【完結】★赤い月(作品251008)

菊池昭仁

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第6話

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 宝飾店でリングを選ぶ小百合の姿は真剣そのものだった。

 「迷っちゃうなあ。これもいいけどこっちもいい。ねえ義彦はどっちがいいと思う?」
 
 小百合の好きな方は右側の物だ。小百合は俺がそれに同意し、それを選んで欲しいと思っている。

 「俺は右側の方がいいと思うよ、かわいいし小百合に似合っている」
 「でしょう? 私もそう思ったんだ! 私たち、趣味も似てるね?」

 (似ている? この血生臭い俺と天真爛漫なお前が?)

 俺は自分を嗤った。

 「それじゃあこれを下さい」
 「ありがとうございます。では嵌めてみて下さい、サイズを見ますので」
 
 小百合が俺に左手を差し出した。そしてすぐに左手を引っ込めて右手を出した。

 「あはっ、婚約指輪と間違えちゃった」
 「・・・」
 「嵌めてくれる?」

 俺は小百合の右手の薬指にリングを嵌めてやった。

 「いかがですか? お直しはどうされますか?」
 「ぴったりです! このまましていきますから箱と包装だけお願いします。記念に取って置きたいので」
 「かしこまりました」

 指輪をかざしてうれしそうに見ている小百合。

 「高い買い物させちゃったね? 大切にする」

 女は物でしあわせを感じられる不思議な生き物だ。



 「ケーキを予約しておいたから帰りに『ルモンド』に寄ってから帰ろう。お前が好きなザッハトルテを予約したんだ」
 「覚えていてくれたの? 私がザッハトルテが好きなことを。流石は営業マンね?」

 

 小百合の家でケーキを食べながらシャンパンで乾杯をした。

 「好きよ義彦。大好き」

 俺達はキスをして抱き合った。俺の想いは小舟のように揺れていた。




 地下の射撃場でワルサーPPKの試射をしているとマーズに肩を叩かれた。

 「教主様がお呼びだ」
 「わかった」

 俺は本堂の大広間へと出て行った。



 「お呼びでしょうか? 教主様」
 「うむ。シリウスよ、こちらへ来なさい」

 藤堂は教主の元へ歩み寄った。

 「今度のターゲットはお前と同じ、同業者です。しかもかなり腕の立つ男。相手にとって不足はないはずです」
 「かしこまりました」
 「知っていますよね? 防衛大学と内閣官房調査室で同期だった甲賀才蔵を?」
 「存じております」
 「急ぎではありません。彼を仕留められるのはシリウス、お前しかいないでしょう。
 くれぐれも仕損じませんようお願いします」
 「かしこまりました」

 その男は徳川に使えた御庭番の末裔であった。
 内閣官房調査室のトップエージェント。
 藤堂とは防大で同期であり、親友であった。
 もちろん躊躇いはあったが奴も同じ任務を与えられているはず。
 これは暗殺者としての宿命だった。

 
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