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7.再会
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楽の上唇を食み、軽く吸う。
彼女はほんの少しだけ唇を開き、俺の下唇を食む。
あの頃と同じようで、違うキス。
俺は楽の腰を強く抱き、更に両足で彼女の身体を囲った。
舌を唇に這わすと、彼女もそれに応えた。
舌同士が触れ、交差し、深く絡みつく。
クチュッと淫靡な水音が廊下に響く。
自然と、互いの呼吸が浅く早くなる。
「楽……」
離れていた十五年を埋めるように、なんて言えば格好もつくが、実際は夢中になり過ぎてやめられなかっただけ。
軽く触れて、舌を絡め合って、また軽く触れて。
そんな風に、何度もキスをした。
勃たない自分が恨めしかった。
微かに反応はする。
きっと、楽も感じている。
彼女に触れたかった。
身体中、余すところなく触れて、舐めたかった。同じように、俺にも触れて欲しかった。
けれど、触れても勃たなかったら、残るのは気まずさだけ。
俺はグッと堪えて、彼女を抱き締める腕を離さなかった。
今は、楽がこうしてキスに応えてくれるだけで十分だ。
そう、自分に言い聞かせた。
何度もキスをした。
何度も、何度も。
呼吸もままならなくなって、仕方なしに唇を離した。
それから、きつく抱き合った。
呼吸が整うまで。
呼吸が整っても。
どちらからともなく腹が鳴って、笑った。
楽に支えられて階段を下り、靴箱の上の箱を思い出す。
俺は箱を持ってリビングに行き、色気のない段ボールを開けた。中に入っているのは、色気たっぷりの深紅の箱。
念の為に箱を開けて中を確認する。
ネットで見たよりも上品で、満足した。
楽はダイニングテーブルの上に置き去りになっていた買い物袋の中身を冷蔵庫に入れている。
「お昼……作るね?」
俺に背を向けたまま、言った。
恥ずかしがっているのだとわかる。
俺はソファに座って、俺の視線を感じて顔を赤らめる楽を見ていた。
遅い昼飯は、チャーハン。
無言で食べた。
俺を意識して俯く楽を眺めていた。
傍目からは気まずそうな、ぎこちない空気も、心地良かった。
楽がいるから。
すぐそばに、きみがいる。
それだけで、十分だった。
「どうして俺の事故を知ったの」
食後のコーヒーを飲んでいる時に、聞いた。
ようやく俺を見た楽の表情は、硬かった。
「萌花は、楽から連絡してきたって言ってたけど」
「うん……」
「俺の事故は、俺の名前なんかも含めて公表はされなかったはずだけど」
「うん……」
「……」
俺は、待った。
これだけの衝撃的な事実を知った今、これ以上に驚くことなんてない。どんなことも受け止められる。
それでも、楽の口からどんな事実がもたらされるのかと、少し身構えていた。
「間宮くんの会社の向いに定食屋さんがあるの、知ってる?」
まるでお門違いな問いに、拍子抜けした。
「定食屋……?」
「うん。向いって言っても、大通りを挟んだ向かいで、しかも、ちょっと奥まっているんだけど……」
「ごめん、わかんないや」
「そっか」
「その定食屋がどうかしたのか?」
「私、そこで働いてたの」
「え?」
楽が、俺の会社のすぐそばで!?
彼女はほんの少しだけ唇を開き、俺の下唇を食む。
あの頃と同じようで、違うキス。
俺は楽の腰を強く抱き、更に両足で彼女の身体を囲った。
舌を唇に這わすと、彼女もそれに応えた。
舌同士が触れ、交差し、深く絡みつく。
クチュッと淫靡な水音が廊下に響く。
自然と、互いの呼吸が浅く早くなる。
「楽……」
離れていた十五年を埋めるように、なんて言えば格好もつくが、実際は夢中になり過ぎてやめられなかっただけ。
軽く触れて、舌を絡め合って、また軽く触れて。
そんな風に、何度もキスをした。
勃たない自分が恨めしかった。
微かに反応はする。
きっと、楽も感じている。
彼女に触れたかった。
身体中、余すところなく触れて、舐めたかった。同じように、俺にも触れて欲しかった。
けれど、触れても勃たなかったら、残るのは気まずさだけ。
俺はグッと堪えて、彼女を抱き締める腕を離さなかった。
今は、楽がこうしてキスに応えてくれるだけで十分だ。
そう、自分に言い聞かせた。
何度もキスをした。
何度も、何度も。
呼吸もままならなくなって、仕方なしに唇を離した。
それから、きつく抱き合った。
呼吸が整うまで。
呼吸が整っても。
どちらからともなく腹が鳴って、笑った。
楽に支えられて階段を下り、靴箱の上の箱を思い出す。
俺は箱を持ってリビングに行き、色気のない段ボールを開けた。中に入っているのは、色気たっぷりの深紅の箱。
念の為に箱を開けて中を確認する。
ネットで見たよりも上品で、満足した。
楽はダイニングテーブルの上に置き去りになっていた買い物袋の中身を冷蔵庫に入れている。
「お昼……作るね?」
俺に背を向けたまま、言った。
恥ずかしがっているのだとわかる。
俺はソファに座って、俺の視線を感じて顔を赤らめる楽を見ていた。
遅い昼飯は、チャーハン。
無言で食べた。
俺を意識して俯く楽を眺めていた。
傍目からは気まずそうな、ぎこちない空気も、心地良かった。
楽がいるから。
すぐそばに、きみがいる。
それだけで、十分だった。
「どうして俺の事故を知ったの」
食後のコーヒーを飲んでいる時に、聞いた。
ようやく俺を見た楽の表情は、硬かった。
「萌花は、楽から連絡してきたって言ってたけど」
「うん……」
「俺の事故は、俺の名前なんかも含めて公表はされなかったはずだけど」
「うん……」
「……」
俺は、待った。
これだけの衝撃的な事実を知った今、これ以上に驚くことなんてない。どんなことも受け止められる。
それでも、楽の口からどんな事実がもたらされるのかと、少し身構えていた。
「間宮くんの会社の向いに定食屋さんがあるの、知ってる?」
まるでお門違いな問いに、拍子抜けした。
「定食屋……?」
「うん。向いって言っても、大通りを挟んだ向かいで、しかも、ちょっと奥まっているんだけど……」
「ごめん、わかんないや」
「そっか」
「その定食屋がどうかしたのか?」
「私、そこで働いてたの」
「え?」
楽が、俺の会社のすぐそばで!?
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