ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 15*過去

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「思い出してくれて嬉しいよ」

 悟之さんは、言った。

「お久し振り……です」

「ホント、久し振りだね。そんな気はしないけど。ずっと君のことを考えていたからかな」

 四年前と変わらない、爽やかな笑顔で言った。

「大吾は一緒じゃないの?」

「え――?」

「ああ。隣のカフェか、向かいのファミレスにいるのかな?」

 その通りだった。

 悟之さんが指定したのは中華料理店で、隣にはカフェ、通りの向こうにはファミレスがある。

 大吾はカフェにいる。スマホを通話状態にして会話を聞かせろと言われて断ると、代わりに防犯ブザーを持たされた。ボタンを押すと、大吾が持っている受信機に信号が送られる。

『ボタンを押したら三十秒で駆け付けるから』

 いつになく真顔で、そう言った。
 
「一緒でも構わなかったのに」

「私が……、悟之さんと二人で話したいって言ったの」

「そうか」

「お待たせしました。あんかけラーメンのハーフサイズと五目チャーハンのハーフサイズ、大海老のチリソースと小籠包です」

 店員が注文を聞きに来ないことが不思議だったが、どうやら悟之さんが事前に注文していたらしい。

「食べながら話そうか。中華が好きだって言ってたろ?」



 本当に憶えていてくれたの……?



『あの頃、よく食ったよな。研究室で中華』

 待ち合わせ場所が中華料理店だと知って、大吾がそう言った。

『お前が好きだからって、悟之さんがよくテイクアウトして来てたろ』

 正直、まさかと思った。

「笠原さんは……何が好き?」

 悟之さんのペースに乗せられまいと、聞いた。けれど、彼は顔色一つ変えなかった。

「紗耶は和食派なんだ」

「じゃあ、悟之さんと一緒だ」

「そうだね」

 悟之さんがレンゲでチャーハンをすくう。私はあんかけ焼きそばに息を吹きかけた。

 皮肉なことに、彼と外食するのは初めてだった。

 関係があったと言っても、会うのは研究室でばかりだったし、セックスも研究室か悟之さんの部屋で、泊まったことはなかった。

「SIINAでの仕事は楽しいかい?」

 ラーメンを半分ほど食べ終えた時、鶏肉とカシューナッツ炒めと酢豚がテーブルに並んでいた。

「どうかな。悪質なクラッカーの相手は楽しいとは言えないでしょう?」

「そう? 君の得意分野だろう? やりがいがあるんじゃないのか?」

『俺を追い詰めるのは楽しいだろう?』

 そう、言われているかのよう。

 私は行儀が悪いことを承知で、豚肉に箸を刺した。真上から直角に。
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