~!!ね、ねぇ!!あっちの世界の魔族は自然発生系だから生殖行為自体が存在しないんじゃなかったの?!!なんで!なんで、今更子、子供作りたいだなんて……!シュリだってあの世界に自分の子供はいないって言ってたじゃない!!」



 遠い日、学んだ記憶を必死に手繰り寄せる。

 魔族と人間の大きな違いは、

 

 ①魔族は人間と違って外見を変化させることができる。

 ②魔族は自然に生まれるものであって、姿かたちに雄雌があってもその間から子供が生まれることはない。

 

 と学んだし、この世界に来てから子供とか心配じゃないのかという問いかけには「我に子供はいない。そもそも魔族に血のつながった子供という概念はないのだ」と言い切られた思い出があるのだが――。



「とまりが成長したことで我はこうなったのだ」



「私のせいですと!?」



 とまりの言葉にシュリは耳元でうなずいた。そして、耳に息を吹き込むように囁く。



「完璧な肉体とは、完璧な母体になりうる。――この世の雄は全てとまりに子供を産んでもらいたいに決まっている」



 女神の祝福にそんな効果があるのか。完璧な肉体=完璧な母体とは、理論上いわれてみればそうかもしれない。



「そ、そんなばかな!学校じゃモテないのに!」



「お前が変に生真面目で、ついでに、防御が固くアピールに気付いていない。ついでに、“人間”はその辺のことに気づくのが遅いからな。しかし、これからどんどん希望者は増えていくだろう。――ここにきて知ったのだが、我はそれなりに心が狭く、しつこい質らしい。とまりが他の男のものになって、その姿を一生見続けるのは、せめて告白して振られてからにしたかった」



 とまりは息をのんだ。



「振られてしまえば、それはそれでしょうがないともいえよう。我はとまりの人生を見守ることに専念しよう。安心しろ、振られたら死ぬなどという脅迫はするまい。流石に落ち込みはするがな。でも少しは勝算があると思っているのだ」



 シュリはとまりから少し体を離し、笑った。

 笑顔は輝くようだ。どぎまぎ、それが止まらない。面食いだったのか、等と自分の知らなかった自分を知るようだ。



「とまり。この世界で君と我は2人で1つ。だから、君が身体的にも精神的にも性的成熟すると、どうしても我も影響を受ける。ーーようするに、大人になった。そういうことだ」



 穏やかな声に温かい金の目。

 鋭く整った顔が柔らかく笑みを浮かべる。

 シュリだ。シュリは改めて、とまりの肩を優しく掴み、顔を傾け、それで、



「ん……?」



 頰にくちづけられた。彫刻のように整った彼の唇は硬そうに思えた。でも、硬くないーーとても柔らかいことをとまりは知った。

 きょろり、目が至近距離でシュリを見る。

 ほんの数秒だった。

 離れる時に、彼の舌が頰を掠るように舐めた。



(唇、じゃないんだ)



 ちょっとだけ、物足りなくなった気がした。ちょっとだけだ、そう、ちょっとだけ。

 でも安心感はあった。

 トカゲ姿のシュリはいつも頬をなでる。

 その動きは彼がそこにいることの証左だった。自分が救った命の証明。

 そのせいか、とまりはシュリの行動をただ受け入れてしまった。自分でもよくわからない。



 とまりは満足げなシュリを眺める。

 何もいえない。何か言いたい。でも、何を言っていいか。自分が何を言いたいのかわからない。



 シュリは一度目を伏せ、深呼吸した。そして、再び薄めの唇が動く。



「とまり……少し発情したな」



「………」



 彼の言葉に、とまりは微笑み返す。そして、容赦なく彼の裸のみぞおちに握りしめた拳を叩き込んだ。

 とまりの性的理解度の上限を超えたのだ。



 ――こんな魔王シュリ、私は知らないってば!!!!



 せき込むシュリにとまりは大きくため息をついた。
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