断罪される卒業パーティには欠席しました!

よーこ

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「わたしは、その、君はわたしを嫌っていると……少なくとも関心など持っていないと思っていた。君が欲しいのは、王妃という地位だけなのだろうと思っていた。だからこそ、わたしがどれだけ冷たい態度をとっても気にすることなく、ただただ妃教育にばかり熱心に取り組んでいたのだろうと、そう思っていたんだ」

 わたしを見つめる殿下は少し困った顔をしていて、その耳は少し赤い。

「わたしはなんと愚かだったのだろうな。すぐそばで誰よりも深く愛を捧げてくれている人の存在に、ずっと気付けずにいたなんて。甘やかで耳に心地いい偽りを吐く人間の言葉にばかり耳を傾けてしまうなんて」

 申し訳なかったとの殿下の言葉を聞いて、喜びで胸が痛くなる。

「そんな風に言ってくださるだけで、どれほど嬉しいか……」

 わたくしはずっとパトリック殿下に恋をしていた。前世のことを思い出した今でも、その恋心は失われていない。

 冷たくされようと、浮気されようと、どうしても嫌いになれない。初恋に狂わされたところはあったが、本来の殿下が人としてとても素晴らしい人だと、わたくしは知っているからだ。

 わたくしだけではない、皆が口を揃えて言う。パトリック王太子殿下ほど次代の王に相応しい方はいらっしゃらない、と。

 真面目で実直、優しいけれども決断力と統率力があるカリスマで、王族という身分にありながら、下々の声に真摯に耳を傾けることのできる柔軟性を持っている。公平で正大だ。

 そんな殿下が興味を持つことなく冷たい態度をとっていたのが、幼い頃からの婚約者であるわたくしだった。

 悲しかった。

 どうしてだろう、なにがいけないのだろう、自分はなぜこんなにも殿下に嫌われているのだろうと、夜な夜な枕を濡らし続けた。

 でも、今なら分かる。
 すべてが乙女ゲームの強制力だったのだ。

 本来の殿下は、些細な理由から人を嫌うような人ではない。
 わたくしが王妃という地位だけを望んでいると勘違いしたせいで嫌っていたようだけれど、それすらも殿下本来の思考とは思えないものだ。

 ゲームに支配されていない殿下なら、まずは直接わたくしに真意を問うて、その後に嫌うという流れとなったはず。そもそも、出会ったばかりのよく知りもしない少女にいきなり悪感情を持つなど、どう考えてもおかしい。

 殿下だけではなく、わたくしもおかしかった。
 プライドの高い公爵令嬢であるオリヴィアわたくしが理不尽に嫌われ続け、それでもずっと婚約者に好意を抱き続けるなどありえない。まさにゲームの強制力だ。

 今、わたくしたちはゲーム終了後の世界を生きている。
 ゲームの強制力が働かない世界だ。

 ヒロインのリリルは捕らえられて牢に入っているし、殿下はわたくしの言葉に耳を傾けてくれる。

 そしてわたくしは、今も殿下を好きなままだった。

 ゲームの強制力が外れた今、わたくしは殿下を嫌いになってもおかしくない。酷い男だと、どうしてあんな男を慕っていのだバカらしいと、憤っていいはずなのだ。

 けれど、今もまだ殿下への好意は残ったままだ。

 それほどまでにオリヴィアの恋が真剣だったからなのか。それとも、前世のわたくしが殿下推しだったからか。

 分からない。
 分からないけど、わたくしは嬉しかった。

 長年ずっと大切に育ててきたオリヴィアの恋心が、ゲームが終了したからという理由だけで簡単に消えてしまうような軽いものでなかったことが、わたくしは本当に嬉しかった。

 だって、前世を思い出す前のオリヴィアは、本当に、心から殿下を愛していたのだから。
 初恋だった。
 とても苦しかったけれど、それでも大切な恋だった。

 ゲームのシナリオライターが作った想いだなんて言わせない。
 これはオリヴィアの大切で尊い人を愛する心なのだ。

 今も心の中を満たしている殿下への想いを、これからも大切にしていきたいとわたくしは想う。

 そしてオリヴィアは、冷たく見える容姿と異なり、好きな人を幸せにするためなら自分が損をしてもかまわないという、とても健気で一途な女性だった。それは前世を思い出した今も変わらない。

 そんな自分を誇らしく想いながら、わたくしは改めて殿下に問う。

「どうぞ望みをおっしゃってくださいませ。殿下の為ならば、わたくしはなんだっていたします」
「わたしがリリルの助命を願い、彼女とともに生きる未来を選んでも、それでも君はかまわないのか? わたしに蔑ろにされてなお、わたしのために尽くせると……?」
「はい。殿下がわたくし以外の人を好きになり、その人との未来を選ぶことと、わたくしが殿下をお慕いすることは別の話ですもの。わたくしの望みは”愛する人の幸せ”です。自分の想いを押し付けることではございませんから」
「そうか……君の気持ちはよく分かった」

 殿下はそう呟くと、考え込むように強く目を瞑った。しばらくして瞼を開き、真っすぐにわたくしを見る。そして言った。



「      」



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