ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 13*強行

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「あんたは利用されたんだよ、末吉に」

「何の……ために……」

 織田さんの声はか細く、震えていた。

「末吉は、SIINAを買収しようとしている。その為に、SIINAの弱点が必要だった」

「買収……?」

「SELFデザインはここ数年、服飾部の業績が悪化している。社内トラブルが原因で主力のデザイナーが一斉に辞めたせいだ。逆に、業績を伸ばしているのがSIINAだ。買収して服飾部の復活させたいんだろう」

「SIINAの弱点……て?」

「弱点なんかない。だから、作ることにした。データを改ざんし、資材を盗み、ずさんな経理と資材管理の実態をねつ造した」

 織田さんのスカートに一滴、二滴と雫が落ちる。落ちた雫は染みとなり、スカートの上で広がっていく。

「竹井さんは自分がゲイであることをネタに、末吉に脅迫されていた。経理データの改ざんを指示されて、その通りにしてしまった。けど、耐え切れなくなってSIINAを辞めたんだ。あんたのせいじゃない」

「慰めてる……つもり?」

「事実を言ってるだけだ。竹井さんはけじめをつけるために、社長と副社長に謝罪したぞ」

「…………」

「あんたがどうするかはあんたが決めればいい。末吉に指示されたわけじゃないと言ったが、奴はあんたに嘘をついてSIINAを憎むように仕向けた。その上で、あんたに不正をけしかけた。立派な共犯者だ」

 織田さんは大きく息を吸い、顔を上げた。涙で濡れた頬を、手の甲で拭う。

「末吉はSIINAの服飾部について詳しく聞いてきたわ」

 腹を括ったようだ。

「具体的には?」

「手がけている仕事や、取引先、デザインについて」

「教えたのか?」

「隠す必要のないことは。けど、デザインのことだけは一切話してないわ。これでも……デザイナーの端くれよ。デザインを売る真似はしない」

 少し、救われた気がした。

 どこまでも救いようのないバカ女なら、振り回された社長や副社長が可哀想すぎる。

「警察に……行けばいい?」

 織田さんが立ち上がった。倒れた椅子を起こす。

「それは、俺が決めることじゃない」

「そう……」

 俺は織田さんのスマホを差し出した。彼女が受け取る。

「頼みがあるんだけど」

「何?」

「私、この部屋に泊まって行ってもいい?」

「ああ」

「それから……」

 織田さんが右手をゆらりと上げた。人差し指が俺を指す。

「そのボールペン、貸してくれない?」
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