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第14話
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結論は中々出なかった。
別にクリスチャンになることに抵抗があるわけではない。『蓮の会』を捨てる気にはどうしてもなれなかったからだ。
静江は樹旺に相談することにした。
今日は信者さんたちが一緒だったので、内容が恋愛についてだったので話しづらかった。
ある信者さんが樹旺に訊いていた。
「妻が帰って来ません。どこへ行ってしまったのでしょうか?」
すると樹旺はきっぱりと言った。
「もう川に入って死んでおるよ」
その信者の男は泣き崩れた。
後日、その男の妻は水死体となり、川から引き上げられたという。
別な女性信者が息子のことを相談していた。
「息子が引き籠もって部屋から出てきません、なんとかお助け下さい」
樹旺はその女性に低頭するように命じた。
「よく神様にお願いしてみましょう」
樹旺は印を結び呪文を唱えた。
「良くなりますように」
「ありがとうございました」
静江の番になった。だが樹旺は静江を無視してこう信者さんに話し始めた。
「みなさんの中には他の宗教を勧められている人がいると思います。
いわゆる仏教とかキリスト教ですね? そんな時、どうしますか? はい田村さん」
「私は多神教ではないのでお断りいたします」
「そうですね? 我が『蓮の会』は入信は厳しいですが、お辞めになるのは自由です。
決して引き止めるようなことはいたしません、それもまたひとつの選択肢だからです。
迷いながら、嫌々信仰することはありません、それは神に失礼だからです。
迷いは一番してはいけない行為です。迷ったら辞める、それしかありません。
宗教は洋服であり、クスリなのです。合う合わないはそれぞれ異なるわけです。
人生は「一冊の問題集だ」と提唱する新興宗教もあるようですが、人生が問題集なら、宗教はその参考書だと思います。間違った参考書を選ぶのであれば参考書など見ない方が良いわけです。
つまり良い参考書とは、実は解答書なのです。それが宗教の本質なのです。
もし、今そういうことで悩んでいる人がおいでだとすれば、迷わず『蓮の会』を脱会された方がよろしい。
それは不倫をしているのと同じだからです。自分の信じた道を歩くべきなのです、それが例え荊の道だとしてもです。
いかがですか? 槇村さん?」
静江は泣き出してしまった。
「樹旺様、私が愚かでした。どうか信仰を続けさせて下さい」
「わかりました、では頭をお下げ下さい。神様によくお願いして差し上げましょう。
神よ、どうかこの弱き者を救い給え、咲き誇り給え。えいっ!」
静江はやっと目が覚めた。
そうなのだ、今は良いかもしれないが、現実に静江と壮一の年齢差が縮まるわけでもない。
静江は自分がただ寂しかっただけだったことを思い知った。
翌日、静江は壮一に別れ話をした。
「壮一君、やはり私はあなたとは結婚出来ないわ」
すると壮一は思いがけないことを口にした。
「わかったよ静江さん。僕はクリスチャンを辞めないが、家族とは決別することにする。
だから別れるなんて言わないで欲しい」
「それはダメよ、あなたにはふさわしい女性がきっと現れるわ。
お願いだから私のことはもう諦めて頂戴。お願い」
だが壮一は諦めようとはしなかった。
そして翌日、尾形は珍しく銀行を休んだ。
尾形の母から連絡が来た。
「壮一が、壮一が自殺未遂をしたの。すぐにお見舞いに来てくれないかしら?」
静江は愕然とした。
別にクリスチャンになることに抵抗があるわけではない。『蓮の会』を捨てる気にはどうしてもなれなかったからだ。
静江は樹旺に相談することにした。
今日は信者さんたちが一緒だったので、内容が恋愛についてだったので話しづらかった。
ある信者さんが樹旺に訊いていた。
「妻が帰って来ません。どこへ行ってしまったのでしょうか?」
すると樹旺はきっぱりと言った。
「もう川に入って死んでおるよ」
その信者の男は泣き崩れた。
後日、その男の妻は水死体となり、川から引き上げられたという。
別な女性信者が息子のことを相談していた。
「息子が引き籠もって部屋から出てきません、なんとかお助け下さい」
樹旺はその女性に低頭するように命じた。
「よく神様にお願いしてみましょう」
樹旺は印を結び呪文を唱えた。
「良くなりますように」
「ありがとうございました」
静江の番になった。だが樹旺は静江を無視してこう信者さんに話し始めた。
「みなさんの中には他の宗教を勧められている人がいると思います。
いわゆる仏教とかキリスト教ですね? そんな時、どうしますか? はい田村さん」
「私は多神教ではないのでお断りいたします」
「そうですね? 我が『蓮の会』は入信は厳しいですが、お辞めになるのは自由です。
決して引き止めるようなことはいたしません、それもまたひとつの選択肢だからです。
迷いながら、嫌々信仰することはありません、それは神に失礼だからです。
迷いは一番してはいけない行為です。迷ったら辞める、それしかありません。
宗教は洋服であり、クスリなのです。合う合わないはそれぞれ異なるわけです。
人生は「一冊の問題集だ」と提唱する新興宗教もあるようですが、人生が問題集なら、宗教はその参考書だと思います。間違った参考書を選ぶのであれば参考書など見ない方が良いわけです。
つまり良い参考書とは、実は解答書なのです。それが宗教の本質なのです。
もし、今そういうことで悩んでいる人がおいでだとすれば、迷わず『蓮の会』を脱会された方がよろしい。
それは不倫をしているのと同じだからです。自分の信じた道を歩くべきなのです、それが例え荊の道だとしてもです。
いかがですか? 槇村さん?」
静江は泣き出してしまった。
「樹旺様、私が愚かでした。どうか信仰を続けさせて下さい」
「わかりました、では頭をお下げ下さい。神様によくお願いして差し上げましょう。
神よ、どうかこの弱き者を救い給え、咲き誇り給え。えいっ!」
静江はやっと目が覚めた。
そうなのだ、今は良いかもしれないが、現実に静江と壮一の年齢差が縮まるわけでもない。
静江は自分がただ寂しかっただけだったことを思い知った。
翌日、静江は壮一に別れ話をした。
「壮一君、やはり私はあなたとは結婚出来ないわ」
すると壮一は思いがけないことを口にした。
「わかったよ静江さん。僕はクリスチャンを辞めないが、家族とは決別することにする。
だから別れるなんて言わないで欲しい」
「それはダメよ、あなたにはふさわしい女性がきっと現れるわ。
お願いだから私のことはもう諦めて頂戴。お願い」
だが壮一は諦めようとはしなかった。
そして翌日、尾形は珍しく銀行を休んだ。
尾形の母から連絡が来た。
「壮一が、壮一が自殺未遂をしたの。すぐにお見舞いに来てくれないかしら?」
静江は愕然とした。
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