サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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14.サレたふたりは……

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 あの日、卓に会いに行かなければ、私と光希が再会することはなかった。

 私に会わずに帰っていたら、光希の元カノは男を連れ込む前だったかもしれない。

 私も卓の浮気を知らず、今も小言を言われ続けていたかもしれない。

 仮に再会していても、卓のアパートまで送ってもらわなかったら、送ってもらっても光希がそのまま帰っていたら、私たちがこうして一緒にいることはなかった。


 そう考えると――。


「元カレに会って、嫌な気持ちになっちゃった?」

 お義母さんが三つ入りの大福のパックを私に差し出す。

 既にお義母さんが二つ食べているから、残りはひとつ。

 買う時に、一つくれると言われていた。

「いえ。なんか、浮気サレなければ光希と結婚することもなかったんだなぁ、って考えてました」

 パックを受け取って大福を指で摘まむ。柔らかい。

「そうね。じゃあ、あの人に感謝しないとね」

「浮気シてくれてありがとう、って言うのもおかしな気がするけど」

 お義父さんが苦笑いする。

「運命よねぇ。二人して同じ日に浮気サレて、それを一緒に目撃して、そのまま一緒に暮らし出すなんて」

「行くところがなくて光希が住み着いちゃっただけだろう?」

「違うわよ! 夏依ちゃんをあの元カレから守る為よ」

 お義母さんとお義父さんの会話を聞くと、私たちの始まりがいかに散々で色気のないものかと、改めて思う。

「単に夏依のことが好きだからでしょ?」

「え?」

「あら」

「そうなのか?」

 お兄ちゃんの爆弾発言に、全員の視線が光希に向く。

「はっ!?」

「だって、前から言ってたでしょ。前の職場の部下が優秀だったって。手伝ってもらいたいって。全部夏依のことだったんだよね? 俺、ずっと思ってたよ。好きだったんだろうな、って」

「おい、大貴!」

 初めて聞いた。

「そうなの? やだ! ホントに運命~」

「まぁ、好意がなきゃ一緒に暮らせないよね」

「ね、ね! 夏依ちゃんは? 上司だった時から光希のこと、好きだった?」

「え? 私は……」

 嫌いではなかった。

 私を経営戦略企画部に誘ってくれて嬉しかったし、鬼だったけれど扱かれて成長できた。

 光希が退職すると聞いた時はショックだったし、泣いた。

「いいだろ、もう! なんだって親の前でこんな――」

 ピーンポーン

「あ! ほら! 業者が来たぞ。夏依、早く食べちゃえ」

 光希がバタバタと玄関に向かう。

 みんな食べたもののゴミを片付けて、立ち上がった。

 まだ大福を手に持っている私は、邪魔にならないようにキッチンに移動した。

 急いで大福を頬張る。

「夏依、むせるなよ」

 業者を案内した光希が隣に来て、優しい声で言った。

 私は急いで大福を咀嚼し、水で飲み込む。

「まずは段ボールを積み込みますね」

 業者の声でお義父さんとお兄ちゃんも動き出す。

「俺も――」

 私から顔を背けた光希の腕に手を伸ばしたのは、咄嗟にだった。

「夏依?」

 私は夫の腕を掴むと、くいっと引っ張った。

 彼が身を屈める。

「本当に前から私を好きだったの?」

 耳元で聞くと、光希がきょろきょろと視線を彷徨わせ、唇を噛んだ。

「会社辞める時、お前も連れて行きたいと思ったのは確かだな」

 あの頃から好きだった、と言われるよりずっと嬉しい。

 私もまた夫の耳元に顔を寄せた。

「私も、一緒に行きたいって思ってた」

「ほら! イチャついてないで運びなよ」

 段ボールを抱えたお兄ちゃんが、呆れた顔で言いながら玄関に行く。

 私たちは笑い合う。

 光希が私の頭にポンと手をのせた。

「これからは、ずっと一緒だ」

 愛し合う二人が必ずする、約束。

 守られるかわかるのはずっと未来さきの、約束。

 守られると信じたい、約束。

 私と光希が本当にずっと一緒にいられるのかは、わからない。

 でも、わからないからこそ、努力しようと思う。

 ずっと一緒にいられるように。

 私とずっと一緒にいたいと思ってもらえるように。

 いつか迎える最期の瞬間とき、私の人生は幸せだったと笑いたいから。

 光希愛する人に、幸せだったと笑って欲しいから。


 幸せだったねと、笑い合いたいから――。


----- END -----
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