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【番外編】最後の夜、最初の夜
最後の夜 -8
しおりを挟む「眠そうだな。俺、迎えが来るまでここにいるわ」と、コウが言った。
「いいよ、いいよ!」
「うん。私が一緒に居るからいいよ」
「そしたら、あきらが帰り一人になるだろ? 大丈夫だよ。まいのダンナにはバレないようにすっから」
「そうだな。じゃ、会計頼むわ」
マキがお金をコウに渡し、帰るようにあきらを促す。
「麻衣、大丈夫?」
「うん」
「コウ、ちゃんと嫁さんと話し合えよ? このまま別れたら、絶対後悔すんぞ」
「わかってるよ」
「まい、結婚おめでとう。お幸せにな」
「ありあとう……ごじゃいます……。ごちそうさまれした」
うまく、喋れない。
瞼が重い。
コウと二人きりになり、彼が冷たい水をくれた。冷たすぎて、身体の芯から身震いした。
「なぁ、まい。俺さぁ、子供だって思われたくなくて、必死だったんだよな。仕事の邪魔になんねーように、家事も頑張ったし。けど、そういうのが重かったんかな」
俯きがちに呟いたコウが、今にも泣きだしそうに見えた。
思わず、手が伸びた。
彼の頭をそっと撫でる。
コウの髪は、すごく柔らかかった。
「コウが頑張ってくれてるの、嬉しいと思うよ?」
「そうかな。あ、まい? スマホ鳴ってないか?」
コウは嫌がらずに私に頭を撫でられている。
「うん。けど、あんまり頑張られちゃうと、寂しいよ? 私は……駿介がそんな風に頑張ってたら、寂しい」
「そう……か――。ん? あ、まい? スマホ――」
「うん。私は、甘えて欲しいし、甘えさせて欲しいから」
彼の髪を指に巻き付けて遊ぶと、駿介が私にそうする理由がわかった気がした。
気持ち良くて、もっと触れたくなる。
「あーーー、まい?」
「私が攻めると、すっごい気持ち良さそうな顔をするの。すっごいすっごい欲しがってくれるの、嬉しくて。けど、時々、私にさせてくれなくて。めちゃくちゃ激しくされるの、男らしくてちょーカッコいいの!」
「なぁ、まい。その駿介って、ちょいテンパ?」
「うん? そう。クルクルしてて、触り心地いーの」
「じゃあ! 他の男の髪とか触んなよ!!」
後ろ、頭上から聞き慣れた声が降って来て、私は勢いよく振り向いた。
一瞬で、酔いも醒める。
「駿介!?」
駿介がものすっごく怒った表情で、私を見下ろしている。ここまで怒っているのは、初めてかもしれない。
「スマホ鳴らしたんだけど?」
「え? あ、ごめん。気が付かなくて――」
「――だろうなぁ? で? こちらはどちらさん?」
コウに視線を向けた駿介の瞳が、きらりと光った気がした。光線でも発射しそうだ。
「どうも。奥さんには、俺の年上奥さんの相談を聞いてもらってたんだよね。お礼に一杯奢らせてもらったんだけど。あ、ついさっきまで奥さんの友達と俺の友達も一緒でさ」
「うん! そうなの! ご馳走になっちゃって。あの、うん! 迎えに来てくれてありがとう。帰ろうか。ね?」
私は立ち上がるとバッグを持ち、振り返ってコウに頭を下げた。
「ご馳走様でした! 奥さんと仲直りできるように願ってます」
「うん、ありがとう。まいもお幸せに」
「まい……?」
コウが私を呼び捨てたことに、駿介が反応する。
私は彼の腕を引っ張って、逃げるように店を出た。
それから、タクシーを捕まえて新居へと帰ったのだけれど、不覚にも私は途中で意識を失ってしまった。
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