ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 23*決着

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「は……?」



T&N経営戦略本部……?



 初耳だった。

「グループ全体の経営戦略を一括管理するために、本社所属で新設する。その発足を手伝え」

「それはつまり……、本社に異動ってことですか?」

「そうだ。おめでとう、昇進だ。しばらくは子作りする時間もないぞ」

「え、それは嫌です」

「大丈夫だ。奥さんの方も忙殺だ」


 ははは、と笑いながら、蒼さんが振り返る。応接用のソファでは、緊張が走っていた。

 知らぬ間に、咲さんもノートパソコンを開いていた。

 笠原さんは綾香さんと何やら話し込んでいる。

「そういうことか……」

 咲さんが呟き、部屋中の視線が咲さんに集まった。

「木島の狙いがわかったわ」

 俺と蒼さんは人数分の飲み物を持ってソファに移動した。

「SIINAの情報を買った会社を摘発させようとしてるみたい」

「情報を買った会社?」と、蓮さんが聞く。

「そう。木島は闇雲に情報を売っていたわけじゃないの。情報売買に手を出すような、会社を選んでる。そして、そういう会社は、他にも不正を働いている。木島はその証拠を集めていたみたい」

「SIINAを陥れた会社を摘発させるなんて、罪滅ぼしのつもりか?」

 蒼さんが紅茶のペットボトルの口を開けて、咲さんに手渡した。

「情報を盗まれていたことが公になったら、笑いものになるのはSIINAだろ」

 紳士だ、と思った。

 俺は伊織に缶を渡しただけ。

 自己嫌悪に陥るのは帰ってからにしよう、とため息を我慢した。

「こちらから公表してはどうでしょう」と、蓮さんが言った。

「こちらから?」

「はい。全ては我々の計画だったと公表するんです。SIINAは情報漏洩に気がつき、以前から業務提携の協議を進めていたT&N開発の協力を得て、犯人の特定と証拠を集めた」

 蓮さんの言葉を、蒼さんが繋ぐ。

「そして、追い詰められた犯人は自首。事件の公表に至った」

 蓮さんが頷く。

「事件と業務提携は全く別物だが、それによって我々の結束は固まったと印象付けられたら、好感を得られますね」

 恐れ入る。

 二人とも俺と五つ・六つしか違わないのに、まるで雲の上の人だ。

「笠原さんは、それでいいの?」

 綾香さんが聞いた。

「事件を公表してしまったら、木島は犯罪者になってしまうわ」

 伊織も同じことを心配しているのだろう。さっきから口を開こうとしない。

「それは……大丈夫です」

 笠原さんが穏やかに微笑んだ。

「木島がそれを望むのなら、私は待つだけですから」

 ちょっと、相当恥ずかしい言い方をすれば、俺は笠原さんが聖母マリアのように見えた。
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