ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 3*言えない気持ち

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『逃げるのか?』

 四年前も言われた。

 いつも軽口ばかりの圭が、怖いくらい真剣に、真っ直ぐ私を見ていた。

 あの時の私は涙を堪えるのに精いっぱいで、返事をはぐらかすことしか出来なかった。



 私はまた、同じことを繰り返すの――?



「もう、逃がさねーよ」

 圭が私の腕を掴み、マンションに入って行く。

「ちょ――」

 エレベーターの扉が閉まるなり、圭の唇の熱を感じた。抵抗する間もなく、彼の舌が私の唇をこじ開ける。



 あの子にも、こんなキスをしたの――?



 自分の想像にハッとして、私は圭を突き飛ばした。

「やめてっ!」

 エレベーターが五階に到着し、扉が開いた。

 圭は私を逃がさなかった。部屋に入るなり、私は圭に抱きかかえられるように寝室に連れて行かれた。

「圭、やだっ――!」

 私の言葉なんてお構いなしに、圭は私をベッドに放り投げた。圭が私に伸し掛かる。

「絶対、逃がさない」

 圭の唇が私の唇を塞ぎ、圭の手が手早くシャツのボタンを外していく。

「ん――」

 抵抗する間もなく、圭の手がブラの中に滑り込む。掌の熱さが身体中に伝染する。

「圭! 熱上がっ――」

 私の言葉は圭の唇に飲み込まれた。圭の手がスカートをたくし上げる。



 また、戻るの……?

 セフレに――。



 苦しかった。

 最初は求められるだけで幸せだったのに、いつの間にかそれだけでは満足出来なくなっていた。

 何度抱かれても、ベッドの外では幼馴染。誰も私たちがセックスしてるなんて気づかない。学校での圭は相変わらず女に囲まれていて、告白もされていた。圭が『受験に集中したいから』と断るたびに、自分は勉強の息抜きにちょうど良い存在なんだと思い知らされた。



 身体だけは嫌。

 でも、私が拒まなければ、圭が他の女を抱くことはない。

 心が欲しい。

 けど、愛なんて信じない。

 私が一番、最低だ――。



「なんで泣いてんの……?」

 私を見下ろす圭の顔が、歪んで見える。

「そんなに嫌か……?」

 そう言った圭が、泣いているように見えた。

 涙なんか少しも出ていないのに、なぜかそう感じた。



 圭なんか大嫌い……。



 圭といると私が私でなくなる。



 大嫌い――。



 認めたくない『女』の私が暴れだすから。


 大嫌い――――。


 自分が圭を求めていると、思い知らされるから。



 大嫌い――――!



 圭に愛されたいと願う自分の醜さに、吐き気がする。

「どうして……」

「え?」

「どうして私を抱くの――?」

「……言って……いいのか?」

 圭の低い声が、私の心臓を思いきり蹴飛ばした。



 ダメ――!



 私は両手で圭の口を塞いだ。



 聞いてしまったら、戻れなくなる――。



 圭は私の手を払いのけた。

「言わないよ」

「え……?」

「言ったって信じないだろう?」

 圭の指がゆっくりと私の膣内《なか》に入ってくる。

「あっ……――」

 久し振りの感触に、身体が強張る。

「お前が信じられるようになるまで、言わない」

 圭の指が動くたびに、全身が痺れるほどの快感が押し寄せる。

「んんっ――」

「けど、黙って待ってる気はないから」

「け……い……」

 無意識に、圭のキスに自ら唇を開いていた。

 私の弱いところを知り尽くしている圭に逆らえるはずもなく、私は快感に身を震わせた。

「お前は誰にも渡さない――」

 意識が朦朧とする中、圭が一気に押し入ってくる。

「ああっっっ――!」

「伊織……」

 圭の息が耳にかかる。

「伊織…………」

 容赦なく突き上げられて、私は快感の海にゆっくりと沈んでいった。
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