【完結】Romantical Blue(作品251016)

菊池昭仁

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第2話

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 案の定、オーディションは1次で落とされた。
 
 「あなたは大器晩成型だからのんびりやればいいわよ」
 「大器になる前に割れちゃうかもしれないな?」

 翔子は姉のようにやさしく俺を抱きしめてくれた。

 「私はあなたの役者としての才能を信じているわ。大丈夫、あなたが将来有名になって『徹子の部屋』でいいエピソードになるじゃない。人生なんて障害物競走みたいなものよ、走り続けるしかないわ。あなたも私も」

 俺はいつも翔子に救われた。




 大部屋俳優には大きく分けて2通りだ。端役としてクレジットが出る俳優と、クレジットも出ないエキストラやスタントマンたちである。
 給料は年間100本近く出演しても月給制で年収にして100万円程度である。俳優だけでは食べてはいけない。
 年間10億円近くも稼ぐ大物映画俳優からすれば雲泥の差である。
 大部屋俳優から這い上がった川谷拓三や石倉三郎などもいるが、それはごく僅かだった。



 撮影所の大部屋に行くと酒盛りの最中だった。
 大部屋といっても四畳半や八畳の部屋に押し込められ、そこにはぬしがいた。

 「おう、若者。オーディションどうだったんだ?」
 「駄目でした」
 「そうか、まあいいから飲め」

 福さんが湯呑み茶碗に『さつま白波』を注いで渡してくれた。
 ノブさんがあたりめの盆を回してくれた。

 「この間のVシネではセリフなしの死体役でよお。主役がバカで何回もダメ出しされて土が口に入るし、堪んねえよ。アイドルなんて使えねえよまったく」
 「漢字も読めねえ奴も多いからなあ。「これは美味しい「さいちゅう」ですね?」なんて言いやがる。最中を「さいちゅう」って読むんだぜ」
 「あはははは なんとか坂48の女の子なんか親睦を「しんむつ」って平気で読むしよお」
 「あはははは それでも映画主演だもんなあ」
 「俺なんかもう大部屋歴34年だぜ? 居酒屋で焼鳥焼きながら」
 「それじゃあ焼鳥屋が本職で役者がバイトじゃねえか?」
 「ちがいねえや」
 「あはははは」

 それでもみんなには夢があった。映画俳優になる夢が。
 


 俺は大部屋を抜け出してスタジオの隅で撮影を覗いていた。
 監督やスタッフたちの怒号が飛ぶ。


 「止め止め! お前何年役者やってんだこの大根役者!」
 「現場に来てから台本なんか読んでんじゃねえよボケ!」
 「何回カメラ回させるんだよこの野郎!」

 羨ましいと思った。
 俺もいつかはこの現場に立ちたいと思った。
 
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