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2.目標
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しおりを挟む退院してから、夜中に一人でトイレに行くのが億劫で、晩飯の後は水分を取らないようにしていた。
だが、気を付けていても、したくなるものは仕方がない。
俺は軋む身体を捻り、起き上がった。
時刻は午前一時。
ふうっと息を吐いて、ベッド脇の杖を手に取る。
右足を引きずりながら寝室を出て、トイレを目指す。が、危うく漏らしてしまうところだった。
暗闇でもぞっと何かが動いた気がして、驚いた。思わず身体が仰け反り、壁に寄りかかる格好になった。
「おトイレですか?」
杖を落としてしまったために自由になった左手で、俺は背後の壁をベシベシ叩いて、スイッチを探す。
三度目にスイッチを押せた。リビングに灯りがともる。
「お義姉さん!?」
「すみません、驚かせてしまって」
お義姉さんがソファの背もたれから顔を出す。
「お手伝いします」
駆け寄ると、お義姉さんが俺の右腕を肩に担いだ。腰に腕が回される。
「あの――」
「寝起きは筋肉が強張っていて動きにくいでしょう?」
確かに、昼間以上に身体がミシミシいっている。だが、今、問題なのはそこじゃあない。
用を済ませてトイレから出ると、お義姉さんは台所で水を飲んでいた。
俺は彼女の手伝いを断って、壁伝いにダイニングの椅子まで辿り着いた。ドカッと腰を下ろすと、目の前に水が入ったコップを差し出された。
「なんでソファで寝てたんですか?」
「え? あ、夜中にお手伝いが必要になっても、二階にいると気が付かないので――」
「もしかして、ここに来てからずっと!?」
「……」
少し強めの口調になってしまったせいか、お義姉さんは口を閉ざして俯いてしまった。
「気持ちはありがたいですけど、ソファじゃちゃんと眠れないでしょう」
「いえ、そんなことは――」
「――最悪だ」
お義姉さんに向けた言葉じゃなかった。
だが、そう聞こえても仕方がないような言い方をした。
案の定、お義姉さんは自分への言葉だと思い、肩を震わせた。
「すみません」
即座に謝ったが、彼女は俯いたまま。
「お義姉さんに言ったんじゃありません。そこまでさせてしまった自分が――、今日まで気が付かなかった俺自身に言ったんです」
「――私が勝手にしたことですから……」
どうして、ここまでできるのだろう。
俺とお義姉さんは十日前に初めて会ったも同然で、契約を交わした時に『夜中、助けが必要な時は呼ぶ』と言っておいた。すぐに呼べるようにメッセージアプリの登録もした。
お義姉さんは薄いオレンジの部屋着に相変わらず髪をひっつめている。
眠る時まで――。
俺はコップの水を一気に飲み干すと、立ち上がった。
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