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18.私の身体が濡れたから
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しおりを挟む「そういうことだ。どんな決断をしたにしても、さっさと帰って来い」と、陸。
「心配し過ぎてさなえがぶっ倒れる前にな!」と、大和。
『……あり……がと』
さなえのスマホが、通話画面から、大斗くんの笑顔の写真に変わった。
「世話が焼ける奴らだな」と、陸が呟いた。
「全くな」と言った大和が、急に青ざめた。
「さなえっ!? 大丈夫か?」
見ると、さなえが赤い顔で壁に寄りかかっている。
大和が抱き上げて、ソファに座らせる。
「大丈夫。ちょっと疲れただけ」
「病院行くか?」
「それほどじゃないよ」
「千尋のこと心配で、昨日とかちゃんと眠れなかったんじゃない?」
私が言うと、さなえがふふっと笑った。
「心配ってより、ムカついて。みんなで私を除け者にするんだから」
「ごめんね?」
「うん」
「悪いけど、さなえ休ませるわ」と、大和が言った。
私たちはさなえの身体を案じつつ、家を出た。後で、さなえの様子を連絡して欲しいと、大和に頼んで。
三人で駅までの道を歩き始め、気まずさに気が付いた。
よりによって、この三人……。
「今回のこと、助かったよ」と言って、陸が立ち止まった。
「鶴本くんのお陰で、千尋のことが分かったわけだし」
「あ、いえ、俺は――」
「――俺、買い物してくわ」
陸は親指で目の前のコンビニを指した。
「じゃ、な」と言って、身体を回転させた。
陸は気づいてる。
私の気持ちが駿介にあることを。
だから、今更だと思う。
思うけれど、やっぱりこのままではいけないとも思う。
「陸っ!」
私は陸を呼び止めると、振り返った彼の正面に立った。
「陸の気持ち、嬉しかった。ありがとう。だけど、一緒にイギリスには行けない。私は、駿介が好きだから」
逃げるな、と自分に言い聞かせて、私は陸を真っ直ぐに見つめていた。私から目を逸らすのは、ズルイ。
「二年前の気持ちに、決着をつけたかった」
「え?」
「あの時、確かに麻衣を愛してた。だけど、俺は春奈と結婚して、彼女を幸せにしたいと思ったのも確かだ。結局、春奈には愛してもらえなかったけど、自業自得なんだよな」
「陸……」
「地球滅亡の時、麻衣は誰と一緒にいたい?」
前に、千尋に同じことを聞かれた時、私は『みんなといたい』と答えた。
その気持ちは今も変わっていない。
ただ――。
「みんなといたい」
陸が、目を見開いた。
「それで、駿介に抱き締めてもらいたい」
パッチリと開いた目が、ゆっくりと閉じ、再びその瞳に私を映した。
「そっか」
「うん」
「じゃあ、俺もイギリスで、最後の瞬間に抱き締めていたい女を見つけるよ」
「うん!」
私が泣くのはズルイ。
そう思って瞬きを我慢していたのに、頷いた拍子にボロボロと零れてしまった。
「電車乗る前には泣き止めよ?」
陸が笑った。
私も笑った。
涙でぐちゃぐちゃの、きっとすごくみっともない顔で。
「行こう、麻衣」
駿介が陸にぺこりと頭を下げ、私の手を引いて歩き出す。
私は、振り返らなかった。
ただ、強く、駿介の手を握り返した。
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