サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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10.来訪者は突然に……

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「タイミング最悪だろ……」

 俺は夏依の寝顔に呟いた。

 大貴に続いて父親にまで再会してしまうとは思いもしなかった。

 しかも、父親は夏依に気づかなかった。

 その上、再婚後に娘が生まれていて、仲の良い父子の姿を見せつけられたとあっては、夏依が混乱し、結婚に疑心を持っても当然だ。

 人の気持ちは永遠ではない。

 夏依の両親も、香里も、夏依の元カレも、心変わりした。

 それは仕方がないことだったのかもしれないが、その後を間違えた。


 そういや、香里の件もあったな……。


 夏依に話したのは、事実だ。


 おかしいと思ったんだよな。納品済んでからかなり経ってんのに、いきなり飯食おうなんて。


 俺がブロックしたから、香里は共通の取引先を使って俺を引きずり出した。


 まさか尾行けられてたとは……。


 しつこく謝罪と復縁を迫る香里だが、どうも目的は別にあるようだ。


 あの時の写真を消して、とか言ってたな。


 恥ずかしすぎる写真だから消してほしいと言っていたが、本当だろうか。

 俺はスマホの、そう多くはない写真の中からあの日のものをタップした。

 数回とはいえ俺と寝たベッドで、男に跨る全裸の香里。


 確かに恥ずかしすぎるだろうな。


 モザイクも白抜きもないセックス画像。


 だが、恥ずかしいって理由だけでしつこすぎないか……?


 いや、人によっては人生が嫌になる程の羞恥だろう。

 だが、ならば、その現場を見た相手にこそ会いたくないのではないだろうか。


 それとも、俺が腹いせに画像を拡散すると思ってるのか……?


 それはまた、浮気よりショックかもしれない。

 俺は、俺の方を向いて寝ている夏依の額にそっと手の甲を当てた。

 熱が下がって良かった。

 さっき起き上がった時、子供みたいに喚いたことを恥ずかしいと言っていた。

 だが、俺は彼女が素の感情を見せてくれたのだろうと嬉しかった。

 今の夏依を見ても、子供の頃の話を聞いても、きっとわがままを言うことのない、いい子だったのだろうと思う。

 どこからどう見てもクズな元カレと付き合っていたのも、必要とされたい願望、一人でいたくない寂しさからじゃないのかと思う。


 だけど、結婚は怖い……か。


「時間をかけて……だな」


 それから、大貴のことも……。


 お節介なんて性分じゃない。

 他人なんかどうでもいい。

 部下の面倒を見てたのも、自分の評価アップのため。

 退職だって、部長のエラソーな言動にムカついただけで、部下を貶されてムカついたわけじゃない。

 基本、自分にデメリットがなければいい。そういう人間だ。

 香里はメリット重視の女だったが、だからこそ振り回されることがなくて楽だった。


 なのに――。


 夏依に関してはいつもの自分ではいられない。

 損得なんかどうでもいい。


 ただ、夏依が笑っていてくれたら――。


 夏依の頬を指先で撫でると、くすぐったかったのか彼女の口元がふにゃりと緩んだ。

「そうやって笑っててくれよ」

 らしくない想いが口をつき、なんだか気恥ずかしい。

 が、本心だ。

 離れ難さを振り払って、俺は彼女の部屋を出た。

 乾かした俺と夏依のコートをクリーニングに出して、買い物に行かなければ。

 眠る彼女を起こさないようにそっとマンションを出た俺は、思いついた相手に電話をかけてから、車を走らせた。
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