楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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17.愛を取り戻すため

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 週末。

 俺はスーツにノータイの格好で明堂家を訪れた。

 萌花は征子さんに呼ばれているから、一足先に来ているはずだ。

 リビングに入ると、ソファに央が座っていて驚いた。隣には、お腹の大きな女性。年は央と同じか少し若い。

 央は髪を短くして、カットソーにジャケット、スラックスというラフな格好で、以前よりも若く見えた。

 立ち上がると、わずかに頬を緩ませた。

「久し振りだな」

「はい」

「妻のみちるだ」と、央が女性を見た。

 みちるさんはお腹に手を添えながら立ち上がろうとした。央が手を差し伸べる。

 俺が「どうぞ、そのままで」と言うと、央が彼女に座っているように促した。

「お……とうとの悠久です」と、俺は頭を下げる。

 彼女が俺のことをどう聞いているかわからなかったから、『弟』と名乗るのが正解なのか迷った。

「みちるにはすべて話してあるから、気を遣うな」

「……はい」

「みちるです。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 彼女がペコッと頭を下げると、耳の下でそろえた髪が揺れた。

 大切そうにお腹を抱える姿に、胸が痛む。

 この家では、歓迎などされない。

「何があったかは察しがついてる。彼女は?」

「北海道にいるはずです」

「別れたのか?」

「取り戻します」

「そうか……」

「お揃いですね」

 リビングのドアが開き、征子さんが入って来た。

 続いて、萌花。それから、要。

 萌花は顔色が悪かった。

「お久し振りですね、央さん」と、征子さんが突然家を出た息子に声をかけた。

 独立した息子が帰省したくらいの軽さで。

「お久し振りです」と言った央の表情は、かつて社長の椅子に座っていた時のように硬い。

「あの――っ」と、みちるさんが立ち上がろうと前のめりになり、央が支える。

 が、征子さんは一瞥しただけで何も言わず、俺の前に立った。

「お父様がいらっしゃる前に渡しておくわ」

 離婚届だとわかった。

 萌花が恨めしそうに俺を見ている。

 征子さんに睨まれては、サインしないわけにはいかなかったのだろう。

 おそらく、同時に要との婚姻届も書かされたはずだ。

 俺は離婚届を受け取り、ジャケットの内ポケットに入れた。

「母さん、妻のみちるです」

 征子さんの背後から、央が声をかけた。

「三か月後には双子が生まれます」

「双子?」

 聞き返したのは、俺。

 萌花よりお腹が大きいのは、そういう理由か。

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 みちるさんが強張った表情を少しだけほぐし、言った。

「なにがめでたいの! 犯罪者の身内なんかと――」

「――母さん!」

「央さん、いいの」

 今にも母親に掴みかかりそうな形相の央のジャケットを、みちるさんが引っ張った。

「奥様。申し訳ございません。秘書という立場でありながら、お仕えすべき――」

「――わかっているのなら、さっさと別れるべきだったのでしょう」

「そうしなかったのは、俺だ。生まれた時から明堂家の跡取りだと厳しく育てられ、何一つ思い通りには出来なかったが、みちるだけは手放せなかった。彼女と別れてまで守るべき価値など、明堂貿易に見いだせなかった」
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