【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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8.彼の嫉妬と元カノとの再会

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「どうしてそんなことを聞くの?」

「え?」

「何を気にしてるの?」

「……」

 鶴本くんは無言で、フイッと視線を逸らした。

 私は立ちあがり、食器を片付けた。

 鶴本くんは私が南事務所に慣れて、北事務所に戻りたがらないとでも思っているのだろうか。

 私はお湯で、皿についたミートソースを洗い流す。

「社労士業務を北事務所の担当にするって、所長が言ってたでしょ?」

「……」

 スポンジに洗剤をつけ、皿を擦る。

「私が社労士業務を学んでいるのは、鶴本くんに教えるためなんだよ?」

「……」

「言いたいことがあるなら言えよ」と、私は呟いた。

 二週間前に、この部屋で鶴本くんが言ったこと。

 私は再びお湯を出した。

 チラッと視線を上げると、彼が口を尖らせて猫を抱き締めていた。足まで絡ませて。



 かわいい……。



 鶴本くんの視線がこちらに動き、私は慌てて視線を皿に落とした。にやけかけていた口元を、ギュッと結ぶ。

「――んて、どんな――?」

 鶴本くんが何か呟いたのはわかったけれど、水音で聞こえなかった。

 私はキュッとレバーを上げた。

「なに?」

 静まり返った十二畳のリビングダイニングに、ピチャンと水滴がシンクに弾ける音がする。

「不破さんて、どんな人?」

「不破さん?」

 鶴本くんはバツが悪そうに私に背を向けていた。

 不破悠ふわ はるかさんは、確か私に二歳年下で、楠所長の甥、お姉さんの息子さんだ。大学を卒業し、社労士事務所で三年間の実務経験があり、社労士試験に合格した翌年、所長が事務所に招いた。

 子供のいない所長は、ゆくゆくは不破さんに事務所を継いでもらいたいと思ているらしい。と、以前、小野寺さんが話してくれた。

 跡継ぎかはともかく、不破さんが所長の甥であることは、鶴本くんも知っている。

「どんな、って?」

「……」

 もしかして、と思った。

「鶴本くん?」

「…………」

 もしかしなくても、そうみたいだ。

 私は濡れた手をタオルで拭き、鶴本くんの背後に座った。

 鶴本くんは、私を見ようとしない。

「不破さんて、身長が百八十五センチもあるんだって。私は見上げてると首が痛くなっちゃうんだ。足が長くて大股だから、歩くのも早くって、私は追いつけないし。社用車が軽だから、いっつも窮屈そうだし。あ、不破さんて学生時代はバレーボールをしてたんだって。国体にも出場したことがあるって。鶴本くんは何かスポーツしてた?」

「サッカー……」

「へぇ! っぽいね。今はもうやってないの?」

「たまに友達とフットサルしてる」

「そうなんだ。私は中学までソフトボールやってたんだけどね、足が遅いから、いっつも代走に交代で、ホームベースを踏んだことがあんまりなかったんだよねー」
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