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Mission 14*もう一人の裏切者
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しおりを挟むやはり、圭には言わなかった。
週末、圭は本当に疲れていて、ほとんど眠っていた。
どうして言わなかった、と怒られるのはわかっていたけれど、私は一人で笠原さんと話すことにした。
話がしたいと言った私を見る笠原さんの目は、嫉妬を隠さなかった。
終業時間後、会社の近くのカフェに行った。奥の席に座る。
私はアイスコーヒー、笠原さんはオレンジジュースを注文した。
「木島悟之さんをご存知ですよね?」
「はい」
シラを切られるかと思っていたが、意外にもあっさり認めた。
「一緒に暮らしています」
笠原さんは三十五歳。長い黒髪をうなじで一つに束ね、黒縁の眼鏡をかけている。いつも白いシャツに黒っぽいパンツ姿。
野暮ったいとか地味とか真面目とか、そんな印象。
けれど、私は彼女のその姿が作られたものだと知っていた。
悟之さんと一緒の彼女は髪を下ろし、グリーンのワンピースを着ていた。眼鏡も外していた。
別人のようで、写真を見てすぐには彼女だとわからなかったくらい。
「木島さんに伝言をお願いします」
敢えて、『お願いできますか?』とは言わなかった。
「『QWEENからSKへ。明日の十二時に連絡を待つ』と」
ウエイトレスがアイスコーヒーとオレンジジュースを運んできた。笠原さんは急くようにジュースを飲む。
「私が、伝えると思いますか?」
一気にグラスを半分ほど飲み、彼女は言った。
「古賀さんが悟之の恋人だったこと、知っています」
笠原さんは『悟之』て呼んでるんだ。
悟之さんは笠原さんの二才年上。お似合いの年齢だ。
笠原さんは眼鏡を外し、おしぼりで目頭を押さえた。眼鏡一つで、印象がまるで違う。
「関係があったことは確かですけど、恋人……とは違います」
「愛されていた余裕……ですか?」
「え……?」
「どうして悟之を裏切ったんですか?」
『どうして俺を裏切った!』
四年前の悟之さんの言葉を思い出す。
『伊織なら気づいたはずだ!』
確かに、私は気づいていた。
「悟之さんからどう聞いたかはわかりませんけど、私は彼を裏切ったわけじゃない」
「でも、あなたなら悟之の望みを叶えられたんじゃないですか?」
確かに、私なら彼の望みを叶えられただろう。
けれど、あの時のことをどれだけ考えても、私は同じことをしたと思う。
「私は悟之を裏切ったりしない」
「その為なら、犯罪にも手を貸すんですか?」
「――――!」
「そんなの、愛情じゃない」
「あなたに何がわかるのよ!」
店内の視線が私たちに向けられた。
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