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1章 白き貴公子と黒き皇帝との出会い
1-11 養子縁組
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さて、ところ変わって、ここは皇城内。
セリア姫がご友人リーシア・フィルスとテラスでお茶している。
「あら、セリア、貴方また振られちゃったの?」
「またって何よ。私が振られたことなんてないじゃないの」
「いえ、いつも縁談相手を皇帝陛下に取られているじゃない」
「今回はっ、よ。ルーシェ・シルコットが一目惚れしたのが皇帝陛下だったってだけよ」
「いつも縁談相手が皇帝陛下に擦り寄るから、破談にしていたんじゃないの?」
「くっ、意味合いがまったく違うじゃないの」
「そうねえ、セリアの女性としての魅力が、皇帝陛下の醸し出す大人の男な雰囲気に負けたってことよね」
「言い方っ」
遠くから眺めていると、この二人は笑顔でご歓談中に見える。
近くで控えている侍女たちも笑顔で立っているが。。。
会話が聞こえなくて幸いなことは多い。
お美しい二人が今日も美しい、と遠目から思われていれば本当に幸い。
セリア姫は成人十五歳になったとはいえ、まだまだ幼さが残る可愛いお顔。
対して、リーシアは同じ年齢とはいえ、美しさを兼ね備え、ボディラインも綺麗に整っている。
金髪の巻き髪、碧眼。
悪役令嬢と言っても過言ではない美しさ。
基本的に物語の悪役令嬢って綺麗じゃないと成り立たないところがあるよね。
セリア姫はストレートの黒髪だから、清楚に見えると言えば聞こえはいいが。
可愛いから美しいに褒め言葉が変わるのは、まだ少し先か。
セリア姫の容姿も、皇帝になりたい皇配候補が来てしまう要因である。彼女はおとなしそうなご令嬢に見えるが、見えるだけだ。
皇帝になるための教育も、養子縁組をされてから恐ろしいほどされてきた。
もちろん淑女たる教育もされてきたため、ご令嬢の所作も完璧なのだが。
勝手な想像で彼女を傀儡でできると思わない方が良い。
そして、このクエド帝国では配偶者が皇帝になれない。
誰も認めない。
皇帝になれる者は元皇族であることが最低条件である。
クエド帝国では直系以外は臣下に下るので、皇族と呼べる者は直系しかいない。そのため、皇帝の親戚であっても現在は貴族であり皇族ではない。
遠縁であるセリア姫は幼い頃にクフィール皇帝陛下と養子縁組をして跡継ぎとなっている。
赤の他人が皇帝と養子縁組をして跡継ぎだと言ったとしても、それはこの国の誰からも認められないのである。
セリア姫が遠縁であっても皇族の血を継いでいるからこそ養子縁組も認められた。
そもそも他家から婿入りしてきても彼らが皇帝になれるわけもないのに、なぜかセリア姫が亡くなったら自分が皇帝になれると夢見ている馬鹿たちが存在していたのが不思議だ。
たいていは親も馬鹿なのだが、息子が皇帝になり国を乗っ取れると親自体が勘違いしている。まだセリア姫を傀儡として意のままに扱おうと考えている方が頭の出来はマシだ。
ちなみに、彼らは皇帝と遠縁でも、どこかの隠し子で血がつながっているということもない。
皇帝の養子縁組候補はセリア以外にもいた。
もちろん男児が何人も。
セリアがライバルたちを蹴落とし、その座を勝ち得たのは、ひとえに飛竜に選ばれたからだ。
他の候補者たちは誰一人選ばれなかった。
皇帝は必ず飛竜に乗らなければならないという掟はないし、乗れなかった皇帝もいる。
だが、直系ではなく遠縁である者が皇帝になるというのならば、権威は必要だ。
皇帝は竜騎士隊の頂点でもある。
飛竜に乗れる者がいるのならば乗れた方がいい。
クエド帝国の皇帝はお飾りではない。
それが女帝であっても。
「ルーシェ・シルコットは金髪の碧眼で、しかもサンテス王国だから衣装は白。確実に貴方が憧れていた王子様そのままの理想像じゃない。しかも飛竜に乗れるし、もったいないとは思わなかったの?」
「もったいないと思う間もなく、ルーシェが皇帝陛下に惚れたのよ。それなのにどうしろって言うのよ」
「ふーん」
お互いを良く知る前で良かったんじゃないのかな、とリーシアは思う。
物語によく登場するのは、白馬に乗った王子様。
必ずと言っていいほど、描かれているのは白い衣装だ。
なぜだか、黒い衣装を着させられている王子様は、この国で出回っている物語では悪役が確定されている。
皇子様ではないのが救いか。
皇子様が絵本や物語に出てくるのは英雄譚が多い。
この国の不思議である。
王子様とお姫様のお話は、必ず王子様なのである。
それは置いといて、白馬に乗った王子様に憧れている女性はこの国でも多い。
王子様と会える可能性が皆無であったとしても。
そう、憧れている女性は多い。
セリアもその一人。
夢見る一人だということを、リーシアも知っている。
「となると、貴方の結婚相手、この世界のどこにいるのよ」
「知らないわよ。縁談が来たと思ったら、破談になるのは私のせいじゃないわよ」
「そこを魅力で骨抜きにして裏で生涯支えますっ、という夫に変えるのが貴方の手腕じゃないの?」
「できるならやっているわよ。けれど、全員宦官にしたいくらいだったわ」
「それじゃあ意味ないじゃない」
結婚する意味が。
子を残すことも皇帝の役割だ。
現皇帝は子を残す役目を早々に放棄したからこそ、養子縁組を早期に実現させた。
ハーレムどころか結婚すらせず。
言い寄る女性の醜悪さとか、皇族内での争いとか、皇帝が結婚しない理由は様々に囁かれた。
その中の一つに、皇帝は男性が好きだから結婚しない、というものも。
ただ、皇帝が男性を好きなら、クエド帝国は同性同士であっても結婚することは可能なのだが。
皇帝でも。
皇帝が男性と結婚していても、セリアは養子縁組をされていたはずである。
普通に結果は同じだ。
「世界中探してもいないなら、独身を貫くわ」
「、、、仕事量が単純に倍になるわよ」
皇配が何もしないわけではない。
もしかしたら皇帝よりも仕事をしている可能性だってある。
独身を貫くということは、その仕事を代わりにやる誰かを見つけるか、自分がやるかである。
婚姻という契約を結んでいなければ任せられない仕事というのも存在する。
代わりにやる誰か、というのはこの国では結婚しなければ基本的に見つからないと思った方が良い。
普通に国の仕事なら宰相以下に任せればいいだけなのだから。
そして、現皇帝もいつかは引退するし、あの皇帝は一度引退したら仕事にも完全に幕を引くと思われる。
手伝いは期待できない。
今、セリアが担当している仕事はごく僅かだ。
おそらくクフィール皇帝が現役なうちに、結婚出産をすませておけという意志表示だ。
皇帝の仕事は激務だと言われている。
配偶者がいなければ、より一層。
女帝の仕事が嫌なら、子供を早く産んでおく必要性がより高まる。
早々と譲位するためには子供もある程度の年齢になっていなければならない。
何代も養子縁組の皇帝というのは国としてもなかなか難しい。
セリアが養子縁組できるのは、婿入りが絶対に叶わず独身を貫いて、子供が産めなくなる年齢にならないと認めてもらえないのではとさえ思う。
「うぎーーっっ」
「猿ね」
「あ、そうだわ。世の中の男性がダメダメなら、配偶者は女性でも良いのよねえ。リーシア、貴方、婚約者もまだいないし、フィルス侯爵家の次女だし、私と結婚してはいかがかしら?皇帝の妻になれるわよ」
超軽い求婚だな。
「確かに同性同士で結婚したら、早期の養子縁組は期待できるだろうけれど、そんな色気もない食い気だけのお誘いで私がなびくとお思い?今回は友人として私を高く評価して買ってくれていると思って聞き流してあげるわ」
「あら、残念。良い案だと思ったのに」
二人だけのお茶の席だが、セリアはとんでもないことを口にするとリーシアは思う。
冗談だろうが、誰かがこの会話を耳にしたら。
いや、それでも冗談だと思うか。
リーシアはセリアに気づかれないように小さなため息を吐いた。
夕刻前の皇城。
あ、あれだけ街中でイチャイチャしていたくせに、無事に帰って来やがっただと?
何を考えているんだ、皇帝さん。
どこかで一泊ぐらいしてくればいいのに。
せめてキスぐらいはしてこいよ。
あっ、石投げないでっ。
心が傷ついちゃうっ。
セリア姫がご友人リーシア・フィルスとテラスでお茶している。
「あら、セリア、貴方また振られちゃったの?」
「またって何よ。私が振られたことなんてないじゃないの」
「いえ、いつも縁談相手を皇帝陛下に取られているじゃない」
「今回はっ、よ。ルーシェ・シルコットが一目惚れしたのが皇帝陛下だったってだけよ」
「いつも縁談相手が皇帝陛下に擦り寄るから、破談にしていたんじゃないの?」
「くっ、意味合いがまったく違うじゃないの」
「そうねえ、セリアの女性としての魅力が、皇帝陛下の醸し出す大人の男な雰囲気に負けたってことよね」
「言い方っ」
遠くから眺めていると、この二人は笑顔でご歓談中に見える。
近くで控えている侍女たちも笑顔で立っているが。。。
会話が聞こえなくて幸いなことは多い。
お美しい二人が今日も美しい、と遠目から思われていれば本当に幸い。
セリア姫は成人十五歳になったとはいえ、まだまだ幼さが残る可愛いお顔。
対して、リーシアは同じ年齢とはいえ、美しさを兼ね備え、ボディラインも綺麗に整っている。
金髪の巻き髪、碧眼。
悪役令嬢と言っても過言ではない美しさ。
基本的に物語の悪役令嬢って綺麗じゃないと成り立たないところがあるよね。
セリア姫はストレートの黒髪だから、清楚に見えると言えば聞こえはいいが。
可愛いから美しいに褒め言葉が変わるのは、まだ少し先か。
セリア姫の容姿も、皇帝になりたい皇配候補が来てしまう要因である。彼女はおとなしそうなご令嬢に見えるが、見えるだけだ。
皇帝になるための教育も、養子縁組をされてから恐ろしいほどされてきた。
もちろん淑女たる教育もされてきたため、ご令嬢の所作も完璧なのだが。
勝手な想像で彼女を傀儡でできると思わない方が良い。
そして、このクエド帝国では配偶者が皇帝になれない。
誰も認めない。
皇帝になれる者は元皇族であることが最低条件である。
クエド帝国では直系以外は臣下に下るので、皇族と呼べる者は直系しかいない。そのため、皇帝の親戚であっても現在は貴族であり皇族ではない。
遠縁であるセリア姫は幼い頃にクフィール皇帝陛下と養子縁組をして跡継ぎとなっている。
赤の他人が皇帝と養子縁組をして跡継ぎだと言ったとしても、それはこの国の誰からも認められないのである。
セリア姫が遠縁であっても皇族の血を継いでいるからこそ養子縁組も認められた。
そもそも他家から婿入りしてきても彼らが皇帝になれるわけもないのに、なぜかセリア姫が亡くなったら自分が皇帝になれると夢見ている馬鹿たちが存在していたのが不思議だ。
たいていは親も馬鹿なのだが、息子が皇帝になり国を乗っ取れると親自体が勘違いしている。まだセリア姫を傀儡として意のままに扱おうと考えている方が頭の出来はマシだ。
ちなみに、彼らは皇帝と遠縁でも、どこかの隠し子で血がつながっているということもない。
皇帝の養子縁組候補はセリア以外にもいた。
もちろん男児が何人も。
セリアがライバルたちを蹴落とし、その座を勝ち得たのは、ひとえに飛竜に選ばれたからだ。
他の候補者たちは誰一人選ばれなかった。
皇帝は必ず飛竜に乗らなければならないという掟はないし、乗れなかった皇帝もいる。
だが、直系ではなく遠縁である者が皇帝になるというのならば、権威は必要だ。
皇帝は竜騎士隊の頂点でもある。
飛竜に乗れる者がいるのならば乗れた方がいい。
クエド帝国の皇帝はお飾りではない。
それが女帝であっても。
「ルーシェ・シルコットは金髪の碧眼で、しかもサンテス王国だから衣装は白。確実に貴方が憧れていた王子様そのままの理想像じゃない。しかも飛竜に乗れるし、もったいないとは思わなかったの?」
「もったいないと思う間もなく、ルーシェが皇帝陛下に惚れたのよ。それなのにどうしろって言うのよ」
「ふーん」
お互いを良く知る前で良かったんじゃないのかな、とリーシアは思う。
物語によく登場するのは、白馬に乗った王子様。
必ずと言っていいほど、描かれているのは白い衣装だ。
なぜだか、黒い衣装を着させられている王子様は、この国で出回っている物語では悪役が確定されている。
皇子様ではないのが救いか。
皇子様が絵本や物語に出てくるのは英雄譚が多い。
この国の不思議である。
王子様とお姫様のお話は、必ず王子様なのである。
それは置いといて、白馬に乗った王子様に憧れている女性はこの国でも多い。
王子様と会える可能性が皆無であったとしても。
そう、憧れている女性は多い。
セリアもその一人。
夢見る一人だということを、リーシアも知っている。
「となると、貴方の結婚相手、この世界のどこにいるのよ」
「知らないわよ。縁談が来たと思ったら、破談になるのは私のせいじゃないわよ」
「そこを魅力で骨抜きにして裏で生涯支えますっ、という夫に変えるのが貴方の手腕じゃないの?」
「できるならやっているわよ。けれど、全員宦官にしたいくらいだったわ」
「それじゃあ意味ないじゃない」
結婚する意味が。
子を残すことも皇帝の役割だ。
現皇帝は子を残す役目を早々に放棄したからこそ、養子縁組を早期に実現させた。
ハーレムどころか結婚すらせず。
言い寄る女性の醜悪さとか、皇族内での争いとか、皇帝が結婚しない理由は様々に囁かれた。
その中の一つに、皇帝は男性が好きだから結婚しない、というものも。
ただ、皇帝が男性を好きなら、クエド帝国は同性同士であっても結婚することは可能なのだが。
皇帝でも。
皇帝が男性と結婚していても、セリアは養子縁組をされていたはずである。
普通に結果は同じだ。
「世界中探してもいないなら、独身を貫くわ」
「、、、仕事量が単純に倍になるわよ」
皇配が何もしないわけではない。
もしかしたら皇帝よりも仕事をしている可能性だってある。
独身を貫くということは、その仕事を代わりにやる誰かを見つけるか、自分がやるかである。
婚姻という契約を結んでいなければ任せられない仕事というのも存在する。
代わりにやる誰か、というのはこの国では結婚しなければ基本的に見つからないと思った方が良い。
普通に国の仕事なら宰相以下に任せればいいだけなのだから。
そして、現皇帝もいつかは引退するし、あの皇帝は一度引退したら仕事にも完全に幕を引くと思われる。
手伝いは期待できない。
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皇帝の仕事は激務だと言われている。
配偶者がいなければ、より一層。
女帝の仕事が嫌なら、子供を早く産んでおく必要性がより高まる。
早々と譲位するためには子供もある程度の年齢になっていなければならない。
何代も養子縁組の皇帝というのは国としてもなかなか難しい。
セリアが養子縁組できるのは、婿入りが絶対に叶わず独身を貫いて、子供が産めなくなる年齢にならないと認めてもらえないのではとさえ思う。
「うぎーーっっ」
「猿ね」
「あ、そうだわ。世の中の男性がダメダメなら、配偶者は女性でも良いのよねえ。リーシア、貴方、婚約者もまだいないし、フィルス侯爵家の次女だし、私と結婚してはいかがかしら?皇帝の妻になれるわよ」
超軽い求婚だな。
「確かに同性同士で結婚したら、早期の養子縁組は期待できるだろうけれど、そんな色気もない食い気だけのお誘いで私がなびくとお思い?今回は友人として私を高く評価して買ってくれていると思って聞き流してあげるわ」
「あら、残念。良い案だと思ったのに」
二人だけのお茶の席だが、セリアはとんでもないことを口にするとリーシアは思う。
冗談だろうが、誰かがこの会話を耳にしたら。
いや、それでも冗談だと思うか。
リーシアはセリアに気づかれないように小さなため息を吐いた。
夕刻前の皇城。
あ、あれだけ街中でイチャイチャしていたくせに、無事に帰って来やがっただと?
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どこかで一泊ぐらいしてくればいいのに。
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