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5.リハビリ
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しおりを挟む「家庭の事情、って言われたらどうしようもないけど、それでも、あんなに急にいなくなるなんて……信じられなくてさ。ホント……」
「ひどい彼女だね」
「え?」
「どんなに急でも、電話くらいできた……はずだよ」
なぜか、楽がひどく悲しそうに言った。眉根を寄せて、涙を堪えているようにも見える。
俺の心情を思ってのことかもしれない。
「電話も出来ないくらい、なにか事情があったんだと思う。アパートの隣の人も、いつ引っ越したかわからないって言ってたし。よっぽどのことがあったんだと思う」
「許せたの?」
「許すとか……考えたこともなかったな。どっちかって言うと、俺こそ謝りたかったし」
「なにを?」
「……俺と付き合ったせいで、女子たちに嫌がらせされてたって、知らなかったんだ。彼女がいなくなった後で知ってさ。それが原因で転校したわけじゃないにしても、嫌な思いをさせたこと、謝りたかった。気づけなかったことも……」
彼女に嫌がらせしていた女の一人が告白して来た時、とてもじゃないが彼女には聞かせられないひどい言葉で振った。それが噂になって、卒業まで女子たちは俺に近寄らなかったほど。お陰で受験勉強に集中できたが。
「……会いたい?」
「え?」
「……その彼女に、会いたい?」
「どうかな。あんな別れ方だったから、その後どうしてたのかは気になるけど、もう十五年も前のことだし。ただ……、この家に帰って来て、楽と一緒に居たら思い出すことが増えて……」
十五年も経てば、人は変わる。
見た目も、性格も。
だからどうというわけではないけれど。
「思い出ってさ、時間が経つにつれて美化されて、なのに朧気にならない? たった一か月の付き合いだったし、彼女は全く覚えていないかもしれないし」
「……うん」
「俺も、彼女の顔とかちゃんと覚えてるわけじゃないんだ。きっと、どこかですれ違っても気づかないと思う。ただ……、彼女の言葉とか仕草とか、そういう記憶はあって……」
「……うん」
「懐かしいなって……思ったり……」
「……うん」
「なに……言ってんだろうな、俺」
毛布があって良かった。
顔を隠せるから。
弱ってる顔を、見られずに済む。
結局、こうして過去の思い出に浸るのは、現実逃避だ。わかっている。
会えるはず、ない。
こんな情けない自分を、早坂に見せたくない。
俺の指はもう、シャープペンを回せない。
けれど、楽にはもうすっかり情けない姿を見せていて、今更取り繕っても無駄だ。
それに、なぜか、彼女は何もかもを受け止めてくれるんじゃないかと、思える。
何もかもを受け止めて欲しい、とも。
俺は毛布という境界線を越え、彼女の手に手を重ね、握った。
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