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新しい出会い
14:セイジョの結界【ディランSIDE】
しおりを挟む俺はユウと旅を始めた。
ユウが行きたいところは
『聖樹』がある街だという。
『聖樹』がどの街にあるのか
ユウは知らないようだったが、
町や村教会に立ち寄れば
『聖樹』がある街の情報はすぐに手に入った。
もともとユウと出会った村が
この国の端の端。
辺鄙な村だったので、
目的の街に着くのは、
まだ時間がかかりそうだ。
それに『聖樹』のある街すべてを
回りたいと言うのだから、
これから時間をかけて
旅をすることになる。
俺たちはまず最初の
『聖樹』がある街に向かっていた。
辻馬車を乗りついで、
村の宿屋に泊ったり、
あとは…状況によっては
少し寒いが、野宿もした。
路銀が尽きてきたら
ユウと一緒に村や町の人たちの
手伝いをして、食料を
わけてもらったり、
小銭を貰ったり。
その場しのぎで
色々なことを経験しながら
俺たちは旅を進める。
……正直、俺は
物凄く楽しかった。
一人で旅をしていた時には
得られなかったものを今、
ユウに与えて貰っている。
たとえば俺は辻馬車を待つ間、
ユウと遊んでやろうと思い、
抱っこしたユウを高く空に投げた。
するとユウはキャッキャと
笑いながら落ちてきたが、
そばにいた老人が腰を抜かしてしまった。
どうやら…子どもにはしてはいけない
レベルの遊びだったらしい。
ユウを抱っこしたまま、
俺はその老人にものすごく叱られてしまった。
だが、俺は確かに両親に
叱られて育った記憶はあるのに、
こんなに叱られたのは初めてだと思った。
それが、嬉しかった。
また野宿が続いた後、
久しぶりに町に着いて
食堂に入ったとき。
ユウに大きな野獣の姿肉を
食べさせてやろうと注文したら、
食堂のおやじに叱られた。
ユウが姿肉を見て
呆然としていたからだ。
子どもは固い肉を噛めないので
大きな姿肉は普通は食べさせないらしい。
どうしても食べたいのなら
小さく切って食べさせるべきだと
説教されて、なるほど、と俺は思った。
小さい子の歯が弱いのは
知っていた。
だが、そんなこと考えもしなかった。
俺は…ユウとの旅で、
自分の漠然とした過去の記憶…
頭の中にある知識という名の記憶と、
俺の体験がどんどん繋がっていくような気がした。
俺が本当に生きていると
成長していると思える瞬間が
何度もあった。
そうやって俺を感動させているユウは
なんとなく、俺に甘えてくる。
本人は甘えているのを
隠しているようだが、辻馬車が
揺れるので膝に乗せてやれば
嬉しそうに俺にすり寄ってくる。
街に入ったら、
必ず手を繋いでくる。
宿屋では贅沢はできないので
ベットが1つしかない部屋になるが
寝るときはいつも俺の腕に
しがみついてくる。
ユウも…寂しいのだと
俺は思っていた。
だから俺はユウを守ろうと思ったし、
俺を再生させてくれている
ユウを手放せないとも思った。
そんなときだ。
ある町の教会に寄って
『聖樹』の街への行き方を
確かめようとしたときだ。
聞いたことがある声が
教会から聞こえて来た。
俺とユウは顔を見合わせて
教会に入るのをやめた。
そして、教会の近くで
身を潜めていると…
教会から、あの変態神父の
マイクが出て来た。
ユウを探しているようだった。
まさか、こんなところまで
追ってくるとは。
俺はとっさにユウを抱っこして
急いで教会を離れた。
今日はこの町で
宿を取るつもりだったが
移動した方が良いかもしれない。
もうすぐ夕方になるが
仕方がない。
俺たちは急いで
簡単な食料を買い、
町を出た。
町を出るには、
この時間帯からだと
徒歩になる。
だがユウは嫌がらなかった。
「ごめんね、ディラン。
今日はベットでゆっくり寝ようって
言ってたのに」
歩きながら、ユウが俯く。
「何言ってんだ。
あの変態神父が悪いんだろ?
ユウのせいじゃねぇよ」
頭を撫でてやると
ユウは少しだけ笑顔になった。
「疲れたなら、
抱っこしてやろうか」
そう言うと、
「子どもじゃないから
別にいい」
と唇を尖らせる。
そういうところが
幼いと思う。
この辺りはまだ王都からは遠く、
町から町へは、
細い街道しかない。
つまり…すぐに
森や山に入ってしまい、
野宿は厳しい状態になる。
夜の森は獣や魔獣が徘徊する
危険な場所だからだ。
だが。
最近の俺たちは
魔獣が潜むような森の方が
心地よく野宿ができるようになっていた。
何故なら…
ユウが『結界』を
張ることができるようになったからだ。
魔獣を寄せ付けない『結界』があれば
夜盗などに襲われる治安の悪い町で
宿を取るよりも森の方がよっぽど安全だ。
『結界』をどうしてユウが
張れるようになったのかはわからない。
俺と同じで、
ユウも成長しているのかもしれない。
ユウが初めて『結界』を張ったのは
たぶん、森での野宿を初めてしたときだ。
ユウは真っ暗な夜の森を怖がっていた。
俺が夜通し見張りをするから
大丈夫だとは伝えたが、
顔は強張り、脅えた瞳をしていた。
その時だ。
不意に、ユウの身体が光った。
その光はユウの体を包み、
一瞬、周囲の生き物の気配が消えた。
俺の感覚では、すぐに元の状態に戻ったが
ユウの身体からは<聖なる魔素>の
香りがずっとしていた。
あれはユウが自分の身を護るために
結界を張ったのだと俺は思っている。
次にユウが『結界』を張ったのも
夜の森だった。
その時のユウは、意図的に『結界』を
張ることに成功していた。
練習していた気配はなかったから
あの一度の偶然…のようなもので
あっという間に『結界』を張れるようになったのだ。
あの夜も、俺はユウの『結界』を
当てになどしてなかったし、
夜の見張りをするつもりだった。
だが、ユウは何故か
「一緒に寝ようよ」と
俺に強請った。
俺はユウに、夜の森は
野獣に襲われる可能性もあるから
見張りは必要だと軽く返事をした。
それは当たり前のことだったからだ。
すると、ユウは何か考えるように
自分の体に手のひらを当てて…
急にユウの胸から、
きらきらと光る何かが出て来た。
それが俺たちの周囲を囲み、
「これで、大丈夫」とユウは笑ったのだ。
その笑みは、上手くできたことを
褒めて欲しそうな顔だった。
俺はまさか、と思った。
『結界』というのは
『聖魔法』を使える人間にしか
発動できない魔法の一つだ。
しかも、その『聖魔法』を
使える人間は数が少なく、
俺の国で使える人間は
ほんの数人しかいない。
俺の国では
魔法は生まれた時から
使える人間と、
使えない人間が存在している。
魔法を使える人間は、
火、水、土などの属性の魔法の
いずれかを使えるように
生まれてくる。
魔法が使えない者は
魔力を込めた魔石を使って、
簡単な魔法を使えるようにしているが、
正直、魔法が使えても使えなくても
平民の生活はあまり変わらない。
もっとも、
魔獣などを狩るのであれば、
魔法が使える方がよっぽどいいが。
だが同じ魔法でも
闇と光の属性魔法は、別格だ。
扱える人間は、ほぼいないとされている。
ましてや、俺は『結界』を
張ることができる魔法師を今まで
見たことが無い。
聖魔法では、
そういうことができると
書物で読んだことはあるが、
実際にできるとは思っていなかった。
だが、ユウが生み出した『光』は
どう見ても『結界』だった。
俺が見ている前で、
光は俺たちだけでなく、
俺たちの周囲一帯を包み込んだ。
ユウの生み出した光の中は
何故か安心して、あたたかくて。
俺はそのままユウと眠ってしまった。
ユウのこの『結界』の
威力を知ったのは、朝になってからだ。
朝、おそらく俺たちを
襲うつもりだったのだろう。
数体の魔獣の死体が
俺たちのそばで転がっていたのだ。
……しかも、黒焦げになって。
ユウの『結界』に
触れたからなのだろう。
俺は驚いた。
昨夜は外だと言うのに
ありえないぐらいに
ぐっすり寝てしまっていた。
そして…
魔獣が襲ってきたと言うのに、
気配も音も、魔獣の声すら
聞こえなかった。
『結界』だけでもすごいのに、
ユウが張った結界は、
音も気配も遮断させるらしい。
俺は驚いた…が。
ユウには何も聞かなかった。
俺はユウのことをセイジョだと
思っていたし、
国を救うセイジョなんだから
これぐらいはできるのだろうと、
漠然と思ったからだ。
この日も森に入り、
焚火で暖を取り。
町で買った簡易食を食べた時だった。
ユウが俺のそばで、
「なんで何も聞かないの?
と、言った。
ユウは『結界』を張り、
手には…ぬいぐるみを抱きしめている。
「何が?」
と俺はわざと聞き直した。
「私が…結界張るとか、
おかしいと思わないの?
マイクが追いかけて来たこととか」
おかしい、か。
そうかもしれない、が。
「俺は別に変だとは思わないぞ」
「なんで?」
「ユウはセイジョなんだから
俺ができないことができても不思議じゃない、
というか、当たり前だと思っていたからな」
「当たり前?」
「あぁ、国を救うぐらいの力を
セイジョは持ってるんだろ?」
俺がそういうと、
ユウは……寂しそうな顔で笑った。
「そう…なのかな?
うん。そうだよね」
「……違うのか?」
だから、セイジョなんじゃないのか?
「私は…、
じゃあさ、ディランは私が
『聖女』じゃなかったら、
もう一緒には旅をしない?」
何かを言いかけて、
ユウは話を変えた。
「ユウがセイジョじゃなかったら?
……そうだな。
旅は一緒にするかもな」
「なんで?
ディランはセイジョを探してるんでしょ?」
「あぁ、だがお前を
このまま、ほっとけないだろう?
子どもは守られるべきだ。
俺のセイジョ探しは急いでないし、
それよりもお前があの
変態神父から逃げる方が大事だ」
本気で言ったのだが、
ユウは、笑った。
「マイクはね、いい神父さんだよ」
そして、そんなことを言う。
「だからきっと。
私を探しているんだと思う。
『力』がある私を求めて」
その大人びた微笑を見て、
俺は…なんとなく思った。
ユウは自分にある
セイジョの『力』を
持て余しているのではないか、と。
『力』など、
あってもなくても
ユウがユウであることは
何も変わらないのに。
ユウの『力』は
本人が望まないことであっても
『力』を求める者は
ユウに群がるだろう。
たとえ、ユウが
その『力』を疎ましく思っていたとしても。
俺はふいに、
ユウの心のあやうさに
気が付いてしまった。
そうだ。
ユウはまだこんなに幼い。
どんな『力』があったとしても
まだ守られるべき子どもだ。
自分の力に戸惑って
あたりまえなんだ。
……俺とユウは
似ているのかもしれない。
ふと、思った。
自分の記憶を信じられず、
旅をして経験を重ねることで
『俺』という人間を作り上げている俺と。
『力』があるから
求められてるのではなく、
ただの『ユウ』という個人として
生きていきたいと。
自分の生きる場所を探しているユウと。
俺たちは…似ているのかもしれない。
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