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13.元上司は優しい嘘つきでした
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しおりを挟む「――光希はお父さんとお母さんに会ったの?」
「…………父さん、だけ。母さんとは電話で話した」
「そっか」
「夏依、もう――」
「――直接話して、お兄ちゃんと光希は、その内容は私が知るべきじゃないって……判断したんだよね?」
私は意地悪だ。
兄の表情を見ればわかりきっているのに、わざわざ聞いた。
兄は迷い、唇を震わせ、それでもゆっくりと発した。
「知ってほしくない」
「……そっか」
それ以上、どちらも何も言わなくて、頼んだ飲み物もすっかり冷めて、私は先に店を出た。
「今話したことは、光希には言わないで」とだけ言い残して。
それから、私の電話番号とラ〇ンのアカウントのメモを置き残して。
店を出た私は走った。
少しでも早く、光希に会いたかった。
私も光希もよく走ってるな、と思いながら走った。
電車を降りて走り、光希と魔女のキスシーンを見たコンビニの前を走り過ぎ、マンションのエレベーターの中で壁に手をついて息を整え、玄関までまた走る。
そして、肩を上下させながらドアを開けると、なぜか光希が待ち構えていた。
「おかえり」
「どうしたんですか!?」
「なにが」
「や、だって……」
まさか、私の帰りを玄関で待っていたのだろうか。
「腹、減ってないか?」
「え? あ! ご飯の支度――」
「――弁当、買ってきたんだ。食おう」
兄と何を話したのか、聞かれると思った。
気を遣っているのかもしれない。
どうせ今、私が話さなくても兄から聞くだろう。
あれ、でも、なんて言うんだろう……?
今日話したことを、光希には黙っていてほしいと言い残してきた。
お兄ちゃんと話が合わなくなったら困るから、私からは何も言わない方がいいのか……。
「どれがいい?」
どっち、と言われなかったことに少し違和感を持ちながら、光希の指さす先を見る。
「何人分?」
明らかに二つ以上のお弁当。
「残ったのは明日食おーぜ。で? どれがいい?」
真っ先に目についたのは、牛タン弁当。私は牛タンが大好きだ。
次は、チキン竜田弁当大根おろし付き。カリカリの衣と大根おろしの組み合わせも好き。
あ、あんかけ焼きそば……。
これも好物だ。
他には、牛ステーキ弁当に、中華丼。
なんで、五個?
しかも、カウンターの端には、またもお菓子のパッケージが透けて見えるビニール袋がある。
「どうした?」
「え? あ、迷っちゃって……」
「半分ずつにしてもいいから二つ選んでいいぞ? あ、全部開けて少しずつ食べるか?」
「いや、そんな――」
ふと、同じセリフをどこかで聞いた気がした。
どこでだろう。
『そんなに迷うなら半分ずつにするから、二つ選んでいいよ。おばあちゃんの分と三つか』
兄、だ。
そして、更に思い出す。
まだ両親が離婚する前に住んでいた家のそばに中華店があって、私はそこのあんかけ焼きそばが好きだった。ご飯ものなら中華丼。
焼肉屋さんではランチをやらない代わりにお弁当を売っていて、私が選ぶのはいつも牛タン弁当か牛ステーキ弁当。
おばあちゃんの家の近くのお弁当屋さんでは、チキン竜田弁当を買っていた。
あの頃はまだ小学生で、野菜が大嫌いで、おばあちゃんのご飯以外ではほとんど食べなかった。
要するに、肉ばかり食べていた。
おばあちゃんのご飯が、魚や和食が多かった反動かもしれない。
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