楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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15.自分勝手な愛

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 部屋のドアが開かれたのは、三日後だった。

 俺を拉致した男たちが現れ、両脇を掴まれ、連れて行かれたのは応接間。

 父親の正面に座らされ、男たちは俺の背後に立った。

「頭は冷えたか」

 無表情で言われ、俺も無表情で返した。

「俺に固執する理由はなんだ」

「なに?」

 矢のように鋭い視線に屈しまいと、俺もまた目を見開いて睨みつける。

「あんたには由緒正しい血筋の息子が二人もいるだろう。どうして愛人の子なんかに固執する。本妻は認めてないんだろう?」

「征子がどう言おうと問題ではない」

「だとしても、長男の結婚を認めてやればすべて丸く収まるだろう。三男の、愛人の子が離婚しようがそれこそ大した問題じゃ――」

「――央は家を出た。会社も辞めた」

「はっ……!?」

 そうすることは聞いていたが、まさか俺が逃げている間の、家も会社も混乱している最中に実行するとは。

「犯罪者の身内になろうなんざ、気が知れん」

「だとしても、あんたの息子だろ。しかも、長男だ。後継者として育ててきた年月を無駄に――」

「――そうだ。長い年月を無駄にした。だからこそ、もう間違いは許されない」

 まるで、央を後継者として育てたことが間違いだったと言わんばかりだ。

「だったら要が――」

「――問題外だな」



 だろうな。



 ダメもとで言ってみたが、予想通りの反応。

 それにしても、いくら出来が悪くても、本妻の子ならば愛人の子よりもかわいいものではないだろうか。

「萌花の姉とは別れ、二度と会うな。もうすぐ子供が生まれるというのに、姉妹を弄んだなどと世間に知れたらどうなると思う。これ以上の醜聞は絶対に許さん!」

 ここで、萌花の腹の子の父親は要だと告げたらどうなるだろう。

 どちらにせよ父親この男にとっては孫だから、何も変わらないかもしれない。

 誰の子だとしても、俺の子として届けられてしまう。



 くそっ――!



「萌花が心配ではないのか」

「……」

「日に日に腹が大きくなっていくというのに、夫は自分の姉と不倫しているなど、哀れだとは思わんのか!」

「あんたが説教できる立場かよ! 蛙の子は蛙ってことだ」

 反吐が出そうだ。

 だが、父親を黙らせる言葉が、他に思いつかなかった。

「ならば……、お前も親を見習って、最後は妻の元へ帰れ」

「母さんは、なんであんたの子供なんて産んだんだろうな」

 息を飲む音さえ響きそうなほどの静寂。

 父親はじっと俺を見据えたまま、ただ片手を軽く挙げた。

 背後の男たちが俺の横に移動する。

 俺は、腕を掴まれる前に立ち上がった。

 楽を諦めるくらいなら、あの部屋に閉じ込められるくらい、苦ではなった。

 次に部屋を出たのは、一週間後。

 前回同様、俺はソファに座らされたが、父親は窓の前に立ち、両手を背中に回して組んでいた。視線は窓の外に向けられ、俺を一瞥もしない。

「萌花の姉を見つけた」

 唐突に父親が発した言葉に、俺は瞬きを忘れた。呼吸すらも。

 カッと喉が焼けつくほど熱くなる。

「萌花の父親に知らせるかは、お前次第だ」



 そういうことか。



 我を忘れて父親に掴みかかる前に、意図が読めた。それくらいの冷静さは残っていた。
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