【R18】お持ち帰りは危険です。

寺谷ヒノ

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本編

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 彼女が幼いうちは良かった。ただの庇護欲ですべてが理解できた。

 最初の計画では、一定距離離れることができるようになったら、彼女に話したように距離を置いた生活をするつもりだった。

 だが、年々、それがいつからになるのか、考えるようになった。そして、何故何度も考えるのか考えた結果、それは不安なのだとわかった。

 彼女と離れることに対する不安が自分の命が失われる可能性なのではなく、自分が彼女を失うことへの恐怖なのだと気づく頃には、彼女は幼い子供ではなく、乙女になっていた。

 

 ――シュリ、おいで



 呼び声に応じ、無防備な首に巻きつき、尾で頬をくすぐれば彼女は笑う。

 自分は彼女の温情で生きている。それが、何故か妙にほっとする。



 元の世界では、魔王と呼ばれていた。

 それは、魔の中でも強いものという意味に過ぎない。統べるものではなく、在るだけのものだ。

 それにほかのものがどういう意味を見出していたのかはわからない。知りたくもない。

 ただ、あまりに長く魔王でいたことで、己があるだけで、そこにいるだけで周りに争いが起き、壊れていくようになった。



 だから、あの女神は人の呼び声に応じて勇者を送り出した。

 ――魔王を消すために。





「……しかし。今後、排卵日付近にはしっかりと時間を取らねばなるまいな」



 シュリはとまりを起こさないようにつぶやく。

 といっても、彼女はすでに意識を飛ばして、穏やかな眠りに満ちている。

 ある程度は満足したが、シュリにしても、とまりにしても初めてのことだったので、今度の課題は色々ある。

 シュリ自身の性成熟だけではなく、とまり自身の性成熟に当てられてのことだが、なかなかいい結果だったのではないかと思う。なにしろ、彼女が腕の中にいるし、我慢できたので避妊も万全だ。

 

「……せめて20になってからか……いや、もし彼女が経口避妊薬を使うようになったら、もう少し早められるか」



 計算しながら身を起こして、部屋を見渡せば、部屋の惨状がよくわかる。

 明るくなりつつある部屋は、あらゆるところに痕跡があふれている。結んだ避妊具を摘まんでから、”穴”を開け、闇に消し去る。――行く先はごみ処理場だ。

 どこまで想定されていたのかはわからないが、この世界は割と抜け道が多いらしい。

 ”お仲間異世界人”に聞いて、少しずつこの世界での魔法の使い方がわかるようになり、今は色々楽ができるのだが、この辺りはもう少しうまくやれるようになってから、とまりに明かそうと思う。



「本当はもっといろいろやり込みたいが、……とまりにはそれなりに普通の生活もしてもらいたいから、バランスを取らねばな。……そうだな、魔法での避妊も検討できるか」



 金銭的問題やらなにやら。本当であれば、ただ、とまりを家に閉じ込めて蜜月を過ごしてもいいのだが、9年間も子供から大人になるまでみてきたのだ。

 そんな風に閉じ込められた無力な存在になってほしいわけではない。

 彼女は比較的常識にとらわれる人格であり、普通の人間であることを望んでいる。シュリはそれを否定したくない。

 ただ、とまりは――彼女の兄の言葉を借りれば――、非常に”ちょろい”存在である。

 頭は固いが、シュリが少し策を練って、強引、というか、情熱的に押しただけで、ここまで、簡単に関係性を変えることができた。

 となれば、またいい案が出たら”検討”できるだろう。



「まぁ、千里の道も一歩から、か」



 シュリはとまりに口づけた。





  ◇◇◇





「おはよう」



「おはようございます……」



 二度目の目覚めは柔らかく頭を撫でられる感覚からだった。甘えるようにその手の動きに頭を合わせ、寝ぼけまなこで目を開ければ、



「………………!!!」



「凄いなとまり。沸騰するようだぞ」



 紫がかった黒髪に彫像のように堅そうなまでに整った美男子。

 その金に輝く瞳は妙に生き生きと煌めいた。

 布団の中を覗き込めば当然のように素っ裸である(見える範囲では

 そして、脳裏に浮かび上がる昨晩の――その、なんというか、なんかすごかったアレ。



「ひぎゃ」



 思わずでそうになった悲鳴は予期していたらしいシュリの掌に阻まれた。そしてそのまま眦に口づけられる。そして、彼は姿を消した。――否、いつも通りのトカゲの姿を取り戻した。

 とまりが固まったままでいると、布団からチラチラ舌を出しながら出てきたシュリが、首をかしげた。



「ごはん出来たら呼ぶ」



 その言葉にとまりは真っ赤になったまま、体を布団で隠す。



 死ぬ。死んでしまう。

 とまりは割と死にそうだった。

 聞いてない。聞いてない。シュリはこんなんじゃなかった。私の知ってるシュリを返せ!!返してください!!そういうノリだ。

 だってだって。



「うう…」



 シュリは人型でお盆を持ってきた。とまりに謎の果物を差し出してくる。――全裸で。



「死にそう」



「死なせんぞ」



「…………」



 視線のやり場に困って、真下を見る。

 と、再び自分も全裸であることに気づき、とまりは慌てて布団にもぐった。



「朝ご飯は大事だぞ」



 優しく揺さぶられて、とまりは頭を抱えていた。何故ご飯の流れ。何故全裸。

 ハッ、今気づいたけど、もしやこれ求愛給餌ってやつか。動物番組で見たことがあるぞ。



 しかしシュリは。シュリはこんなのだったのか。泰然としてて優しくていつもそばにいてくれてたまにさみしそうで、でも何があってもいつだってとまりと一緒にいた。シュリなのか。

 そのす、好きだけど、好きだけどえっとそのあの。だってあんなに泰然としててぼくせいよくないよみたいな顔しててこんな。勢いについていけないというか。なんで、一気にこれなの……?中間は……?確かに最後の一線だけは越えなかったけど、越えなかったけど?!

 この、このシュリと私、二人暮らしするの?春から?本当に?





   ◇◇◇





 のちに、「はぁ?!あいつ思った以上に手が早いな?笑える。……は?人間になれるの黙ってただぁ?何が悪い。人間になれた方がいいに決まってんだろ、お前、獣姦したかったってのか?」と発言した元勇者(兄)は元勇者(妹)の的確なミドルキックで撃沈した。

 元魔王は賢しかったので、その場では何も言わなかったが、後々蜥蜴の姿(ベッドからはみ出るサイズ)でとまりの布団に入ったのち無言で簀巻にされたので、チャレンジをやめた。

 

「そもそも、人間の姿で楽しめ――愛されているから、それで良いのだ」とは、元勇者(兄)に問われて少し苦い顔で元魔王が語った台詞である。
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