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第9話 家族ごっこ
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ボルツは少し遅れるということだったので、私は楓と肉を食べ始めていた。
「少しレアだけど、いい肉だから大丈夫だ。
ここの肉は刺身でも食えるからな。
もう少し焼いた方が好きか?」
「ううん、私もレアが好きです。
本当にお刺身でも食べられそうなお肉ですよね?
こんなお肉、食べたことがありません」
「たくさん食べろよ」
私は遠慮している楓の皿に、肉を取り分けてやった。
「ありがとうございます。神崎さんも食べて下さいよ、さっきから焼いてばかり」
「もう爺さんだしな? あんまり沢山は食えねえんだよ。
でも、こうやって人に喰わせるのは好きだけどな」
私はまた、楓の皿に肉を乗せた。
「ママ遅いですね? 神崎さん、いつもママがお世話になっています」
「助かっているのは俺の方だ。いいからどんどん食え」
「神崎さんにお会いして、安心しました。
私、心配していたんです。ママが私のために変なお仕事をしているんじゃないかって。
でも、神崎さんだったら安心です。
ママ、家では神崎さんのことばっかり話すんですよ。
その時のママ、すっごくうれしそうなんです。
だから神崎さんってどんな人なのかなあって、勝手に想像していました。
神崎さんは想像以上に素敵な人でした」
「そうか?」
私は心が痛んだ。
ボルツが遅れているのは、客からの延長のためだったからだ。
「神崎さん、奥さんと子供さんはいるんですか?」
「逃げられたよ。今はひとりだ」
「彼女さんは?」
「俺に寄って来る女はいない」
「うそばっかり。神崎さんってモテそうです。
うちのママはどうですか?」
俺は苦笑いして話題を変えた。
「何か飲むか?」
「はぐらかさないで下さいよー、うふっ。
あっ、私はお水でいいです」
「そうか? 生ビールをくれ」
私は空になったジョッキを店員に示した。
楓の顔が明るくなった。
「じゃあ不倫じゃないですよね? ママが神崎さんのこと、好きになっても?」
「それはママが決めることだ」
「絶対に好きですよ、間違いありません!
私、わかるんです、娘だから」
こんなかわいい娘のために、ボルツは男に抱かれているのかと思うと、私は胸が締め付けられる想いだった。
楓の携帯に着信があった。
「ママからでした。あと5分で着くそうです」
「そうか」
楓はとても嬉しそうだった。
30分前に会ったばかりだというのに、私たちはすぐに打ち解けることが出来た。
美味しそうに肉を頬張る楓に、私は目を細めた。
息を切らせてボルツが店にやって来た。
「すみません部長、遅くなっちゃって。
中々最後のお客様がお帰りにならなくて」
「そうか? ご苦労さん。
とりあえずビールでいいか?」
「はい」
「楓、ママと俺に生を追加してくれ」
「はーい、すみませーん! ここに生ビールふたつお願いしまーす!」
「楓、ちゃんと神崎さんにご挨拶したの?」
「したよ。もう高校生だよ、私」
ボルツもうれしそうだった。
私たちはまるで親子のように食事を続けた。
その日以来、私たちは週に一度、家族のように食事をし、ボーリングやカラオケ、一緒にプリクラを撮ったりもした。
私とプリクラを撮った楓が言った。
「ママも神崎さんと撮りなよ、ふたりで」
「えーっ、部長にご迷惑よ」
「そんなことないですよね? 神崎さん?」
私は無言のまま、プリクラのボックスの中に入って行った。
後から照れ臭そうにボルツも入って来た。
「どうすればいいんだ? これ?」
「私がやります」
私は履歴書写真のように硬い表情で写っていたが、ボルツは微笑んでプリクラに写っていた。
ボルツの家で夕飯を食べていると、
「神崎さん、今日はウチに泊って行って下さいよ」
「こら楓、神崎さんに失礼よ。神崎さんはお忙しいんだから」
「ダメですか? 神崎さん?」
「泊めてくれるのか?」
「もちろんですよ、そして3人で一緒に寝ましょうよ」
私とボルツは驚いて顔を見合わせた。
私を真ん中にして楓が右に、そしてボルツが私の左に寝た。
「なんだか修学旅行みたいだな?」
すると楓が恥ずかしそうに言った。
「神崎さん、パパって呼んでもいいですか?」
「別に、いいよ」
「パパ・・・、おやすみなさい」
楓は布団の中で私と手を繋いだ。
ボルツは泣いているようだった。
楓は安心したのか、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。
ボルツが私に体を寄せてきた。
「楓は神崎さんが大好きなんですよ。「神崎さんとならお風呂も平気、一緒に入れるもん」って。
あんなに楽しそうな楓を見たのは久しぶりでした・・・」
私はボルツをそのまま抱き締めた。
「本当の家族みたいだな? 俺たち」
「本当、家族みたい・・・」
私とボルツは静かに寝息を立てて眠っている、楓を見ていた。
(この母娘を守ってやりたい)
私はそう思った。
「少しレアだけど、いい肉だから大丈夫だ。
ここの肉は刺身でも食えるからな。
もう少し焼いた方が好きか?」
「ううん、私もレアが好きです。
本当にお刺身でも食べられそうなお肉ですよね?
こんなお肉、食べたことがありません」
「たくさん食べろよ」
私は遠慮している楓の皿に、肉を取り分けてやった。
「ありがとうございます。神崎さんも食べて下さいよ、さっきから焼いてばかり」
「もう爺さんだしな? あんまり沢山は食えねえんだよ。
でも、こうやって人に喰わせるのは好きだけどな」
私はまた、楓の皿に肉を乗せた。
「ママ遅いですね? 神崎さん、いつもママがお世話になっています」
「助かっているのは俺の方だ。いいからどんどん食え」
「神崎さんにお会いして、安心しました。
私、心配していたんです。ママが私のために変なお仕事をしているんじゃないかって。
でも、神崎さんだったら安心です。
ママ、家では神崎さんのことばっかり話すんですよ。
その時のママ、すっごくうれしそうなんです。
だから神崎さんってどんな人なのかなあって、勝手に想像していました。
神崎さんは想像以上に素敵な人でした」
「そうか?」
私は心が痛んだ。
ボルツが遅れているのは、客からの延長のためだったからだ。
「神崎さん、奥さんと子供さんはいるんですか?」
「逃げられたよ。今はひとりだ」
「彼女さんは?」
「俺に寄って来る女はいない」
「うそばっかり。神崎さんってモテそうです。
うちのママはどうですか?」
俺は苦笑いして話題を変えた。
「何か飲むか?」
「はぐらかさないで下さいよー、うふっ。
あっ、私はお水でいいです」
「そうか? 生ビールをくれ」
私は空になったジョッキを店員に示した。
楓の顔が明るくなった。
「じゃあ不倫じゃないですよね? ママが神崎さんのこと、好きになっても?」
「それはママが決めることだ」
「絶対に好きですよ、間違いありません!
私、わかるんです、娘だから」
こんなかわいい娘のために、ボルツは男に抱かれているのかと思うと、私は胸が締め付けられる想いだった。
楓の携帯に着信があった。
「ママからでした。あと5分で着くそうです」
「そうか」
楓はとても嬉しそうだった。
30分前に会ったばかりだというのに、私たちはすぐに打ち解けることが出来た。
美味しそうに肉を頬張る楓に、私は目を細めた。
息を切らせてボルツが店にやって来た。
「すみません部長、遅くなっちゃって。
中々最後のお客様がお帰りにならなくて」
「そうか? ご苦労さん。
とりあえずビールでいいか?」
「はい」
「楓、ママと俺に生を追加してくれ」
「はーい、すみませーん! ここに生ビールふたつお願いしまーす!」
「楓、ちゃんと神崎さんにご挨拶したの?」
「したよ。もう高校生だよ、私」
ボルツもうれしそうだった。
私たちはまるで親子のように食事を続けた。
その日以来、私たちは週に一度、家族のように食事をし、ボーリングやカラオケ、一緒にプリクラを撮ったりもした。
私とプリクラを撮った楓が言った。
「ママも神崎さんと撮りなよ、ふたりで」
「えーっ、部長にご迷惑よ」
「そんなことないですよね? 神崎さん?」
私は無言のまま、プリクラのボックスの中に入って行った。
後から照れ臭そうにボルツも入って来た。
「どうすればいいんだ? これ?」
「私がやります」
私は履歴書写真のように硬い表情で写っていたが、ボルツは微笑んでプリクラに写っていた。
ボルツの家で夕飯を食べていると、
「神崎さん、今日はウチに泊って行って下さいよ」
「こら楓、神崎さんに失礼よ。神崎さんはお忙しいんだから」
「ダメですか? 神崎さん?」
「泊めてくれるのか?」
「もちろんですよ、そして3人で一緒に寝ましょうよ」
私とボルツは驚いて顔を見合わせた。
私を真ん中にして楓が右に、そしてボルツが私の左に寝た。
「なんだか修学旅行みたいだな?」
すると楓が恥ずかしそうに言った。
「神崎さん、パパって呼んでもいいですか?」
「別に、いいよ」
「パパ・・・、おやすみなさい」
楓は布団の中で私と手を繋いだ。
ボルツは泣いているようだった。
楓は安心したのか、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。
ボルツが私に体を寄せてきた。
「楓は神崎さんが大好きなんですよ。「神崎さんとならお風呂も平気、一緒に入れるもん」って。
あんなに楽しそうな楓を見たのは久しぶりでした・・・」
私はボルツをそのまま抱き締めた。
「本当の家族みたいだな? 俺たち」
「本当、家族みたい・・・」
私とボルツは静かに寝息を立てて眠っている、楓を見ていた。
(この母娘を守ってやりたい)
私はそう思った。
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