【完結】★赤い月(作品251008)

菊池昭仁

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第12話

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 アメリカの軍事衛星により、島の全容は把握した。
 驚いたことに島はちょっとした軍事基地になっていた。
 40ftが15、20ftコンテナが10個。それに兵舎と2階建てのコンクリート建造物が立っており、ヘリポートと格納庫、パラボラアンテナと岸壁も整備されていた。
 俺は計画を変更することにした。それには軍事力が必要だったからだ。



 「教主様、お話がございます」
 「『赤い月』のことですか? シリウス」
 「はい。実は・・・」

 俺は今までの経緯を教主に報告した。

 「なるほど。それで私にどうしろと言うのですか?」
 「『赤い月』のアジトを空爆して欲しいのです」
 「空爆? となると・・・。アメリカにお願いするしかありませんね?」
 「はい。バンカーバスターで地下の施設も破壊してもらいたいのです」
 「わかりました。国防の一大事ですからバチカン経由で大統領と交渉してみましょう」
 「よろしくお願いします」
 「これで小百合さんの仇討ちが出来ますね?」
 「はい。教主様」



 だがそれは簡単には行かなかった。

 「シリウスよ。いきなりの空爆は難しいようです」
 「なぜですか?」
 「どうやら彼らは既に「核」を保有しているようなのです。無理に空爆を行えば核爆発を誘発する可能性があるらしいのです」
 「核ですか?」
 「そこでアメリカからの提案では原子爆弾の信管を抜き、爆発しないことを確認した後、トマホークミサイルを使ってはどうかと言われました」
 「ということはそれを私がやらなければならないということになりますね?」
 「どうするシリウス? これはかなり危険なミッションですよ」
 「わかりました。では海から侵入することにいたします」
 「シリウスに神のご加護を。アーメン」

 こうして俺は『赤い月』の本拠地を奇襲することにした。



 
 横須賀からアメリカ海軍の原潜に乗艦させてもらい、可能な限り島に近づいたところで水中スクーターに乗り換える手筈にした。

 「Kamakaji(神風)。お前はクレイジーなのかそれともダブルオーセブンなのか? たったひとりで敵地に潜入しようだなんて正気の人間のすることではない」
 「ありがとうございます、大佐。Bon voyage(ご安航をお祈りします)」
 「任務の成功を祈る」

 俺は原潜を離脱して島へと向かった。


 「艦長、私には日本人を理解することが出来ませんよ。エコノミック・アニマルとしてあの焼け野原から世界第一位の経済大国になった日本。資源も何も無い、あの小さな植民地も持たない彼らが」
 「副長、思考が人間を創るんだよ。目的のためにはマニー(カネ)も名誉も捨てることが出来る。日本人は稀有な民族なんだよ」
 「恐ろしい人種です、日本人は」
 「だから永遠に我が合衆国に刃向かうようにさせてはならんのだよ」
 


 
 夜を待って歩哨をボーガンで倒して島へ上陸した。俺は歩哨の携帯していたサブマシンガンと拳銃を奪った。
 最小限の武器しか準備しなかった。動きが制限されるからだ。あとは「現地調達」するつもりだった。

 兵士はおよそ200人といったところだった。こんな離島に敵は来ないと油断しているのは確かだった。兵舎を覗くと酒瓶が転がり周囲にはマリファナの匂いが立ち込めていた。

 その時、けたたましいサイレンの音が島に鳴り響いた。
 どうやら歩哨が殺されたことに気付いたようだった。
 俺はすぐに兵舎に手榴弾を投げ込んだ。島中からどんどん兵士がやって来る。だが殆どは素人に毛が生えたような獲るに足らないソルジャーたちだった。

 「侵入者だ! 殺せ殺せ!」

 すると関本の声がした。

 「殺すな! 生け捕りにしろ!」


 俺は武器コンテナからダイナマイトを数本手に入れると追手にそれを投げつけた。
 そして機銃掃射を浴びせ、兵士の半分ほどを殲滅した。
 俺はジャングルの中に身を隠し、あちらこちらに簡単な原始的トラップを仕掛けた。
 罠にかかった兵士たちを目の当たりにして奴らの士気は下がった。

 「ひるむな! 相手はたったひとりだ!」

 関本の檄が飛ぶ。

 「残り50人になったらあの中央の建物に侵入だ」

 俺は次々に奴らを退治して行った。

 次第に東の空が明るくなって来た。俺は入口にダイナマイトを投げ入れた。
 破壊したホールに侵入すると、

 「はいそこまでだ。藤堂、銃を置いて手を上げろ」
 
 俺は囲まれた。建物の中にも30人ほどの兵士が残っていたのである。
 後頭部を銃座で殴られ、俺は気を失った。



 気がつくと俺は手錠と足かせを嵌められ椅子に拘束されていた。
 驚くことに眼の前の玉座に座っていたのは才蔵であった。

 「おはよう、義彦。だいぶ派手にやってくれたな?」
 「才蔵、お前が首領だったのか・・・」
 「そうだ、俺が『赤い月』の統帥者だ」
 「才蔵! お前はいつからテロリストに成り下がった!」
 「我が『赤い月』はそんな安っぽいテロ組織ではない。この腐りきった日本を、世界を変える崇高な帝の軍隊なのだ。
 この国の政財界の腐敗はもう末期症状だ。粛清しなければならない。もうアメリカの占領は終わらせるんだよ義彦。拘束を解いてやれ」
 
 俺は才蔵に質問した。

 「日本でクーデターを起こす気なのか?」
 「そうだ。義彦、俺達で日本を変えようじゃないか。天皇陛下を象徴などとふざけた屈辱から解放して帝の国に戻すんだよ。俺達のチカラでな? 俺とお前ならそれが可能だ」
 「お前は防大の頃から変わらなかったというわけか?」
 「防大からではない、生まれた時からだよ義彦。だから俺は防衛大学に入り軍人を目指した。
 自衛官? 専守防衛? 冗談じゃない。ただ災害救助に赴き土日は休みの軍隊などありえん。
 そしてアホな政治家や官僚たちのためになぜ犬死にしなければならんのだ?」

 隣りに立っていた関本が嗤った。
 俺は咄嗟に関本から拳銃を奪い、関本の体に弾倉にあったすべての弾丸を打ち込んだ。

 「気が済んだか義彦? 関本はただの頭の悪い殺人鬼だ。手間が省けたよ、ありがとう。
 中性子爆弾を渡せ。そしてこの腐った日本を再生するんだ」

 俺は悪い夢を見ているのかと思った。
 
 
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