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第18話 別れの酒
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退院して私は友理子と『カリブ』へやって来た。
「いらっしゃいませ。
神崎さん、お身体の方はもう大丈夫なのですか?」
「おかげさまで昨日、退院しました。
ただの過労です。
キャプテンよりも若いのにお恥ずかしい限りです」
「大事にして下さいね? 神崎さんは皆さんから頼りにされているんですから」
「そうですよ、もっと自分を労わってもらわないと」
「キャプテン、私はワイルドターキーをロックで、お前は何にするんだ?」
「私はマルガリータを」
「かしこまりました」
キャプテンはまるで化学の実験でもするかのように酒瓶をカウンターに並べた。
平たい銀の皿に塩を敷き、カクテルグラスのエッジにレモンを滑らせるとそれを逆さにしてそこに置き、スノースタイルを作った。
シェイカーにテキーラ、コアントロー、そしてレモンを絞る。
そこに氷を入れ、キャプテンがシェイクを始めた。
心地良いシェイカーの響き。
それをカクテルグラスに注ぎ、マルガリータは完成した。
そして間髪を入れず、キャプテンはあっという間にキューブ氷をアイスピックだけを使ってアイスボールを作ると、それをロックグラスに入れた。
カランという澄んだ音がバカラのグラスで鳴った。
ターキーがそこに注がれてゆく。
「お待たせしました」
「いただきます。 あなた、退院おめでとう」
「ありがとう、友理子、心配かけたな?」
私たちはグラスを合わせた。
「ああ、美味しいー。キャプテンのマルガリータは最高です」
「ありがとうございます」
バーボンの香りが鼻から抜けていった。
「なあ友理子、俺も歳だし、いつどうなるかもわからん。
おまえは俺が惚れるほどいい女だ、だから人生を無駄にするようなことはするな」
「どうしたの? 明日にも死んじゃうような話なんかして?」
「人の死は誰にでも平等に訪れるものだ。それが早いか遅いかの違いだけだ。
俺が先か、お前が先かなんてわかりはしない。
俺も友理子も確実に死ぬ。それが自然の摂理だからだ。
だからお前は俺にその時が来ても、悲しむことはない。
神様から与えられた命を全うするんだ。いいな?」
友理子はマルガリータに口をつけた。
「もしも私があなたよりも先に死んだら、再婚してもいいわよ」
「もちろんそうさせてもらうよ。
でも、もし俺が先になったらその時はお前も再婚しろ。俺は焼き餅は焼かない」
「私は夫を見送ったわ。彼には悪いけど、看病が長かったせいか、ホッとしたのも事実だった。
それだけ地獄のような毎日だったから。
そしてやっとあなたとの幸福な生活が出来るようになった。
結婚生活がこんなに素敵な物だとは思わなかった。
もしもあなたを失うようなことがあれば、私は生きていく自信がない・・・」
「どんな夫婦にも、いつかは死が二人を分かつ時が必ず来る。必ずだ。
一緒に死んで同じ墓に入ることが幸福ではない。
俺もお前もこの世に生まれた意味がある。
人間はひとりで生まれ、ひとりで死んでいく。
人はどれだけ生きたかじゃない、いかに生きたかなんだ。
人生は「ありがとう」をたくさん集めるゲームだ。
だから万が一の時は俺の分まで「ありがとう」を集めて生きてくれ」
「人生は「ありがとう」を集めるゲームかあ?」
「そうだ、そして友理子、俺の願いはただひとつだ。
また人間に生まれ変わることが出来たら、またお前と巡り会いたい。
そしてまた、必ずお前を探してみせる」
友理子は私に寄り添い私の手を握った。
「私もあなたを探すわ、そして絶対にあなたを探し出してみせる。
そして今よりもっとあなたを愛したい・・・」
「キャプテン、同じものをお願いします」
「かしこまりました」
(キャプテン、今までお世話になりました)
私は別れの酒を一気に飲み干した。
「いらっしゃいませ。
神崎さん、お身体の方はもう大丈夫なのですか?」
「おかげさまで昨日、退院しました。
ただの過労です。
キャプテンよりも若いのにお恥ずかしい限りです」
「大事にして下さいね? 神崎さんは皆さんから頼りにされているんですから」
「そうですよ、もっと自分を労わってもらわないと」
「キャプテン、私はワイルドターキーをロックで、お前は何にするんだ?」
「私はマルガリータを」
「かしこまりました」
キャプテンはまるで化学の実験でもするかのように酒瓶をカウンターに並べた。
平たい銀の皿に塩を敷き、カクテルグラスのエッジにレモンを滑らせるとそれを逆さにしてそこに置き、スノースタイルを作った。
シェイカーにテキーラ、コアントロー、そしてレモンを絞る。
そこに氷を入れ、キャプテンがシェイクを始めた。
心地良いシェイカーの響き。
それをカクテルグラスに注ぎ、マルガリータは完成した。
そして間髪を入れず、キャプテンはあっという間にキューブ氷をアイスピックだけを使ってアイスボールを作ると、それをロックグラスに入れた。
カランという澄んだ音がバカラのグラスで鳴った。
ターキーがそこに注がれてゆく。
「お待たせしました」
「いただきます。 あなた、退院おめでとう」
「ありがとう、友理子、心配かけたな?」
私たちはグラスを合わせた。
「ああ、美味しいー。キャプテンのマルガリータは最高です」
「ありがとうございます」
バーボンの香りが鼻から抜けていった。
「なあ友理子、俺も歳だし、いつどうなるかもわからん。
おまえは俺が惚れるほどいい女だ、だから人生を無駄にするようなことはするな」
「どうしたの? 明日にも死んじゃうような話なんかして?」
「人の死は誰にでも平等に訪れるものだ。それが早いか遅いかの違いだけだ。
俺が先か、お前が先かなんてわかりはしない。
俺も友理子も確実に死ぬ。それが自然の摂理だからだ。
だからお前は俺にその時が来ても、悲しむことはない。
神様から与えられた命を全うするんだ。いいな?」
友理子はマルガリータに口をつけた。
「もしも私があなたよりも先に死んだら、再婚してもいいわよ」
「もちろんそうさせてもらうよ。
でも、もし俺が先になったらその時はお前も再婚しろ。俺は焼き餅は焼かない」
「私は夫を見送ったわ。彼には悪いけど、看病が長かったせいか、ホッとしたのも事実だった。
それだけ地獄のような毎日だったから。
そしてやっとあなたとの幸福な生活が出来るようになった。
結婚生活がこんなに素敵な物だとは思わなかった。
もしもあなたを失うようなことがあれば、私は生きていく自信がない・・・」
「どんな夫婦にも、いつかは死が二人を分かつ時が必ず来る。必ずだ。
一緒に死んで同じ墓に入ることが幸福ではない。
俺もお前もこの世に生まれた意味がある。
人間はひとりで生まれ、ひとりで死んでいく。
人はどれだけ生きたかじゃない、いかに生きたかなんだ。
人生は「ありがとう」をたくさん集めるゲームだ。
だから万が一の時は俺の分まで「ありがとう」を集めて生きてくれ」
「人生は「ありがとう」を集めるゲームかあ?」
「そうだ、そして友理子、俺の願いはただひとつだ。
また人間に生まれ変わることが出来たら、またお前と巡り会いたい。
そしてまた、必ずお前を探してみせる」
友理子は私に寄り添い私の手を握った。
「私もあなたを探すわ、そして絶対にあなたを探し出してみせる。
そして今よりもっとあなたを愛したい・・・」
「キャプテン、同じものをお願いします」
「かしこまりました」
(キャプテン、今までお世話になりました)
私は別れの酒を一気に飲み干した。
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