復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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4.合鍵

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 直へ荷物を返すにあたって、課長の心配はさておき、二人きりになるのは私も避けたい。

 だから、人目のある場所で、カフェのような場所はどうかと思ったが、会社の人に見られると厄介だ。

 かといって、本当に課長に頼むわけにもいかない。

 ひとまず、私は直にメッセージを送った。

 直の部屋の私の荷物を持ってきてほしいと。

 すでにきらりに処分されている可能性も考えたが、だとしても聞いておきたい。

 ところが、直からはすんなりと了承のメッセージが届いた。

 そしてその翌日の金曜日。

〈今夜、梓の部屋に荷物を届けるよ〉

「は……?」

 皮肉にも、別れを告げられた会議室で、私は直からのメッセージに小さく声を漏らした。

 直は優しいから荷物を持ってきてくれるというのは想定の範囲内だったけれど、常識も持ち合わせている人だから部屋来るというまでは考えていなかった。

 別れた私たちが家を行き来するのがまずいことくらい、わかるだろうに。

〈ありがとう。駅まで取りに行くから着いたら連絡して〉

〈遅くなるかもしれないし、話したいこともあるから、部屋に行くよ〉

「いや……」

 返事を見てさらに戸惑う。

 話とはなにか。

 改めての謝罪か、妊娠の確認か、慰謝料請求をしないでほしいとの要求か。そのすべてかもしれない。

 実際のところ、慰謝料請求については何も動いていない。

 気持ちの整理がついたと言えども、別れてからまだ三度目の週末だ。

〈頼む。二人で話したい〉

 返事の前に、またメッセージが届く。



 どうしよう……。



 断ったところで、直は私の部屋を知っている。というか、今の今まで忘れていたが、合鍵を持っている。



 さっさと返してもらうんだった……。



 会議で使ったテーブルを拭きながら、考える。

 来ても中に入れずに外で話す。駅で待ち伏せる。荷物は郵送する。

 それでも、合鍵問題が残る。

 片手に布巾を持ったまま、スマホを見つめる。

「ん~~~」

「梓?」


「どうした?」

 会議終了後に電話が入っていると呼ばれて出て行った課長だった。

「課長こそ、どうしました?」

「ペンを忘れたらしくて」

「ペン?」

 テーブルの上はすべて綺麗に拭いたばかり。ペンなんてなかった。

 課長が座っていた席に行ってしゃがむと、椅子の足のそばにキャップタイプの黒いペンが落ちていた。

「これですか?」

「ああ、サンキュ」

 ペンを手渡す。

 課長は受け取ったペンをスーツの内ポケットに挿すと、その手で私の肩に触れそこにかかる髪を一束すくった。

「で? どうした」

「え?」

「難しい顔してる。仕事のことか?」

 一瞬で表情が、雰囲気が柔らかくなる。

 以前から、こんな風に仕事中とは違う表情を向けられることがあった。

 単にオンとオフを使い分けているのだと思っていた。思うようにしていた。

 だって、自意識過剰なんて恥ずかしい。

 それに、もしも自惚れじゃなかったら?
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