【R18】お持ち帰りは危険です。

寺谷ヒノ

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本編

8.発情期は誰だ

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「さて……」



 とまりは風呂の中でつぶやいた。

 夕食は簡単に外食した。

 今日は一日、楽しく過ごせた。楽しく過ごした。

 

 そう、楽しい。



 これはいつもと同じだ。ただ、シュリが人の姿をしているか、していないかだけ。

 じゃあ、私はこれをほかの人とやるんだろうか。

 のんびりデー……いや、お出かけして過ごす。そのとき、シュリはそばにいない。

 そうだ。シュリはそういうつもりだった。



 もし、とまりが自分シュリ以外の人とくっついても、自分はそれを受け入れるといっていた。しかし、受け入れた場合は、彼は近くからいなくなる。

 年々離れることができるようになってきたのだから、あと10年もすれば、シュリの言ったように、同じアパートの別の部屋で暮らすことができるようになるだろうし、なんなら、同じ街にいるくらいなら問題なくなるかもしれない。

 そしたら、シュリがとまりのそばにいる必要はないのだ。



 とまりがシュリを受け入れない場合、とまりは別の人を選んでもよいのだとシュリはいった。

 それは逆を言えば、シュリがとまり以外の人間を選んでも、とまりは何も言えない。だって、いう権利がない。

 一緒に歩いて、一緒にご飯を食べて、一緒に寝る。人生の半分をそうしてきた。

 それの場所を誰かに渡すことになる。



「私は……」



 とまりは思った。それに我慢できるだろうか。と。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 シュリは真鳥の部屋にいなかった。

 シュリはもうずっと人間の姿をしている。そろそろ疲れてトカゲの姿に戻っているかもしれない。

 そして、とまりのベッドの枕の上で寝ているかもしれない。

 寝ていたらどうしよう。

 心の中に出てきた嫉妬の影に気づいてしまった以上、とまりはシュリにその気持ちを伝えるしかない。



「……その、返事をする、返事をするだけ……」



 心臓の上に手を当て、深呼吸。



 結論:シュリとそういう関係になることは好ましい。

 問題点:死ぬほど恥ずかしい。



「でも、腹は背に代えられない……!」



 とまりは考えたのだ。

 シュリと離れることはできない。したくない、そういう自分がいる以上、とまりはシュリに「好きだ」と言わなければいけない。

 自分はきっと、自分が思うよりも頭が固いし、ちょろいし、嫉妬深いのだ。

 今回でそれを痛感した。

 頭が固いから、シュリの告白にすぐに答えられなかったし、ちょろいから彼の戦略に早々に陥落する。

 そして、嫉妬深いから、彼を他人に渡すなんてできない。彼がそばにいないのは耐えられないし、彼が他人とそういう関係になるのはもっと許せない。



 ただ、シュリが望むような関係になるにはその、もう少し時間をかけたいというか。



(そりゃ、9年も一緒にいたわけだし、お互いのことはわかってるけど……)



 恋に恋するお年頃としては、やはり、その性交渉は少し怖い。

 しかも相手は子供を三人?産んでほしがっている。

 異世界生命体であるシュリととまりの間に子供ができるかどうかは謎だが、しかし、相手はその気なのである。

 だが、とまりはまだ18。子供を作るには(現代日本の感覚では)若すぎる。



(だから、シュリにはそれを改めて説明して、その、せ、ッせっくす……的なものは、時間をおかせてもらって……)



 それで、今日みたいな二人でゆっくりと過ごす時間を増やしたい。

 という、とまりの希望だった。





 とまりは部屋の前で深呼吸して、ドアを開けた。

 

「その、シュリ、はなしが――え?」



「ぁっ!」



 開けた瞬間、やたらめったら色気のある声が聞こえて、とまりはカチッと止まった。

 え、うそ。

 ドアを開けて目の前のベッドの上。とまりの枕に顔を押し付けて、シュリが。

 前かがみになって、手で股間の何かをつかみ、それで。



「え、なにして……」



「……すまない、君が戻る前に少し抜いておこうと」



「ぬ、ぬく」



「マスターベーションだ」



「……!」



 そんな姿を見られたわりに、彼は堂々としたものだった。

 

「誓って言うが、元の世界にいた時の我は一切そういう欲望はなかった。そういう欲望に振り回され、時には魔族すら食い物にしようとする人間をさげすんでいたくらいだ。だが、今日一日結構辛かった。ここにきて、こうも当てられるとはな。自分で蒔いた種だが、なかなか……これがきつい」



「あ、当てられるって」



「発情期なのだろう」

 

 こともなげにいわれて、とまりは泣きそうになる。

 はつじょうき!?



「〇ィスカバリーチャンネルではトカゲの発情期は春だって!?」



「とまり、我はとかげではない」



「でも、じゃなんで……!」



「君だ」



 火照った体をだるそうにシュリは持ち上げる。意図せぬところで何度も見せられているそれだが、筋骨隆々だがしなやかさもあり、今は汗が伝い、つややかにその肌を濡らしていた。思わず唾をのみ、とまりは、イケないものを見てしまったような気持ちで下を向く。も、今度はその体の中心にあるぬらりとした陽根が目に入り、とまりは視線をそらす。

 大きい、信じらんないくらい大きい。しかも固そうで、血走っていて、それで――

 

「ほら、まただ」



「ッ、なにが」



「君が発情している。一日中そうだ。でも、より一層濃くなっている。そのせいで、当てられる」



「………はあああ!?わ、わたしそんな」



 いいながら、とまりは胸を押さえた。そんな、そんな馬鹿な

 心臓が早い。冷や汗が出る。足元がすくむ、でも、そんな、発情って。

 だって、私、そんなつもりは……

 泣きたくなって、後ずさる。そんなとまりをみて、シュリは言った。



「言わなくてもわかる。君は我を受け入れることにしたんだろう。そうなるとわかっていた。だから、我慢できていた。――はずだったんだが」



 我が物顔で、とまりのベッドの上にいるシュリは両手を広げた。そびえたつ陽根はそのままに。濡れた眦で口元に笑みを浮かべながら、いざなう。



「いいからおいで、とまり。――その身に受け止めなくてもいい。ただ、我のことを好いてくれるのであれば、我を慰めてくれ」











 完璧な肉体。完璧な母体であり、同時に完璧な”動物”なのだ。



「だからだと思うのだが」



「んッ」



 とまりはシュリの腕の中にいた。

 何故かわからない。ただ、とまりは、吸い寄せられるようにシュリのもとに足を向けていた。

 本当だったら怒るはずなのに。勝手に私のベッドでそんなことしないでとか。シーツはシュリが洗ってよねとか、頭に浮かんだはずなのに。なのに。

 だめだ、何も考えられない。ただ。彼に触れたくなったのだ。

 膝をつき、彼の顔を間近でみる。彼はとまりを囲うように腕をのばし、抱き寄せた。



 固い体だ。性別も種族も違う、異世界から来た老獪な魔王は勇者《死》を受け入れ、今や勇者も彼《雄》を受け入れた。



 ――強い雄。



 シュリがとまりに口づける。深く、甘い。舌をからめとられ、歯をなでる。

 その手が、とまりの柔い体を愛撫した。足に、背に、腹に、首に。口づけと愛撫を受けて、熱が頭にまで浸透する。

 呼吸が荒く、自分の体が消えさりそうで怖くて、怖くてとまりはシュリに縋りつく。

 服はかろうじて、まだ着ている。脱いで全身を預けたい気持ちと、未知の感覚におびえる気持ちが同時に存在する。

 シュリの腕が、彼女の顎を撫でる。落ちる涙は親指で拭われた。



「……女神がどこまで思って君の祝福をそんなものにしたのか我にはわかりかねるが……君が我を救った時点で、我と生きると決めた時点で、もう君は逃げられなかったのだよ。遅かれ早かれ、な」



 寝巻の短パンの裾から。シュリがとまりの足にふれる。その感触にとまりは不安と悦びを感じ、シュリに抱き着く腕を強くした。

 そんなとまりをあやすようにベッドに押し倒し、胸をつかんだ。形に沿うように、円をえがくようになで、中心の果実をもてあそぶ。今や熟したその実はその動きに翻弄される。



「シュリ、私、私……あなたにほかの人とこういうことしてほしくなくて、だから」



「あぁ、わかっている。君ならそういうとわかっていた。我としても君をそう簡単にほかの男《雄》にやる気もない。我より強い雄などそうそういるわけがないのはわかっているんだが、な」



 ”元”魔王はとらえた勇者《雌》を見た。

 見せつけるように乳房に口づけ、なめ上げ、吸った。その動きに彼女は身をよじり、頭を抱き、足をからめてくる。漲る陽根を彼女に擦り付け、その温かさとなめらかな感触に酔いしれる。トカゲの姿のときは、こんな風に彼女に触れなかった、これだけでも練習した甲斐があったというものだ。

 彼女は逃げるように腰をくねらせるが、しかし、自覚しているのだろうか。その動きは、まるで誘うようだ。

 彼女は熟しつつある。だが、まだ、熟しきっていない。それを自分が犯すのだ。こんな欲望、どこに隠れていたのだろう。



 薄い腹の中の子宮の感触を確かめるように。



(完璧な母体、か)



 それだけがネックだ。彼女を一切の躊躇なく犯せば、子ができるだろう。

 本来種族が違えばその可能性は低いが、シュリととまりでは、お互いの影響の強さゆえに、子ができる可能性が通常よりも格段に高い。

 シュリにとっては、好ましい状況だ。このまま理性をなくせばそれだけでえるものは大きい。

 だが、とまりにとってはどうだろう。



 彼女は大学を受験した。そして、そこで学ぶために努力を重ねてきたことをシュリは知っている。



「なぁ、とまり」



「な、なにかな」



 彼女の閉じた足の間、限りなく彼女の秘所に近いところに彼の陽根がある。

 熱い漲りを、動かして少しでも快楽を得たい衝動を堪えて彼は言う。



「子を孕みたいか?我との子を」



「それは……」



 とまりの顔が泣きそうにゆがんだ。

 そんな顔を見たかったわけではない。

 彼女の眦に唇をあて、あふれそうな涙をすする。



「わ、私、すきだよシュリのこと。だいすき。ほしい、んだろ、思う……。でも、今じゃない」



「そうだな」



「で、でもあれでしょ。コンドームとか使えば」



「……そうだな」



 シュリはとまりの見えないところで魔法を使った。

 このために準備していた――のではなく、この家にあるものを借り《ぱくっ》たのだ。

 たぶん、知れば兄妹両方怒るだろうが。



「つけたぞ」



「え、すごい魔法みたい」



「魔法だ。でも、今は入れない。まぁ、こうしている時点でだいぶ危ないわけだが、コンドームの避妊は100%ではない」



「え……?」



 シュリの言葉にとまりは、目を丸くした。



「我としては、今すぐにもはらんでほしいが、準備……時間が必要だ。――君の」



「私……」



「我は待つのは得意だ。だから、いまはこうやって、君のその、やりたいことが落ち着いて、その準備が整うまでは、前段階……ABCのABくらいで止めておこうと思う」



 シュリはつぶやいてから、更に小さく続けた。



「我と……君が我慢できる限りは、な」



「シュリ、今なんか言った?ていうかABCって何?」



「さあな」



 シュリは笑って、とまりに口づけた。

 そして、そのままシュリはとまりの首、胸、腹をおりる。

 

「しゅ、シュリ、その何するつもり……?」



 膝のあたりをつかまれ、足を開こうとするシュリに抵抗しながらとまりは顔を引きつらせる



「Bだ」



「だからBって何……ぎゃああ」



「こうやることだ」



「だめ、ちょッ」



「いつもみたいにトカゲをはい回らせているとでも思えばいい」



「髪の毛の生えたトカゲはいないってばー!!」



 太ももの内側をなめる。柔らかな感覚に逃げようとする体を巧みに押さえつけ、シュリはとまりの秘所に口づける。

 ちろり、と舐めた感触にとまりの抵抗が緩まった。

 シュリは隙を逃さず、とまりに食らいつく。



「あっ、だめ、だめそんなぁッ」



 とまりは当然だが初めてなので、ただ翻弄されるだけだ。

 ふんわりと、きいたことはある。でもふんわりだ。

 こんな、なまなましいの、聞いたことない。



 舌は器用にとまり自身も知らないところを暴き立てる。

 特段、跳ねるように反応すると執拗に責められ、とまりの太ももはシュリの髪を乱れさせた。

 高まり、逃げ場がなくて、怖くて名前を呼ぶ。



「シュリ、しゅりぃ、ひぁッ」



 体から力が抜ける。呆けたとまりの股間から、身を起こして、シュリはとまりと並ぶように横たわった。



「きもちよかったか?」



「……こわかった、あっ」



 シュリの陽根が腹に当てられる。ゆるゆると動かされたそれは、入るところを求めるように足と足の間、秘所のあたりに触れる。中にははいらない。彼は入らないといった。なのに。

 どうして、それが物足りないんだろう。

 こんなにきゅんきゅんするのに。



「わ、私どうしたらいい?」



「そうだな、すまたか手こきか……」



「……す?!て、て!?」



「聞いておきながらそれか」



 物憂げなシュリの口元が光る。あ、これ、これ体液……

 とまりはきづいて、きつく目を閉じた。

 シュリは笑った。



「恥ずかしいなら後ろからにしようか」



「へ?!」



 とまりが言葉の意味を理解するより早くひっくり返された。



「とまり、太ももを閉じていろ」



「ふとも、ふともも……」



「そうだ、えらいぞ」



 足の間に挟まるモノに、何をするのか、とまりは理解する。

 濡れた隙間を何度も行き来し、そのたびにシュリの声が苦し気に聞こえる。それは快楽が少し届かないことのもどかしさなのだろうか。とまりはただ彼の肌の感触と自分の秘所をする感触に耐えながら、唇を噛んでいた



「と、まりッ」



「シュリ」



 ふいに、彼は崩れ落ちるようにとまりに覆いかぶさる。

 その重さにつぶされながら、とまりは肌の熱さに戸惑った。

 くるりと彼は横に落ちる。

 とまりはあわてて、彼が落ちないように場所を開けると、彼は身をよじってどうにかその場所に収まった。

 一人用のベッドに、二人で寝ると小さい。そんなことを思いながら、とまりは彼を見る。

 乱れた髪に、きめ細やかな肌に汗がにじんでいる。

 

(いきてる、んだ)



 何を言っていいかわからない。今日はいろんなことがありすぎて、疲れて、もう瞼が落ちて眠ってしまいそうだった。

 ただ、シュリが生きていることを強く感じたくて、とまりはシュリに寄り添っていた。
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