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15.自分勝手な愛
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しおりを挟むそれでも、やはり朝は来る。
正確には、昼。
目覚めると既に陽は高く、腕に抱いていたはずの楽の姿はない。
「楽!」
思わず声を上げた。
部屋の向こうから物音がして、ドアが開いた。
楽が顔を出す。
「おはよう」
もう幾度となく抱き合って、幾度となく朝の挨拶を交わしてきたのに、初めての朝を迎えたかのように、楽ははにかんでいた。
「楽、きて」
手を伸ばすと、楽は躊躇いなく俺のそばに寄り、手を取る。
彼女の腰を抱いて膝に載せ、肩にもたれた。
「会いたいかった……」
「私も」
「一人にさせて、ごめん」
「ううん。悠久こそ、閉じ込められていたんでしょう? 酷いことされなかった?」
「大丈夫」
「良かった……」
心から安心したのが、声で分かる。
今になって、これから楽に話さなければならない現実に、恐怖を感じた。
俺は、楽の優しさに付け入って、自分の欲望を果たそうとしている。
力のない自分が恨めしい。
俺はギリッと強く歯を嚙み合わせた。
「悠久?」
楽の腰を強く抱き、決して離すまいと、離せない俺を許して欲しいと、心の中で縋った。
シャワーを浴び終えると、ダイニングテーブルの上には湯気の立つコーヒーと、トースト、目玉焼きとサラダが並んでいた。
「ランチになっちゃったね」
「冷蔵庫、空だったろう?」
「うん。悠久が寝てるうちに買い物に行って来たの。水とビールしかないんだもの。びっくりしたよ」
独りでは食欲もなく、仕事から帰ってビールを飲んで寝て、起きて水を飲んで仕事に行き、帰ってビールを飲むの繰り返しだった。
「起こしてくれれば一緒に行ったのに」
「疲れてたんでしょう? ぐっすり眠れた?」
「うん」
「良かった」
そう言って柔らかく微笑む楽から目を逸らす。
彼女の優しさが、眩しすぎて目を開いていられない。
そんな彼女を、俺のいる闇に引きずり込もうとしている罪悪感に、吐きそうだ。
「楽」
「ん? あ、食べよう」
「うん」
久し振りの楽との食事。
食事が終わったら話そうと、俺は彼女が今までどうしていたかを聞いた。
楽は、藤ヶ谷さんの手を借りておばあちゃんの遺産を手にし、北海道内を旅していたという。
その間、藤ヶ谷さんには毎日電話で居場所を伝え、二回は顔を合わせたらしい。
写真は、その時に撮られたのだろう。
恐らく、父親の手先は藤ヶ谷さんを尾行て、楽の居場所を掴んだ。
楽は写真を撮られたことも、尾行されていたことも気づいていなかった。
一緒に暮らしたウィークリーマンションは、今も借りたままになっていた。
食事を終えて、後片付けをする楽を眺めながら二杯目のコーヒーを飲み、どう話しだそうかと考えた。
どんな話し方をしても、俺の願いは楽を苦しめるだろう。
考えがまとまらないまま楽が片付けを終え、俺は覚悟を決めて深呼吸をした。
が、楽は冷蔵庫を開けると野菜や肉を取り出した。
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