91 / 179
12. 湧き上がる不安
3
しおりを挟む「千尋、酔うとすげーイイですよね」
タクシーを停めた有川さんが首を捻り、声の主である龍也さんを見た。暗くて良く見えないけれど、殺気のようなものを感じた。
「けど、ヤリすぎると記憶飛ぶんで、ほどほどに――」
「――ご親切に、どうも」
低い声でそう言うと、有川さんは千尋さんをタクシーに乗せ、自分も乗り込んだ。
三秒ほどで、タクシーが走り出し、みるみる小さくなっていく。
「千尋、明日は腰立たなそうだな」と、大和さんが言った。
「ですね」と、龍也さんが相槌を打つ。
「いや、お前のせいだろ」と、陸さん。
「龍也、酔った千尋と寝たことあんの?」と、あきらさんが不機嫌そうに龍也さんを見た。
修羅場か――!?
「あるわけないだろっ!」
龍也さんが慌てて否定する。強く。
「ふーん」
「いや、マジでないから! 今のは――」
「あの男が千尋に本気なのか確かめたんだろ?」と、陸さん。
「そう!」
「ふーん」と、あきらさんは信じてない様子。
「別にどっちでもいいけど?」
「あきら!」
「しっかし、ありゃ……」と、大和さんが呟く。
「本気も本気だろ。千尋を抱えてなかったら、龍也殴られてたぞ?」
「だな」と、陸さん。
「なんか……すっげぇ気になるけど、すっげぇ聞きにくいな」
「あきらは何か知ってんだろ?」
大和さんに聞かれて、あきらさんは唇をキュッと結んだ。
「『指輪フェチなの』……って、昔千尋が言ってたけど、結婚指輪のことだったのかな」
俺の隣でそう言った麻衣の声が震えていた。顔を覗き込むと、目に涙。
「千尋……幸せな恋愛してると思ったんだけどな」
俺はそっと麻衣の肩を抱いた。麻衣が俺の胸に顔を押し付け、ぐすっと鼻をすすった。
「してるよ」
あきらさんが言った。
「比呂さんはすぐにでもあの指輪を外したいって言ってるのに、そうさせないのは千尋なの。自分で作ったルールに雁字搦めにされて、苦しいのに絶対認めようとしないの。千尋は私以上に素直じゃないのよ」
なにやら、複雑な事情があるらしい。
俺はコートのポケットを探り、さっき配っていたポケットティッシュを麻衣に差し出した。が、ほんの一瞬早く、真っ青なハンカチが麻衣の涙を拭った。
「なんでお前が泣くんだよ」
陸さんだった。
「だって……」と、麻衣がハンカチを受け取って目を押さえる。
「大丈夫だ。面倒そうだけど、千尋はあの男が好きで、あの男も千尋が好きだ。きっと、上手くいくよ」
陸さんが麻衣の頭に手をのせた。
「お前も千尋が幸せそうに見えたんだろ? 俺もそう思うよ。あの男は千尋にベタ惚れだし、千尋が男に甘えるのなんて初めて見たし」
「うん……」
「俺たちは、千尋の恋を応援してやろう」
そう言うと、陸さんは身を屈めて彼女の耳元で何かを囁いた。
俺の腕の中にいる女に耳打ちするなんて、明らかに俺に対する挑発だ。そんなこと、経験の少ない俺にだってわかる。更に、それを決定づけるように、陸さんは腰を伸ばしながら俺を見た。
すっげームカつく!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる