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最終話
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「カッーーーット!」
劔での撮影が終了した。
「伊吹晋也、お前、いい顔になったな?」
「ようやく主役の顔になりましたね?」
「晋也、お前はいい役者になるよ。また一緒に映画、撮ろうな?」
「はい。みなさん、ありがとうございました」
「これ、俺達からの餞別だ。帰ったら女と祝杯をあげろ」
「遠慮すんな。お前、カネないんだろう?」
「遠慮なんかしません。このお金はいつか倍にしてお返しします」
「100倍にして返せよ、主役、伊吹晋也」
「はい!」
俺はやっと「主役」ではなく、みんなから名前で呼んでもらえるようになった。
うれしかった。俺は泣いた。
撮影所等での撮影も終わり、クランクアップとなった。
「お疲れ様でしたーっ!」
そして半年後、上映の日を迎えた。
舞台挨拶では監督がマイクを握った。
「この映画のタイトルは英語的には間違っています。本来なら「Romantic Blue」ですよね? でもいいんです、その方が「ロマンチックな青」という気がするじゃありませんか?
遠くの山が少し薄いブルーになっているのを見たことがあると思います。
あれは森林の成分に含まれるフィトンチッドのテルペンによるものだとされています。
私はあの山々の色が好きです。
私はインドア派なので、山登りはバカのすることだと思っていました。
学生時代の親友も冬の劔岳で死にました。本当にバカな男です、山で死ぬなんて。
でも今回、厳冬期の劔に登ってみて、それがバカのすることではないことがよくわかりました。
山は性悪女なのです。女性のみなさん、いい意味でですよ。
特に冬山は人の心を掴んで離してはくれないからです。私はすっかりあの素晴らしい冬の劔岳に魅了されました。
劔の登山口にある石碑には「試練と憧れ」と刻まれています。
まさに人生は試練と憧れの連続じゃあありませんか? 七転び八起き。いや、1万転び1万1回起きかもしれない。
あるいはそれ以上かもしれません。そしてその度、人は強く賢くなる。
人生に失敗などないのです、あるのは学びだけ。
重い撮影機材を担いでもらい、仲間たちにも多大な苦労を掛けました。ヘリやCG合成でもいいものを、敢えてリアリティに拘りました。
そして今回、元大部屋俳優の伊吹晋也を主役に大抜擢しました。周囲からの反対はありましたが彼を主役にして本当に良かったと思っています。彼と劔があったからこそ出来た映画です。
彼の真っ直ぐな目が気に入りました。そして誰よりも映画を愛している。
まあ、私ほどではありませんが。
必ず彼は映画界の歴史に名前を刻むことでしょう。今後の伊吹晋也の活躍にもご期待下さい。
それでは皆さん、そんな我々の渾身の作品、『Romantical Blue』を最後までお楽しみ下さい。
よろしくお願いします。本日は映画館においで下さいまして感謝に堪えません。ありがとうございます」
会場から拍手喝采が湧き起きた。
初上映には翔子も来てくれた。
映画の上映が始まり、大型スクリーンに映し出された雄大な劔岳をバックに、
『Romantical Blue』
監督・脚本:城山英治
山で亡くなったすべての登山者に捧げます
そして次のシーンになり、息を切らし、鼻水を垂らして雪山を登る、俺の顔が大きくアップで映し出された。
夢が叶った瞬間だった。
俺は声を上げて泣いた。
みんなも俺の肩を叩いて抱きしめて一緒に泣いてくれた。
「よかったな? 晋也」
「伊吹、最高じゃないか!」
「あ、ありがとう、ございます。みなさんのおかげです」
映画が終わり、クレジットが流れた。
視聴者たちもみんな泣いていた。
映画が終わっても翔子は席を立つことなく、涙を流していた。
俺は翔子の前に立ち、
「翔子、俺の夢がやっと叶ったよ」
俺は翔子を強く抱きしめた。
「ありがとう翔子、君のお陰で俺は映画俳優になれた」
「神様って本当にいらっしゃるのね?」
「ああ、そしてお前という女神もな?」
俺たちは映画館を出ようとせず、そのまま石になった。
俺は翔子を連れて夏の立山に出掛けた。
チングルマ等の高山植物の花畑でライチョウを見かけた。
カークカークゥ
「あっライチョウだ」
「めずらしいな? 俺も初めて見たよ。ライチョウは2万年前からいるらしい」
「飛ばないの?」
「飛ぶだろうけど飛ばなくてもいいんだろうな?」
「どうして?」
「いつも空に手が届くからなのかもしれない」
「私も飛ばなくてもいいわね? あなたという空があるから」
夜、食事を終え、立山ホテルの外に出た。満天の星。
「うわー、プラネタリュウムみたい!」
俺は翔子にプロポーズをした。
「星のきれいな夜だから俺たち、結婚しないか?」
「流石は映画俳優さん、映画のセリフみたいなプロポーズね? でも何も変わらないわよ? もう一緒に暮らしているんだから」
「変わるよ。名前が「伊吹翔子」に」
星空の下、俺たちは誓いのキスをした。
『Romantical Blue』完
劔での撮影が終了した。
「伊吹晋也、お前、いい顔になったな?」
「ようやく主役の顔になりましたね?」
「晋也、お前はいい役者になるよ。また一緒に映画、撮ろうな?」
「はい。みなさん、ありがとうございました」
「これ、俺達からの餞別だ。帰ったら女と祝杯をあげろ」
「遠慮すんな。お前、カネないんだろう?」
「遠慮なんかしません。このお金はいつか倍にしてお返しします」
「100倍にして返せよ、主役、伊吹晋也」
「はい!」
俺はやっと「主役」ではなく、みんなから名前で呼んでもらえるようになった。
うれしかった。俺は泣いた。
撮影所等での撮影も終わり、クランクアップとなった。
「お疲れ様でしたーっ!」
そして半年後、上映の日を迎えた。
舞台挨拶では監督がマイクを握った。
「この映画のタイトルは英語的には間違っています。本来なら「Romantic Blue」ですよね? でもいいんです、その方が「ロマンチックな青」という気がするじゃありませんか?
遠くの山が少し薄いブルーになっているのを見たことがあると思います。
あれは森林の成分に含まれるフィトンチッドのテルペンによるものだとされています。
私はあの山々の色が好きです。
私はインドア派なので、山登りはバカのすることだと思っていました。
学生時代の親友も冬の劔岳で死にました。本当にバカな男です、山で死ぬなんて。
でも今回、厳冬期の劔に登ってみて、それがバカのすることではないことがよくわかりました。
山は性悪女なのです。女性のみなさん、いい意味でですよ。
特に冬山は人の心を掴んで離してはくれないからです。私はすっかりあの素晴らしい冬の劔岳に魅了されました。
劔の登山口にある石碑には「試練と憧れ」と刻まれています。
まさに人生は試練と憧れの連続じゃあありませんか? 七転び八起き。いや、1万転び1万1回起きかもしれない。
あるいはそれ以上かもしれません。そしてその度、人は強く賢くなる。
人生に失敗などないのです、あるのは学びだけ。
重い撮影機材を担いでもらい、仲間たちにも多大な苦労を掛けました。ヘリやCG合成でもいいものを、敢えてリアリティに拘りました。
そして今回、元大部屋俳優の伊吹晋也を主役に大抜擢しました。周囲からの反対はありましたが彼を主役にして本当に良かったと思っています。彼と劔があったからこそ出来た映画です。
彼の真っ直ぐな目が気に入りました。そして誰よりも映画を愛している。
まあ、私ほどではありませんが。
必ず彼は映画界の歴史に名前を刻むことでしょう。今後の伊吹晋也の活躍にもご期待下さい。
それでは皆さん、そんな我々の渾身の作品、『Romantical Blue』を最後までお楽しみ下さい。
よろしくお願いします。本日は映画館においで下さいまして感謝に堪えません。ありがとうございます」
会場から拍手喝采が湧き起きた。
初上映には翔子も来てくれた。
映画の上映が始まり、大型スクリーンに映し出された雄大な劔岳をバックに、
『Romantical Blue』
監督・脚本:城山英治
山で亡くなったすべての登山者に捧げます
そして次のシーンになり、息を切らし、鼻水を垂らして雪山を登る、俺の顔が大きくアップで映し出された。
夢が叶った瞬間だった。
俺は声を上げて泣いた。
みんなも俺の肩を叩いて抱きしめて一緒に泣いてくれた。
「よかったな? 晋也」
「伊吹、最高じゃないか!」
「あ、ありがとう、ございます。みなさんのおかげです」
映画が終わり、クレジットが流れた。
視聴者たちもみんな泣いていた。
映画が終わっても翔子は席を立つことなく、涙を流していた。
俺は翔子の前に立ち、
「翔子、俺の夢がやっと叶ったよ」
俺は翔子を強く抱きしめた。
「ありがとう翔子、君のお陰で俺は映画俳優になれた」
「神様って本当にいらっしゃるのね?」
「ああ、そしてお前という女神もな?」
俺たちは映画館を出ようとせず、そのまま石になった。
俺は翔子を連れて夏の立山に出掛けた。
チングルマ等の高山植物の花畑でライチョウを見かけた。
カークカークゥ
「あっライチョウだ」
「めずらしいな? 俺も初めて見たよ。ライチョウは2万年前からいるらしい」
「飛ばないの?」
「飛ぶだろうけど飛ばなくてもいいんだろうな?」
「どうして?」
「いつも空に手が届くからなのかもしれない」
「私も飛ばなくてもいいわね? あなたという空があるから」
夜、食事を終え、立山ホテルの外に出た。満天の星。
「うわー、プラネタリュウムみたい!」
俺は翔子にプロポーズをした。
「星のきれいな夜だから俺たち、結婚しないか?」
「流石は映画俳優さん、映画のセリフみたいなプロポーズね? でも何も変わらないわよ? もう一緒に暮らしているんだから」
「変わるよ。名前が「伊吹翔子」に」
星空の下、俺たちは誓いのキスをした。
『Romantical Blue』完
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