楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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18.きみのいる場所

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 病院に駆け付けた俺は、待合室にいた央から話を聞いた。

 俺が出て行った後、要は気が触れたように笑い出し、征子さんは茫然自失の状態だった。

 要は、親父に膨大な退職金を要求し、萌花は自分と子供はどうなるのかと要に詰め寄った。

 親父は要が会社の金を使い込んでいたことを知っていて、懲戒解雇だと言い放った。

 もちろん、退職金はなし。

 怒り狂った要は、耳元で喚く萌花に苛立ち、思いっきり突き飛ばしたのだという。

 よろけた萌花はチェストの角に腹を強打し、意識を失った。

 央はすぐさま救急車を呼んだが、その時には萌花は大量出血していた。

 騒動の最中で要は姿を消し、征子さんまで倒れてしまった。

 征子さんは同じ病院の別の階で眠っている。

 話し終えた央は、今にも泣きそうに眉をひそめて、頭を抱えた。

「央――兄さん。ここは大丈夫だから、みちるさんのそばについていてあげた方が……」

「……悠久、すまない」

「え?」

「父も母も狂ってる。どんな立派な家柄だろうと会社だろうと、人の人生を狂わせていい理由になんかならない」

 あの両親の子でありながら、まともな思考を持ち合わせるなんて、不思議だ。

「要がおや――父さんの子供じゃないって、知ってたのか?」

「いや。だが、要に対する母さんの異常な執着と、父さんの無関心は不思議に思っていた。まさか、母さんが不貞を――。なのに、悠久の母親をなじるとか、よくできたもんだ」

「政略結婚の成れの果て、か。危うく俺も同じ道を辿るところだった」

「離婚届は?」

「提出した」

「そうか」

「ああ」

 はぁと息を吐きながら、兄さんが顔を上げた。

 休日だが、救急外来は次々と患者が訪れていた。

 救急車で運ばれた萌花がどこで治療を受けているかはわからないが、俺と兄さんは待合の一番奥の長椅子に座っていた。

「もっと早く行動を起こすと思っていたが、父さんに脅されたか?」

「ああ。会社を継ぐなら楽を愛人としてそばにおいていいと言われた。楽に会いたくて、頷いたよ」

「俺も同じことを言われたよ。政略結婚を受け入れるなら、みちるを愛人として認めるって」

「断ったんだろ?」

「ああ。愛人でいいなら、とうに諦めてるさ。俺は、みちるを妻にしたかった」

「俺も馬鹿なことを考える前に、行動を起こせば良かったよ。そうしたら、楽にフラれずに済んだかもしれないのに」と、今度は俺が頭を抱えた。

「萌花の腹の子が要の子だと言うだけで、あっさり離婚できるんだもんな」

「いや。お前が父さんと母さんに関わるなんて、楽さんにフラれでもしなきゃなかったろう?」

「確かに」

 スマホの振動に気づき、俺はジャケットのどこに入れたかと探った。左ポケットから取り出す。

 会社からだった。

「はい」

『例の積み荷ですが、出航の準備が整ったようです。一週間遅れでの納品になりますが、どうしますか?』



 要は消えた……か。



「取引は無効。契約書にある通りの違約金を支払って終わりにしてください」

『え?!』
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