【完結】★赤い月(作品251008)

菊池昭仁

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第3話

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 都内のホテルのスゥイートルームで、事務次官の平野と主計局長の柿崎が密談をしていた。


 「次官、特捜の任意の事情聴取も限界です。アイツら、すでに証拠固めを終え、明日にも私は逮捕されるかもしれません」
 「落ち着け柿崎君。何も案ずることはない。この国を動かしているのは民自党でも政治家でもない。俺たち東大法学部のキャリアだ。
 そしてその官僚のトップに君臨しているのが俺たち財務省だ。
 柿崎局長、お前には俺の後を継いでもらいたいと思っている。
 検事総長は俺のボート部の後輩だから心配するな。取り敢えず、今夜は飲んで食べて女を抱け」
 「とてもそんな気にはなれませんよ。アイツらの尋問は真綿で首を絞めるようなやり方ですから。
 お願いです助けて下さい! 平野事務次官!」
 「大丈夫だ。お前さえ自白しなければな? 秘密は守れ、命に代えてもだ。
 いいか柿崎? 俺は秋の衆議院選に民自党から出馬要請がある。そうなれば次の事務次官はお前だ。
 これはチャンスなんだよ、お前が次官になるためのな?」
 「はい、でも・・・」
 「飲んで食え。女も用意したからな。とにかく落ち着け、悪いようにはせん」
 「わかりました。平野次官を信じます」

 平野次官は携帯を取ると、どこかへ電話を掛けた。

 「女を頼む」



 すると5分位すると、ホテルのドアがノックされた。

 コンコンコン

 モニターで確認すると、そこには美しい女が微笑んで立っていた。
 ドアを開けると、

 「こんばんは」

 女は妖艶に微笑んだ。

 「いい女じゃないか? じゃあ俺はお邪魔だろうからな?
 しっかり頼むぞ、柿崎事務次官」

 次官は笑って部屋を出て行った。

 「柿崎、お前は良くやってくれたよ。知りすぎた奴はその秘密の重さで沈むもんだ。
 深い海の底へな。good luck」



 女は柿崎にキスをし、

 「もう私はシャワーを浴びて来たから、大人のお楽しみの準備は出来ているわ。 
 さあ、楽しみましょう」


 緊張と不安の中、連日の検察の取り調べで柿崎はコトを終えるとすぐに眠ってしまった。

 女はタバコを吸うと、

 「口の臭いオヤジ。だから官僚はキライよ。罪で穢れまくってるわ。
 別な意味で鳥肌が立っちゃった」

 女は服を着て部屋を出て行った。




 ルームサービスに扮した藤堂がやって来た。
 ルームキーを差し込み、ドアを開けた。ターゲットはそのまま熟睡している。

 「手間が省けたな」

 藤堂は頸椎の急所に針を刺すと、彼を仮死状態にした。
 柿崎に服を着せ、首にネクタイを掛けてドアノブに上半身を吊るし、一気に引き下ろした。
 柿崎は喉を搔きむしり、そのまま白目を剥いて絶命した。

 藤堂は柿崎の手にホテルのペンを握らせ、ホテルの便箋に指紋を着けさせた。
 柿崎の筆跡を真似て、藤堂は遺書を書いてテーブルの上に置いた。

 藤堂は部屋をもう一度確認し、浴室にある天井点検口に脚立を置き、それをロープで引き揚げるとそのままリネン室にある点検口へ出ると、脚立を折り畳んでそのままトランクに仕舞うとスーツ姿になり、非常階段からロビーへ出るとそのまま地下鉄へ向かって歩き出した。



 駅のコインロッカーにトランクを預け、藤堂はBARに入った。

 「マルガリータを」

 テキーラベースのこのカクテルは、ロスのバーテンダーが死んだ恋人のために作ったカクテルだと言われている。
 その恋人の名が「マルガリータ」だった。
 彼はそのままそのカクテルにマルガリータと名付けたのである。

 スペイン語でデイジーを意味するマルガリータ。
 デイジーの花言葉は「希望」だ。
 だがそのカクテルは「悲恋」を意味する。

 藤堂は仕事を終えるといつも小百合を想い、マルガリータを口にする。



 翌朝のニュースで、柿崎主計局長が自殺したと報じられた。


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