【完結】★赤い月(作品251008)

菊池昭仁

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第10話

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 小百合の亡骸は警察で検死が行なわれたが捜査は事故死として処理された。

 「娘が事故死だなんて。どんな事故だったんですか!」

 小百合の親は警察に食い下がったが警察は、

 「食べ物によるアナフィラキシーショックだったようです」
 「そんな、娘は食物アレルギーなんかありませんでした!」
 「大人になってから発症する場合もあるようです。お気の毒でした。
 なお、ウイルス感染もありましたので火葬してから遺骨をお返しすることになります」

 
 そして小百合は荼毘に付された。


 これは国家権力が発動されている公算が高いことを意味していた。
 公安、外事?、内調?、別班?
 いずれにせよ大きな力が動いているのは確かだった。

 (才蔵が言っていたのはこのことだったのか?)

 

 月光院で小百合のために三日月和尚たちが護摩供養をしてくれた。


 護摩のお焚き上げが終わると和尚が言った。

 「シリウスよ、小百合さんの死を無駄にしてはなりません」
 「わかっております」
 「必ず仇を打つのです」
 「御意」

 藤堂は教祖に才蔵と会ったことは報告しなかった。それは組織自体が黒幕の可能性もあったからだ。
 自分が消されることは考え難いが、何か大きな計画が進行しているような気がした。
 強奪した中性子爆弾は安全な場所に隠しておいた。私の最後の切り札として。
 俺は左手の小指に小百合に贈ったリングをはめた。

 「小百合、お前の死は決して無駄にはしない」

 俺はそう心に誓った。



 関本から連絡があった。

 「藤堂、例の物、10億で売ってくれ」
 「そんな端金でか?」
 「なら100億出そうじゃないか。一生遊んで暮らせるカネだ」
 「お前の命にそんな価値はない」
 「俺を殺れると思っているのか? この俺を?」 
 「・・・」
 「俺はあの頃の俺じゃないぜ。悪魔に魂を売った血に飢えた狼になったんだからな。人を殺し過ぎて俺は完全に心を失ってしまったんだよ。俺はもう人間じゃない、神だ。お前は神には勝てない」 
 「確かにお前は神だ。狂った神だがな? 近い内にお前の命をもらいに行くから楽しみに待っていろ」
 
 俺は電話を切った。するとすぐに才蔵から電話が掛かって来た。

 「大変だったな? 義彦。 池袋の西口に支那そば屋『ワルサーP38』というラーメン屋がある、今夜そこに来い」
 「わかった」

 俺は才蔵に指定されたその店に向かった。



 店の前には数人の客が並んでいたが回転がいいのか、30分ほどで中に入ることが出来た。
 頭にタオルを巻いてラーメンを作っている男が才蔵だとすぐに分かった。ラーメン屋の主人にしては眼光が鋭すぎた。
 それにお冷とおしぼりを出しに来た店員は先日、才蔵と一緒に展示場に現れた花蓮だった。

 「いらっしゃいませ。ウチは支那そばとワンタン麺になります」
 「お勧めは?」
 「ワンタン麺ですね?」
 「じゃあそれで」
 「親方、ワンタン1です」
 「あいよ、ワンタン1丁!」


 ラーメンはたったの5分で供された。

 「はい、ワンタン麺お待ち!」

 じっくりと煮込まれたダブルスープとかん水の多いストレート細麺。チャーシューは黒豚の背バラ肉が使われており、メンマも自家製で太く、ネギは九条ネギと深谷ネギが使われていた。

 「彼女さん、お気の毒でしたね?」
 「・・・」
 「貴重品は店で預かりますぜ」
 「貴重品はないよ」
 「でも命はあるでしょう? 貴重な命がですよ。
 今夜の月は「赤い月」でしたかい? 赤い月は不吉ですからねえ。俺は嫌いなんですよ赤い月は」
 
 才蔵は手際よくオーダーをこなし、花蓮との絶妙なコンビだった。

 「スープがなくなっちまったから完売御礼の看板を出してくれ」
 「はーい」


 店は閉店となり暖簾を下ろした。次々にお客が出て行くと花蓮が入口を施錠した。

 「どうだ? 俺のラーメン、旨いだろう?」
 「まあまあだな」
 「ここは内調でやっている店なんだ。引退したらここを引き継いでラーメン屋のオヤジになろうと思っているんだ。あはははは
 小百合さん、残念だったな?」
 「俺のせいでアイツは殺された」
 「そう自分を責めるな。お前らしくもない。アイツラに復讐する気か?」
 「・・・」
 「やめておけ。それより強奪したブツは内調で預かろう」
 「それは出来ない。あれは俺の最後の切り札だ。俺を狙っていたのは関本だったのか?」
 「身の程知らずの男だよ、関本は。お前に勝てるわけがねえ。史上最強の人間兵器のお前に」
 「関本には消えてもらうよ」
 「そうか。だが物はウチで預かる方がいい、アイツラに渡らないようにするために」
 「大丈夫だ。死んでもアイツラには渡さない」
 「内調に30億で売ってくれ。そしてそのカネでお前は殺し屋稼業から足を洗ってマイアミで穏やかにビキニの姉チャンと暮らせばいい」
 「また来るよ、ごちそうさん」
 「明日からは別の人間が来るが料理は駄目なヤツだ。人殺しが趣味のような男だからな」
 「それじゃまた」
 「またな、義彦」

 俺はアジトへ戻り、復讐の計画を立て、準備を始めた。
 
 
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