【完結】★赤い月(作品251008)

菊池昭仁

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第14話

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 俺は東京へ戻り、山手線に揺られていた。電車にも街にもそれぞれの人たちの人生がある。
 それを俺は破壊しようとしている。


      スクラップ & ビルド


 破壊と再生。
 俺は住宅会社を依願退職した。


 電車の優先席に金髪のホストのような男と派手な女が座ってスマホをいじっていた。
 眼の前には杖を突いた老婆が立っている。
 俺はそのアベックに近づき言った。

 「ここは優先席です、席を譲ってあげたらいかがですか?」
 「何だとコラ! 俺に指図しようってか?」
 「ヤバいよ彼、ボクサーなんだよ。アンタ、ボコられるよ」
 「日本は民主主義の国だ。先に席を取ったヤツがここに座る権利がある。優先権は俺達にあるんだよボケ!
 ちゃんと書いてあんじゃねえか? 早い者勝ちの「優先席」ってな? あはははは」
 
 面倒な事に巻き込まれるのは御免だと思ったのか、隣りで寝たフリをしていた背広の若いサラリーマンが席を立って逃げて行った。

 「席が空いたようですのでどうぞ座って下さい」
 「ありがとうございます、次の駅で下りますので大丈夫です」

 申し訳なさそうにそう老婆が言った。
 俺はその場を離れ、デッキに移動した。
 するとその男が俺を追いかけて来た。

 「オイ、謝れよ、生意気なことを言ってすみませんでしたってな?」

 無視をすると男は俺の胸ぐらを掴んだ。

 「しばくぞコラッ!」

 私は男の溝内と顎に拳を入れた。すると男はのけぞり、ナイフを持って立ち上がって来た。
 俺はナイフを持った手をねじり上げると男の肩を外し、ナイフを踏みつけて刃を折った。
 駅に到着してドアが開いたのでナイフをホームへ蹴り出し、電車を下りた。
 これが日本の現状だと思った。強い者が弱い者をしいたげる世の中、それが今の日本だった。
 俺は尾行を巻きながら才蔵と合流した。


 
 「義彦、あまり派手な動きはつつしめ。お前はすでに当局の監視下にあることを忘れるな」
 「才蔵、例の物はお前に渡すよ」
 「いや、お前が保管しておいてくれ。その方が安全だし出来れば使いたくはないからな。脅しだよ脅し」
 「わかった」
 「紹介する、陸幕の尾形陸将補殿、イージス艦『金剛』の艦長、山上一佐、それからディーゼル潜水艦、『くろしお』艦長、三井一佐殿と三宅空将殿だ」
 「尾形です」
 
 各自がそれぞれ俺に挨拶をしてくれた。錚々たる顔ぶれであった。

 「藤堂です」
 「存じ上げております、防大始まって以来の秀才だとか?」
 「準備は整った。作戦名は『ピアノ協奏曲第5番』だ」
 「ベートーヴェン、『皇帝』か?」
 「そうだ。俺は皇帝になる、決起暗号は「春の小川」だ」
 
 いよいよクーデターの決行が迫って来ていた。

 
 
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