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獅子の宝石
プロローグ
しおりを挟む魔法使いと人間。
それらは同じ世界に存在しながら、共存することの無い存在。
お互いに、古い時代からずっと交わらないようにして生きてきたのだ。そうしているのは、お互いの存在を認めたくないからである。魔法使いは人間を、魔法が使えない下等な生き物として蔑み、逆に人間は魔法を不気味な力だとして悪魔的存在だと畏怖している。だからお互い交わることが無いのだ。
そうして時は流れていき、人間は魔法使いが実在するのかも分からないほどになっていた。もちろん、この物語の主人公であるユーシル・ペンバートンも魔法使いなど信じていなかった。
だから、ユーシルは驚いていた。
「……お母さんが……魔女だったって?」
小学校の卒業式を数日後に控えた今日、ユーシルの母親であるメリッサが死んだ。母の再婚相手でユーシルの義父にあたるドレイクが諸々の手続きをしていたところ、彼女の持っていた身分証などが全て偽造されたものであり、メリッサという人間は存在していなかったのだ。
ドレイクは憔悴していた。愛していたはずの妻が魔女だったことに絶望しているのだ。彼の古い先祖は魔女狩りなどで多くの魔法使いを殺した祓魔師であり、彼は小さな頃から話を聞かされていた、そんな先祖に憧れ魔法使いを毛嫌いしていた。
だからこそ、自身の妻が魔女であったことも、息子がその血を引いていることも許せなかった。
「あぁそうだ。お前の母親も、お前も!!忌々しい存在だということだ!」
今すぐ家から出ていけ!と父親であったはずの男に鋭い剣幕で怒鳴られ、抵抗虚しく家を追い出されてしまったユーシル。
魔法使いだなどと、未だに理解できない理不尽な理由で母親の死を悼む間もなくひとりぼっちになってしまったユーシルはこれからどうすれば良いのかも分からずに、夜空の下を独りでまだ寒いにも関わらず薄着のままとぼとぼと歩いていた。
ユーシルに対する良くない噂が回るのは早く、というより父親が何かしらユーシルに害をなす程の話を広めたのだろうが、皆がユーシルをどこか不気味なものを見るような目で見て、友人だった子達でさえユーシルを無視し、すれ違い様に突き飛ばされたりもした。
「………皆して僕が何をしたっていうんだ、僕が魔法使いならこんな寒い日だって魔法で簡単にあったかくしてるだろ。大人のくせに魔法使いなんか信じてさ」
怒りと惨めな思いを胸に抱えてもう人気の無くなった道を歩きながらそう言葉を漏らす。するとあっという間にユーシルの全身から寒気が消え、ぬくもりに包まれる。
まるで、魔法のように。
「ぅえっ??え、なにこれなにこれぇ!?」
驚いて目を丸くしているユーシルに、何だか楽しげに笑う声が聞こえてきた。慌てて笑い声がした方を向けば、そこには大きなローブに身を包んだ三十代程の男がいた。男の瞳はキラキラと金色に輝いている。どこか怪しささえ感じるが、ユーシルは続けられた男の言葉を聞いた。
「それが魔法というものの力ですよ。あなたは今までその力に気付かなかったので見るのも使うのも初めてでしょうが」
「だ、誰??」
突然現れて一人で話し始めた男にユーシルが戸惑っていると、男はにこやかな笑みを浮かべる。
「これは挨拶も無く突然失礼。私はヴェル・ヴァン・レ・ゴールド。あなたのような聡明な魔法使いが通うことのできる魔法学校の校長です。今日はあなたを……ペンバートンくんを迎えに来たのです」
「ゆ……誘拐!?!?」
そう慌てるユーシルを、ヴェルが即座に否定する。
「違います違います。話を聞いていましたか?私はあなたを迎えにきたのですよ、ユーシル・ペンバートンくん。魔法使いであるあなたを」
今日知らされたばかりの、自分が魔法使いの血を引く事実と、そこに現れた魔法学校の校長なのだという男。ユーシルは未だに信じられない出来事ではあるが先程自身が使えた力が魔法では無いならなんだと言うのか。
そして、居場所のない自分を迎えに来たのだという男の手を取れば、ひとりぼっちにならなくて済むのではないかとユーシルの中には淡い期待が生まれていた。
「僕、魔法使いのことはよく知らないです」
「そんなものこれから知っていけば良いのですよ」
「魔法なんて全然使ったことないしちゃんと魔法使いになれるかも分からないです」
「魔法学校は魔法を学ぶ場ですよ、これからあなたは魔法使いの学友と共に学び、遊び、共に成長していくのです。どうです?自分で言うのもなんですが、私の学校結構設備とかも凄いので他の学校なんか便器レベルですよ、便器。私はね、先程あなたを見た時に思ったのです。あなたは偉大な魔法使いになる存在だと」
(べ、便器……??)
ヴェルの言葉を脳内で辿っていくユーシル。ヴェルが向けた言葉の中で、学友という単語がユーシルの心に留まった。
簡単に自分を捨てた人達が、友達であるはずがない。
魔法使いの学校にいけば、僕にも友達が出来るだろうか。幸せな人生が送れるだろうか。
「友達が、僕にもできますか?」
「ペンバートンくんは編入生ですからね、目立ってすぐにお友達ができるでしょう。皆いい子たちなので仲良くしてあげてください」
ヴェルのその言葉に、ひとりぼっちになり冷えついていたユーシルの心がじんわりと温かくなっていく。
「校長先生。僕、魔法使いの学校に行ってみたいです!」
僕の最初の人生はここで終わり。
良いエピローグでは無かったけど、ここからもう一度、魔法使いの世界で幸せなエピローグを迎えるんだ。
そうして、ユーシル・ペンバートンは人間から魔法使いへとなったのだ。
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