【完結】★赤い月(作品251008)

菊池昭仁

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第4話

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 藤堂は月光院へ赴き、三日月和尚に今回のミッションの完遂を報告した。
 和尚は藤堂の額にキスをした。

 「我が愛しきシリウスよ、見事な仕事でした。ありがとう」
 「畏れ入ります」
 「仕事が続きましたから少し休むといいでしょう」
 「ありがとうございます」
 「来週は狙撃対象の仕事が1件あります。準備をしておいて下さい」
 「かしこまりました」

 
 今回の狙撃ターゲットは広域暴力団『睦山蒼龍会』の組長、成木誠治郎だった。
 依頼主は海外の麻薬シンジケートからのようだった。
 成木は用心深い男なので至近距離からの暗殺は難しい。そこで狙撃暗殺となったのである。


 
 藤堂は庫裏くりの地下3階にある秘密の武器庫へと降りて行った。

 そこには夥しい高性能の銃火器が揃っており、手榴弾から地雷、時限爆弾からバズーカ、ロケットランチャーまでもがいつでも使えるように入念に整備されていた。

    ズキューン パン パン

 マーズはオリジナル・ライフルの試射を行っており、スコープの調整をしている最中だった。
 川北孝蔵、彼はマーズと呼ばれていた。役職者は惑星の名前で呼ばれている。マーズは武器のスペシャリストであり、アメリカで武器開発の研究員をしていた男だった。

 銃身の長い高精度のライフルは使用せず、今度の狙撃にはアサルトライフルを使うことにした。
 となるとM16かカラシニコフ、AK-47 になる。拳銃と小銃の中間弾を使うことが出来るので殺傷能力が極めて高い
  今回はカラシニコフを使用することにした。口径7.62mm。装弾数は30発。セミ、フルオートの切り替えが可能で重量は4.3kg。
 1分間に600発の連射をすることが出来る。セミオートなら射程距離は400mあり、まさに理想の自動小銃であった。
 多少の泥や砂、温度変化の変形にも問題なく作動する高い信頼性もある。
 砂漠地帯のモザンビークやジンバブエ、アフガニスタン、ニカラグアやフォンジョラスでの中米の湿地帯での戦闘でもこの自動小銃は俺を守ってくれた使い慣れた銃であった。
 カラシニコフを開発したロシアは元より、中国、北朝鮮、キューバなどの共産圏の国や内乱のある国の戦闘では重宝されていた。
 だが、命中精度には問題があった。

 「シリウス、今回は何を使うつもりだ?」
 「カラシニコフを考えている」
 「いい選択だ。まあM16よりはいいだろう。問題は命中精度だな?」
 「確実に1発で即死にしたいからよろしく頼む」
 「了解」



 藤堂は防衛大学在学中に選抜された内閣官房調査室の工作員であった。藤堂は防衛大学を卒業すると任官せず、世界の紛争地帯を傭兵として転戦して歩いた。
 夥しい数の人間を殺した藤堂は伝説となっていた。

    日本人のサイレント・キラーがいる

 そして藤堂はいつの間にか何も感じない精密な殺人マシーンとなってしまったのである。
 


 帰国した藤堂は何件かのミッションを終えると内閣官房調査室をクビになった。
 それは調査室では彼をコントロールすることが出来なくなっていたからだった。その派手な暗殺により何人もの関係のない人たちまでも巻き添えにしてしまったからだ。
 藤堂は血に飢えた狼になっていたのである。
 そして藤堂自身、民自党のために暗殺をすることに嫌気が差していた。
 
 それに目を付けたのが今の組織、『silver way』だった。


      害虫駆除


 それが藤堂、シリウスの任務となったのである。
 法で裁くことの出来ない人間をこの世から抹殺するのが藤堂の仕事であった。


 初めてアフリカのジンバブエで人を殺した時の感触は今でも忘れない。
 その男はまだ20代の青年だった。苦しみに歪んだ恨みと絶望の籠もった表情。銃に伝わる肉が散らばり血が吹き出す様があった。

 藤堂は仲間と一緒にコカインを吸い、狂ったようにカラシニコフを乱射した。
 バタバタと3人の兵士が絶命した。そしてその死体から肝臓を取り出して調理してそれを食らう傭兵たち。

 「トウドウ、お前も喰え」

 藤堂は肉を口にはしたがすぐに吐き出してしまった。それを笑いながら見ている仲間の傭兵たち。
 
 「あはははは 食わねえとお前が食われちまうんだぜ」

 それから藤堂は殺人に対する罪悪感など微塵もなくなり、まるでサバイバル・ゲームをしているかのような感覚で戦争に加担した。

 日本ほど外見上、平和な国はない。
 いや、この国は平和ボケというべきなのかもしれないと藤堂は思った。
 
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