ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 5*探り合い

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 終業時間間際。

 私は圭にメッセージを送った。

『今夜はカレーです。
 二十時、○○駅で待ってる』

 圭からの返信はなかった。

 既読にはなっているから、来るはず。

 私は急いで家に帰って米を研ぎ、カレーとサラダを作り、部屋を片付けた。この部屋に蓮兄と咲さん以外の人を入れたことはない。

 思えば、実家の私の部屋に圭を入れたこともなかった。

『惚れた女』

 午後の仕事中も圭の言葉が、何度となく私の動きを止めた。

 ずっと避けてきた言葉が嬉しくてたまらない。

「ふふふ……」

 自分の不気味な笑い声に、恥ずかしくなる。

 待ち合わせの十五分前に部屋を出ようとした時、インターホンが鳴った。モニターを見て、目を疑った。



 なんで圭と……蓮兄が……。



 モニター越しにも、圭が相当不機嫌なことはわかった。

「どう……ぞ」と言いながら、私はオートロックを解除した。



 蓮兄――!



 私はため息をつきながら、カレー用の皿を三枚、鍋の横に置いた。

 いつもは部屋のインターホンも鳴らす蓮兄が、今日に限って鳴らさずにドアを開けた。

「お、カレー」

 我が物顔で部屋に上がる蓮兄の後ろで、圭が私を睨んでいる。

「芹沢、上がれよ」と言いながら、蓮兄が持っているビニール袋を私に手渡す。

 中には缶ビール。

「お邪魔します……」

 蓮兄には昼間、圭に私と蓮兄が兄妹であることを話すと、言っておいた。蓮兄は少し面白くなさそうだった。



 とはいえ、まさかこんな子供染みたことをするなんて――!



「どうして二人が一緒にいるの?」

「駅で会ったんだよ」と言って、蓮兄は脱いだジャケットを私に渡す。

「伊織と待ち合わせてるって言うから、一緒に来た」

 これじゃ、どこから見ても恋人。蓮兄はあからさまに圭を挑発している。

 蓮兄のことは好きだけれど、さすがにムッとした。

「違う。私が呼んだのは圭だけなんだけど?」

「なんで? いつもはいきなり来ても何も言わないのに」

 蓮兄もこの部屋の不穏な空気に気付いていて、楽しんでいるようだった。

 圭の誤解を解きたくて呼んだのに、こじれている。これ以上、彼を不機嫌にさせたくなかった。

「社長、伊織とどういう関係ですか?」

 圭が蓮兄を正面から睨みつけて、言った。

「兄妹」

 蓮兄は待ってましたと言わんばかりに、ニッコリ笑った。

 それを聞いた圭が、ポカンと口を開けてパチパチと瞬きをした。

「きょう……だい……?」

「そ、伊織は俺の妹。ちゃんと血も繋がってる」

 圭の驚きように満足したようで、蓮兄は声を上げて笑い出した。

「はははははっっっ……! すげー間抜け面!!」

「蓮兄!」

「いや……、ないだろ! あの家にはいつも伊織だけで――」

「ま、座れよ。伊織、ビールちょうだい」

 私は蓮兄が買ってきたビールを冷蔵庫に入れ、冷やしてあったビールを三本出した。テーブルに置く。

 圭は戸惑いながら、蓮兄の正面に座った。
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