【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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12. 湧き上がる不安

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「あれ、麻衣の彼氏くん!」

 呼ばれるまで、気が付かなかった。

「なんで……」

「今日は、ヘルプに来ててさ。なに、麻衣も一緒?」

「いえ、一人です」

 会計の時に、やっぱりと商品を替えたことが悔やまれる。

 今日は土曜日。

 本当は午前中から会うはずだった。が、麻衣は昨夜も残業で疲れているから、待ち合わせを十四時にした。

 今は、ちょうど十二時。

 電器店でUSBメモリを買ってから昼飯を食って、待ち合わせ場所に行くつもりだった。



 麻衣の元カレ本庄さんに会いたくなくて、わざわざここに来たのに。



 まさかの再会に、俺はため息を飲み込んだ。

「帰るとこ?」

「はい」

「麻衣、元気?」

「え? ……はい」

「炊飯器は?」

「……元気です」

 上の空で答えてから、おかしな返事をしたと気が付いた。

「それは良かった」

 そう言うと、本庄さんは右手を上げた。

「じゃ、ね」

『麻衣、まだ大学の時の仲間とつるんでる?』

「本庄さん!」

 本庄さんの言葉を思い出した瞬間、考えるより先に彼を呼び止めていた。

「なに?」

「……あの……」

 呼び止めたはいいが、あの言葉の意味をどう聞いたらいいか、迷う。

「……昼飯、食った?」

「え? いえ」

「じゃあ、付き合ってよ。俺、これから休憩なんだ」

「……はい」

 普通なら、何が楽しくて恋人の元カレと飯なんか食うか。それは、元カレ側も同じはず。

 だから、きっと、本庄さんは俺が呼び止めた理由を察したんだろう。



 こういう時、自分が子供ガキだと思い知らされる……。



 俺は本庄さんに続いて、電器店の向いの定食屋に入った。昼時なのに店内は空いていて、すんなり座れた。俺は豚丼、本庄さんは天丼を注文した。

「今日はデートしないの?」

 本庄さんがスマホをいじりながら聞いた。

「これから、会います」

「いいねぇ。俺なんか、麻衣と別れてから縁がなくてさ」

「まだ、好きだからですか?」

 プロポーズまでしたのだから、そう簡単に忘れられないだろう。そして、プロポーズされた側も。

 けれど、本庄さんは表情を変えずに答えた。

「まさか。キッパリ振られたからね。未練なんてないな」

「プロポーズまでしたのに?」

「だから、だ。プロポーズするほど真剣だったのに、裏切られたんだ。どっちかって言うと消したい記憶だな」

「裏切られた?」

 今度は表情が変わった。

 しまった、と言わんばかりに、「あ」と口が開いた。

 陸さんが麻衣に耳打ちした光景が、思い出される。いやな予感が、確信に変わっていく。

「前に、麻衣が今も大学の友達と会っているか聞きましたよね」

「……そうだっけ」

「どうして聞いたんですか」

「……なんとなく?」

「はぐらかさないでください!」
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