みんな大好き、中華料理

佐山ぴよ吉

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 目を丸くして恐る恐る差出人を見ると、ほぼ全て高蔵君からのものだ。
 怖いのでそれは開かないようにしておく。それ以外の差し出し人を見ると、知らないアカウントからのものだった。イタズラかな?と思いながらも酔いの回ったふわふわしたノリで軽い気持ちで開いてみてしまった。

『井口だ。前のアカウントはブロックされてるみたいだからこちらから失礼する』

 その文面に全身が凍りつく。


 井口先輩は、同じ研究室の3つ上の先輩だった。
 私が研究室に入った3年生の頃に井口先輩は修士2年で後輩として可愛がって貰ったものの、先輩が卒業してすぐに佳奈の歯牙にかかってしまった──いわゆる『佳奈堕ち』してしまったらしく、呼び出されて張り手されたのをきっかけにメッセージはブロックしていた。
 例の、行ってみたかったレストランに誘われた時の犯人なのだ。

 確かにアカウントを変えて、他の研究室のメンバーの誰かが私のアカウントを教えればすぐ連絡は取れてしまう。

 もう既読はつけてしまったので仕方なく読み進める。

『今君のアパートの前にいる。君の彼氏だと主張している高蔵と名乗る男もいるんだが、本当に君の彼氏なのか?』

 数分置いて、またメッセージが入っている。

『高蔵がなかなか引かないから今大学近くのカフェに来ている。いつまでも待ってる。話がしたい』

 どういう事だろう。
 高蔵君は佳奈とラブラブホテルデートじゃなかったのか。
 高蔵君は佳奈と会えなかったの?
 そうなると、私の卒業はどうなってしまうのか。
 それよりも井口先輩のほうだ。
 最後のメッセージから3時間は経っている。
 しかしこのバスが着くのはあと6時間後位だ。
 出来れば会いたくはないけれども、ここで逃げても研究室まで来てしまうかもしれない。

 すぐに何か返信しようとすると、スマホの画面が急に真っ暗になった。
 電池切れだ。高校生の頃から使っている型落ちのスマホはもう充電器を常時差していなければ電池がすぐに切れてしまう状態だった。あいにくバスにはコンセントが無いので充電はできない。

 どうしよう。
 でもどうしようもない。
 どのみち返信できたとしてもバスに揺られている今、何もできることは無いのだから。
 せめて先輩に今は行けないことを伝えられたら良かったのだけれど……まぁ、あんな先輩別に放っておいてもいいか。
 どうせそんなに長く待ってもいないだろう。

 それに会ったらまた殴られるかも知れない。
 先輩は生真面目でプライドが高い人だった。
 けれども後輩の面倒見は良かったし、分からないことはなんでも教えてくれたし、学会にも連れていってくれた。

 佳奈との事がなければ尊敬する先輩の一人だった。
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