サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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13.元上司は優しい嘘つきでした

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 兄も知っているのだと確信したのは、その表情が光希と同じだったから。

 光希に兄と会う店と時間を伝言してもらってから、三日。

 金曜の仕事終わりに、私は兄と向き合っていた。

「この前はごめんなさい」

 私は軽く頭を下げた。

 この前、とは須賀谷さんといる店に光希と兄が来た時のことだ。

 あの時、十数年ぶりの再会にも関わらず、私はろくに話もせずに逃げた。

「いや、いいんだ。俺も、いきなり押しかけたし……」

 兄は私以上に不安そうな表情で、視線を彷徨わせている。

 この三日間。私は、光希から兄との出会いや一緒に働くことになった経緯なんかを聞いていた。

 光希は私と兄の和解を望んでいて、わかりやすく私に兄に対して好印象を抱かせようと必死だった。

 今日も、一緒に来ると言い、その度に私は断った。

 そして、つい数分前にも電話がきた。

『やっぱり、俺も同席した方が……』と言う光希に、私は言いたくなかった言葉を放った。

『来たら嫌いになる』

 光希の返事は『家で待ってます』だった。

 いくら恋人でも、三十を過ぎた大人だというのに、心配が過ぎる。

 恋人とはドライな関係を望んでいる、なんて言っていた男と同一人物とは思えない。

 とにかく、私は兄と二人で話したかった。

「私がお父さんの子供じゃないって、知ってたの?」

 単刀直入に聞くと、わかりやすく兄が驚き、けれどそれは、知らなかったことを知った驚きではなく、私が知っていることへの驚きだとすぐにわかった。

「光希が言ったの?」


 やっぱり、光希も知ってたんだ……。


 だから、私がお母さんに会おうかなと言った時、強く反対した。

『あんな親』と言ったのも、そのせいだ。


 あれ? でも、お母さんは――。


「どうして私を捨てたのか」

 兄の眉間に皺が寄る。

「それを聞きたくてお母さんに会おうかなって、思ったの。だけど、光希は反対した。その後で、思い出したの。私たちの血液型」

「血液……型……?」

「お父さんはO、お母さんはAB、お兄ちゃんはA、私はAB。ネットで調べたら、OとABからはAかBしか生まれないんだって」

 こんな話を、落ち着いて話せている自分に不思議な感じがした。

 対照的に、兄は動揺した。

 きっと、兄と光希は私に知られたくなかった、知らせないようにしてくれていた。

 だけど、私は知ってしまった。

「不思議なんだけど、ああそうか、って思ったの。だから、お父さんは私に見向きもしなかった」

「夏依……」

「お兄ちゃんは知ってたの? 知ってたから――」

「――違う! 知ったのは、最近。あの日、俺があんなことを言った時は、親がそれぞれ浮気してるってことしか知らなかった」

 それから、兄はぼそぼそと話してくれた。

 兄が両親の不貞を知ったこと、家族ごっこが辛かったこと、私を傷つけたことを悔やんでいること。

 私は兄がずっと独りで生きてきたことを光希から聞いてから、家族を壊した兄を恨む気持ちなんて少しも持てなくて、むしろ、贖罪のように独りでいる兄が可哀想に思えていた。

 数年だけれど、大人になるまで私には祖母がいてくれた。

 でも、兄はずっと独り。

「ごめん、夏依」

 深く頭を下げた兄に、負の感情はもてなかった。

「私とお兄ちゃんだけになっちゃったね、家族」

「……」

「ひとつ、聞いておきたいんだけど――」

 ゆっくりと頭を上げた兄が不安そうに私を見る。

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