ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 20*誓い

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 あづみが立ち上がった。伊織の隣に座り、興味津々に覗き込む。

 指輪はまだ箱に入ったまま、俺の手の中にあった。

 俺は箱を開け、指輪を取り出した。伊織の左手を手に取り、薬指にはめる。数時間前に測ったばかりだから、ぴったり。
 
「これ……」

 伊織が指輪から俺に視線を上げた。

「サイズがあって良かったよ」

 ジュエリーショップで伊織が凝視していたピンクダイヤの指輪。

 ショップを出る時に、伊織の目を盗んで取り置きを頼んでおいた。幸運ラッキーなことに、在庫の一つが伊織のサイズだった。

 伊織の目に涙が浮かぶ。

「泣いてばっかだな」

「圭が……泣かすんじゃない――」

「可愛いー! 古賀さんに似合うね」

 いつの間にか永田もそばに来て、あづみと二人で指輪をまじまじと見ている。

「めちゃくちゃ高そう……」

「芹沢ってそんな給料もらってんの?」と、誰かが聞く。

「バカ。天下のT&Nだぞ? 当たり前だろ」

「いいなぁ……」

「永田、指輪にヨダレ垂らすなよ」

「ヨダレなんて出てない!」

「垂らしそうなほどガン見してるから」

「気に入った?」

 指輪を見て呆けている伊織の耳元で、聞いた。伊織が頷く。

「ありがとう……、圭」

「お礼にこれ、書いてくんない?」

 俺はショルダーバッグから封筒を取り出した。中から折りたたんだ紙を取り出す。

 婚姻届。

 伊織が記入する欄以外は、記入済み。

「これ――――!」

 用紙を広げて、伊織は目を丸くした。

 証人の欄には、俺の父さんと蓮さんの名前。

「昨日、サイン貰って来たんだ。俺の親も蓮さんも喜んでくれたよ」

「え? 何? ここで書くの?」

 あづみがテーブルのグラスや皿をよけて、伊織の前を開ける。

「あ、布きん取って!」

 手早くテーブルを拭く。

「伊織?」

 用紙を見つめたまま、動かない。

「芹沢。お前、焦り過ぎなんだよ」と、長谷川がため息交じりに言った。

「古賀。書いたら役所まで全力疾走されるから、今すぐ書く必要ないぞ?」

「え? けど、今日の日付書いてあるよ?」

「は? マジ?」

「お前、今日出せなかったら書き直しじゃん」

「だから! 今日出すんだよ」

「え?」と、伊織がようやく顔を上げた。

「ちょうどお前の誕生日だしさ、いいかなと思って……。しかも、大安だぞ?」

「古賀さん、今日誕生日なの? おめでとー!」

「そういう問題かよ」

「そういう問題なんだよ!」
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