Buddy

シン

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不仲な兄弟

油断

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いつきはとある廃ビルに来ていた。
ターゲットのチームがここをアジトにしていると聞いて来たが…。
斎のスニーカーがたてる僅かな足音だけが響く。
心がザワつく。どうしても、落ち着ききれない。
切り替えないと。自らを急かせば急かすほど、どんどん落ち着けない。
『クソ斎、遊んでんなよ。早く行け』
耳に着けたインカムから無愛想な桐斗きりとの声が聞こえる。
斎は余計な考えを追い払おうと頭を振り、直後にその場から飛び退いた。背後でバチィッと火花が散る。
振り返った斎の視線の先には、目出し帽を被った男が立っていた。手にはスタンガン。
『どうかした?』
そう問いかけてくる桐斗に答えている暇はない。
斎は素早く姿勢を低くし、男の懐に飛び込む。足を払って男の体勢を崩し、腕をとって地面にねじ伏せる。
「何用だ?」
斎は低い声で男に尋ねる。男はギリ、と歯軋りしたが、直後に勝ち誇ったように目出し帽から覗く目元に笑みを浮かべた。
「チェックメイトだ、西条さいじょう斎」
(なぜ俺の名を…?)
一瞬戸惑った斎の頭に、ドンッと強い衝撃が走る。倒れる斎の目に、自分の背後に静かに立つ黒いコートの男が映った。
ぼやける視界の中でも、はっきりとその存在は知覚できる。
(コイツ……プロか…)
どうしてただの半グレ集団が、裏社会の最深部でもある用心棒殺し屋を雇えるのか。
考えたくても、徐々に斎の意識は暗闇に塗り替えられていく。立ち上がろうにも、身体に力が入らない。

〈殺シテシマエバイイ、ソウダロウ?斎〉

理性が呑まれていく。身体中を血が巡り、殺せ、殺せと喚いてくる。

痛いなら正気保ってられるよね?その傷自分で引っ掻いて正気保っとけクズ

思い出される、弟の言葉。
ズキリ、と桐斗につけられた首筋の傷が痛んだ。斎は感覚が無くなっていく指先で、縋るように傷を引っ掻いた。
血が滲む。痛みが少し、理性を引き戻してくれる。

(やっぱり、アイツはなんでも分かってるんだな…)

頭がガンガンと痛む。吐き気がする。目の前が暗い。
『おい、どうした?返事しねぇと分かんねぇんだけど!』
桐斗の苛立ったような声を最後に、斎は意識を手放した。

━━━━━━━━━━━━━━━

「ああああクソがっ!」
ガンッと机を蹴る桐斗。びくり、と菜花なのかの肩が飛び上がる。
「ちょっと桐斗!」
律香りっかが桐斗を叱りつけるが、お構いなしに桐斗は立ち上がり、室長室に怒鳴り込んだ。
莉久りくさん、斎の馬鹿がやられた!」
莉久はデスクから立ち上がり、桐斗を問い詰める。
「どういうことだい?すぐに状況を教えてくれ」
「ターゲットのアジトに潜入してたんだけど、やられた。拉致られたっぽい」
桐斗は説明する気があるのかないのか大雑把に吐き捨てると、 苛立たしげに髪を掻き回した。
「とにかく、どうにかして斎くんを助けないと…」
莉久が頭を抱えた時。
ガタン、と桐斗が室長室を出て、自分のロッカーに駆け寄る。着ていたパーカーを脱ぎ、代わりに黒いタイトな上着を羽織った。ジャッとチャックを閉め、暗視ゴーグルを頭に付ける。
「き、桐斗……?」
律香が恐る恐る声をかけるが、桐斗はお構い無しに腰に拳銃を二丁差し込む。
「………待ってろ」
ギリ、と音がしそうなほどキツく拳を握り、ロッカーを殴りつける。ガアンッという硬質的な音を背に、桐斗は部屋を出ていった。
「馬鹿どもに誰を敵に回したか教えてやる」
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