★【完結】海辺の朝顔(作品230722)

菊池昭仁

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第14話 別れの予感

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 朝方6時、私は仕事を終えて帰宅した。

 「あなた、お帰りなさい」
 「パパ、お疲れさまーっ」
 「ただいま。凄い花だな? いいね、心が和むよ」
 「今日ね、ミュウさんがお店に来て下さって、私たちにお祝いのお花ですって。
 私が花束を作って、それを私にプレゼントしてくれたのよ。
 後でお礼を言っておいて下さいね」
 「結婚したことは井岡会長にしか話していなかったんだけどな?
 まあいい、いずれわかることだ。
 他に、何か言っていなかったか?」
 「いいえ、別に何も。ビールでいいですか?」
 「いいよ、自分でやるから」

 友理子は嘘を吐いた。


 私は冷蔵庫からビールを取り出し、食卓についた。

 「パパ、いつもご苦労様、朝までお仕事なんて大変でしょう?」
 「もう慣れたよ。それに働いている時間は同じだからな。俺は夜に働くのサラリーマンだよ。
 昼に働くか、夜に働くかの違いだけだ」


 楓は食事を終えると、学校へと出掛けて行った。

 「行ってきまーす!」
 「いってらっしゃい」
 「気をつけて行くんだぞ」
 「ハーイ!」
 

 すると友理子は楓が出て行くのを待っていたかのように話し始めた。

 「ねえ、何か心配ごとはなあい?」
 「何だよいきなり。あるよ」
 「どんなこと?」

 友理子は真顔だった。
 おそらくミュウが私を心配して友理子に何かを話したようだった。
 大体の予想はついている。


 「心配なのはな? もっとお前のことが好きになりそうだということだ」
 「もう、ドキドキさせないで下さいよ」
 「ダメなのか? ドキドキさせちゃ?」

 友理子は私に抱き付き熱いキスをした。

 「ほら、花屋の仕事に遅れるぞ」
 「ねえ、あなた」
 「何だ?」
 「私たちを見捨てないでね」
 「当たり前だ、お前たちから見捨てられても、俺がお前たちを見捨てることはないから安心しろ」

 友理子は私を真っすぐに見て言い放った。

 「あなたにもしものことがあったら、私もそうしますからね」

 それだけ言うと、友理子はエプロンを脱いで花屋の仕事に出掛けて行った。



 私は湯舟に浸かりながら考えた。
 やはりミュウは友理子に俺の異変を伝えたようだった。
 
 だがそれは悪い事ではない。いずれ訪れる別れの序章として、寧ろ必要な事でもあった。
 いきなり氷の水に入るよりは、多少、冷たい水に慣れておくべきなのかもしれない。

 長い間、私はずっと孤独だった。
 家に帰れば愛すべき妻と娘が私を待っていてくれる生活。私はこれ以上、人生に何を望むというのだろう。
 
 その日私は少し長湯をした。
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